『協う』2003年2月号 書評2


伝えられたものは“たわわに”実っているか
井上 英之
大阪音楽大学 教授


『夢たわわに
-生協思想を生きたおんなの半生』
永谷晴子著
現代人物書院 昭和62年刊 1300+税 

戦前の消費組合、 戦後初期の生活協同組合には、 キラ星の如く女性リーダーが関与していた。 与謝野晶子、 平塚らいてう、 奥むめお、 羽仁もと子・説子、 勝目てる、 丸岡秀子…は、 途中から関わりを絶つ。 これに対して一貫してリーダーシップを発揮した一群の女性たちが存在する。
  『夢たわわに-生協思想を生きたおんなの半生』 (昭和62年刊、 現代人物書院) の筆者永谷晴子は、 後者の典型であろう。 現在のコープこうべは、 戦前・戦後初期に小泉ハツセ、 島田薫に次いで3代目の婦人組織のリーダーを生み出すが、 それがこの 「生協法の申し子」 永谷であった。 昭和32年は嘱託であるが、 翌年以降は職員として組合員組織を担い、 常務理事も昭和37年から11年間つとめている。 そして日生協の前身である日協同盟中央委員 (昭和25年~26年)、 日生協理事は昭和28年から51年まで担っている。 残念ながら本年2月13日に93歳で死去されたが、 新聞訃報では 「生協の基盤を支える主婦組合員の組織活動を全国レベルで育成した」 と評価している。
 本書は、 女性リーダーが書いたものの中では最もおもしろく、 私にとっては大変に貴重な証言となっている。 永谷は夫の影響で消費組合に接近するが、 なんとその夫は元オリンピック選手で満州消費組合の職員であった。 しかも 『消費組合研究』 に一連の経営分析を発表していた永谷壽一である。 このため、 「東洋一の消費組合」 と言われた満消の実態が紹介されている。 そして 『婦人の友』 の友の会活動をもとにした協同炊事・協同保育、 縫いぐるみ人形の制作・販売が後の永谷の原点であることが判明する。
 戦後の神戸では、 闇物資の共同購入、 木の実や野菜を使った 「500カロリーで栄養のある副食講習会」、 主婦の手に職をと始めた鼻緒づくりや即席床屋、 経済自立をめざす婦人協栄会での輸出品ピンククッションづくり、 「タオル一枚でつくるパンツ作り」 や友愛セールなど、 実に多様な活動を展開する。
 こうしたことへの注目が 「家庭会再興のリーダー」 としての職員採用であった。 友愛金庫の解説、 島田薫の死を契機とした霊園づくり、 じゃがいもとダリヤの産直販売、 助け合いの 「四ツ葉会」 活動の創造、 協同炊事部の誕生、 統一家計簿づくりと家計グループの組織化、 リーダーづくりが追及されていく。 多面的な活動と同時に、 今日のワーカーズの原型もここにある。
 こうした活動を通じて永谷は、 共同と協同の違いをみごとに自分の言葉で確信をもって整理している。 永谷にとって夢はたわわに実ったのであろう。 後につづく者はそれを受けついで更に実らせたのであろうか。