『協う』2003年4月号 書評1

協同組合にとって労働者とは何なのか?
杉本 貴志
関西大学商学部 助教授



『キリスト教社会主義と協同組合
-E.V.ニールの協同居住福祉論』
中川雄一郎著
日本経済評論社 2002年6月 4400円+税

 キリスト教社会主義? E. V. ニール? 協同居住福祉? 正直言って、 本書のタイトルを見ても、 この分野を専門とする研究者以外、 食指を動かされるという人は少ないかもしれない。 そもそも、 協同組合の歴史によほど詳しい人でなければ、 タイトルからは内容を推測することさえ困難であろう。 事実、 本書はおよそ17年間にわたってこの分野で精力的に研究されてきた著者の、 現時点での総決算というべき書であり、 随所に学界に貢献する貴重な発見が散りばめられた重厚な学術書である。
 しかし評者は、 本書は実は協同組合運動の実践家、 協同組合の現場で働く協同組合労働者・職員にとっても、 挑戦しがいのある書物ではないかと考えている。 なぜならば、 今後は本書を読まずして、 協同組合が、 そこで働く人々=協同組合労働者を運動のなかにどう位置づけるべきなのかを理論的、 歴史的に語ることはできないだろうと考えるからである。 協同組合という事業体かつ運動体は、 自身の抱える労働者をどう位置づけ、 どう扱ってきたのか。 ニールに代表される19世紀のキリスト教社会主義者の協同組合運動から、 ICOM など現代イギリスの労働者協同組合運動に至るまで、 その流れが本書によって研究史上初めて明瞭にわれわれ読者に示されたといっても過言ではない。
 たとえば生協という協同組合が、 あくまで消費者が主体となる協同組合であり、 そこでは職員は消費者組合員の要求に応えるための存在であること (あえて言えば副次的存在であること) が今日ではいわば 「常識」 となっているが、 現代生協運動の直接の祖といわれるロッチデール公正先駆者組合や、 同時代のその他の協同組合には、 そうした消費者主権路線とは違って、 協同組合運動を協同組合労働者を重視した方向に導くべきだと主張する根強い潮流があった。 その代表が、 いわゆるキリスト教社会主義者であって、 彼らが中心となって、 イギリス生協運動の主流派とも言える CWS (卸売協同組合連合会) の路線=消費者路線との対立が続き、 やがてそれは ICA (国際協同組合同盟) の場にも持ち込まれることになるのである。
 結局この対立は、 キリスト教社会主義批判を展開したベアトレス・ウェッブが協同組合運動にも協同組合研究にも圧倒的な影響力を発揮し、 消費者路線の勝利に終わる。 それ故に今日の消費者生協運動が存在するのであるが、 著者は 『西暦2000年の協同組合』 におけるレイドロー博士の指摘や、 今日 「復活した」 労働者協同組合運動を紹介しながら、 そうした忘れられた過去を振り返ることの意義を説いている。
 専門的研究者以外には些か歯応えがありすぎるかもしれないが、 それでもぜひ紹介しておきたい専門書である。