『協う』2003年8月号 エッセイ
健康に歳を重ねるために…千里の道も一歩から
市民生活協同組合ならコープ理事長 瀧川 潔
「早く大人になりたい」 …少年のころ、 自分にもそういう時期が確かにあった。 そんな感傷が、 口にほおばったアンズ (杏) の味と香りとともに、 ふわぁっと胸の中をよぎることがある。
それがどうだ、 今は 「歳はとりたくないな」 と思う、 そのような歳に、 もうなってしまっている。 「自分は元気だ」 と思い、 そう振舞っているのに、
座る際に思わず出る 「よいしょ」 の声に、 自ら苦笑する歳に、 である。
五〇歳になったころだったか、 つれあいが 「もうトシだから、 無理はいけませんよ」 といい、 「ああそうだな」 と軽く受け流したのだが、 無理をしても結構身体のことは注意するタイプで、
「これからは大事に」 と心に決めた。 そこで、 階段を二段ずつ駈け上がるのはやめ、 職場のプラットホームも迂回する、 等々、 あらゆるところで身体を 「いたわって」
いたら、 である。 ある日、 仕事を終え暗い道路を小走りで渡り、 歩道の段にポンととび乗ったら、 「くるぶし」 に異常を感じた。 軽い捻挫のようになったらしい。
「うーむ」 と感ずるところがあってしばらくして、 今度はその頃始めたゴルフのグリーンでのこと。 ヘボなので勾配を上下するのだが、 足が 「つった」 のである。
これで 「うーむ、 わかった」。
ようするに、 トシはとっても身体はいたわってばかりではダメなのだ。 トシをとるからこそ、 それなりに鍛えていなければ、 本当にどんどん弱くなってしまうのである。
それ以来、 日常ではできるだけ身体を動かし、 二~三階のエレベーターや駅のエスカレーターはやめて階段はしっかり登り、 倉庫のプラットホームも体勢を整え無理せず上がる、
つれあいが買ってほぼ放置状態のダンベルで体操もしてみる、 等々、 あらゆるところで身体の筋肉を、 きちんと意識しながら使うようにしたのだが、 効果はてきめんに現れた。
その後数年たち、 前から機会を逸していたのだが、 おばさまも結構多い職場の山登りサークルに加入を申し出た。 強健なリーダーが 「大丈夫ですかぁ」 というが、
「たぶん」 と応えて 「じゃ、 この夏、 白山でテストしましょう」 とご承認をえた。 そして当日、 列のまん中に入れてもらって半時間余り山を登ったところで、
思いがけなく早々に 「大丈夫です。 合格」 とリーダーから宣告を受けた。 登り方でわかるのだという。 おかげさまで、 おばさま方にも 「大型新人ね」 と声かけをいただき、
頂上は晴天、 雨や雷に会いつつしんどいながらも心から楽しい山行となり、 下山後の温泉でしっかりと心の洗濯もできたのだった。
あれから四年、 忙しいが冬はスキー、 夏には三千メートル級の山に一度は登ることにしている。