『協う』2003年4月号 視角

「就業形態の多様化」 をどうみるか
阿部 誠

 最近、 「就業形態の多様化」 をめぐる論議がさかんである。 パートタイムやアルバイト、 期間工、 派遣労働者、 契約社員など、 雇用契約の形態はさまざまであるが、 正社員以外のかたちで働く者が増大していることが背景にある。 新卒者のなかにも契約社員や派遣社員として就職するケースがみられるし、 若者の間でフリーターが増えていることも議論をよんでいる。 1999年の 「就業形態の多様化に関する総合調査」 では、 労働者全体の27.5%、 女性労働者の47.0%を非正規従業員が占めており、 非正規従業員はとくに女性が多い。
 パートタイム、 アルバイトや派遣労働などは、 サービス経済化のなかで働く人々の多様なニーズに対応した新たな働き方と理解されることが多い。 上記の調査によれば、 非正規従業員が現在の雇用形態についた理由は、 第一が 「家計の補助・学費を得るため」 (34.2%) であるが、 「自分の都合よい時間に働けるから」 とする者も32.8%を占めている。 しかも、 現在の就業形態を続けたいとする者が76.1%に及んでいる。 就業を希望する女性の多くが 「家庭と仕事」 という問題を抱えて、 フルタイム以外の働き方を選択しているとみてよいだろう。 就業ニーズや就業意欲の多様性に対応して、 とくに女性労働者に依存しているデパートやスーパーなどでは、 勤務時間・勤務体制や職務の内容・責任の重さに応じパートタイム雇用をいくつかのタイプに分けているところも少なくない。
 一方、 企業の側が非正社員を雇用する理由としては、 「人件費を節約するため」 が61.0%、 「景気変動に応じて雇用量を調節するため」 が30.7%で、 「仕事の繁閑に対応するため」 (29.6%) や 「即戦力・能力ある人材を確保するため」 (23.7%) を大きく上回っている。 このことは、 企業は、 業務の特性からフレキシブルな雇用形態を採用するというよりも、 非正規従業員を主として低賃金労働者で雇用の調整弁と位置づけていることがわかる。
 こうした企業の考え方が非正規従業員の労働条件などの問題に反映している。 非正規従業員全般について労働条件が劣悪であるということはできないが、 とくに女子パートタイムの賃金は、 女子の全一般労働者の約67%、 男子の正社員と比べると約4割という低水準であり、 しかも、 ボーナスや退職金、 福利厚生などを加えれば、 労働条件の格差はさらに大きい。 また、 スーパーなどではパートタイム労働者の一部に責任ある仕事をさせることも増えているとはいえ、 全体には十分な教育訓練も行わず、 定型的な仕事だけをパートタイムにやらせるケースが多い。 さきの調査ではパートタイム労働者の仕事への満足度は全般には高いが、 賃金や教育訓練などに対する不満は大きい。
 このようにみてくると、 就業形態の多様化は企業のニーズと労働者のニーズが一致しているといわれるが、 現実には、 家庭との 「両立」 をはかりながら働こうという主婦などが短時間就業を希望するのを受け、 企業が低賃金でフレキシブルに雇用できる労働者として活用している様子が浮かびあがる。 両者の求めるものには大きな違いがある。 非正規従業員をめぐっては、 研究者の間でも低賃金・不安定雇用の拡大という見方と働く側の就業ニーズに対応した働き方とする見方とが分かれる。 しかし、 「非正規」 という働き方が 「よい」 か 「悪い」 かといった議論は意味がない。 議論すべきは働く者の多様な就業ニーズを適切にとらえ、 それにふさわしい働き方をどのように整備するかということではないだろうか。
 働く者の就業意識や就業意欲は多様である。 しかし、 どのようなかたちにせよ、 働く以上は、 自分の能力を生かし、 「働きがい」 をもって仕事をしたいと考える人は多い。 パートタイム労働者の就業意欲もけっして低くない。 しかも、 働く者は自分の労働が公正に評価され、 それにふさわしい報酬を得ることを求める。 これらの点に正社員も非正規従業員も違いはない。 にもかかわらず、 現実には、 パートタイム労働者などは、 能力や働きがいなどが重視されず、 低賃金の使いやすい労働力と考えられている。 そこに問題がある。
 たしかに、 企業にとってパートタイムなど短時間、 短期間しか働かない者に責任ある仕事を任せられないということもあろう。 しかし、 そうした多様な就業形態で人を雇う以上は、 働く者の能力を生かし、 就業意欲を高められるような仕組みを用意する必要がある。 もちろん、 パートタイム労働者の均等処遇は今日の政策課題でもある。
 同時に、 「多様な就業ニーズ」 も中味の検討が必要であろう。 家事・育児をすべて主婦が担うことを前提とした 「多様な就業ニーズ」 であるなら、 それは問題である。 男女間で家事・育児を適切に分担するとともに、 保育などの社会的な仕組みを整備すること、 また、 労働時間短縮などを通じてフルタイムで働きやすい環境をつくることが求められる。 しかし、 フルタイムこそが 「本来的」 な働き方であるという必要はない。 仕事のやり方に応じて、 また働く側の意欲とニーズに応じて働き方を選択できる社会をつくりたいものである。

  
あべ まこと
 大分大学教授