『協う』2003年4月号 特集1
組合員の目を通し、 共同購入を鏡として
生協職員の求められる対応を考える
<はじめに>
長びく不況の中、 組合員の生活にも倒産やリストラ、 賃下げなどが厳しく影響しています。 注文用紙を前に 「これ止めておこうか」 と、 今までより1品、
2品少なめに書き込むことが多くなりました。 こうした買い控えが、 生協を事業面において圧迫しているのでしょうか。 生協だけでなく他のスーパーも同じかもしれません。
このような先行き不安を隠せない状況の中で、 組合員は生協に対し、 商品の確かさや価格の安さ、 商品の安全性などをもとめています。 また、 職員に対しても多くのことを望んでいます。
私たち組合員にとって、 生協とは日ごろ接している共同購入の担当者のことだと言っても過言ではありません。 担当者の組合員に見せる言葉や態度によって、 組合員の生協への思いも、
商品への思いも変わってきます。 生協に対する信頼をなくすこともあれば、 信頼が強まることもあります。 「生協の顔」 である担当者は、 組合員との関係においてどのような役割が期待されているか、
また現状はどうなのか、 今後どのような視点で取り組みを進めることが出来るのか、 について、 ならコープ, おおさかパルコープ, 京都生協の取材を行ない、
『協う』 編集委員会 「昼の部」 メンバー (組合員) と編集委員会の若林靖永 (京都大学大学院教授:マーケティング) で話し合い、 原稿をまとめました。
当たり前のことを当たり前に、
そしてプラス・ワン
まず、 組合員は担当者にどのようなことを求めているのでしょう。 取材した三つの生協で共同購入を利用する組合員にうかがったところによると、 きちんと挨拶が出来て、
時間通りに商品を下ろして、 商品の内容が間違ってなければいい、 約束を守ってくれればいいというものでした。 組合員はそう多くを望んでいるわけではないのです。
特に、 挨拶をするということは、 基本中の基本です。 なぜなら、 挨拶をすることからコミュニケーションははじまりますし、 何より、 きちんとした挨拶をされると、
誰だって気持ちがいいものです。 「奥さん」 ではなく、 名前を呼んで挨拶するというのは、 相手を一人の人間としてちゃんと遇するということでもあります。
次に、 約束を守るということも大事なことです。 それは、 共同購入をしている組合員にとって、 普段接する職員は、 担当者だけなので、 もし担当者が約束を守らなければ、
「生協は約束を守らない」 となってしまいます。 つまり、 組合員が普段顔を合わせる担当者は 「生協の顔」 であり、 組合員は、 担当者を通じて生協を見たり感じたり評価したりしているのです。
調査したある生協では、 荷卸の際に、 担当者が 「卵が入っていますよ」 と声をかけて、 組合員に商品を渡していました。 また、 発泡スチロール箱から商品の入った袋を出して渡す際には、
袋の口をねじって渡している姿もありました。 こうしたことを複数の担当者が実践していたのです。 私たちの中では 「そのちょっとした心配りがいいね」 という話になったのですが、
それが出来ていない担当者について組合員にはどううつるでしょうか。 それらのちょっとした心配りも組合員の求める基本的なことなんだと思います。
コミュニケーションをすすめることも
また、 別の生協では、 担当者の作っている担当者ニュースが好評でした。 組合員はニュースを出している担当者について、 「私たちとお近づきになりたい」
という気持ちを感じ、 自分も一歩近づきたくなると評価していました。 つまり、 組合員と積極的にコミュニケーションをとろうとする姿勢は、 組合員の求める基本に含まれると考えるべきではないでしょうか。
組合員の担当者に対する不満の一つに、 商品、 特に定番商品以外の商品の過度なお勧めがあげられます。 どうして、 苦情の出るようなお勧めを担当者がしてしまうのでしょうか。
原因の一つに営業目標があることが考えられます。 しかし、 苦情が出ないお勧めで営業目標達成のために努力することはできないのでしょうか。 それよりも、 担当者が組合員と本当の意味でのコミュニケーションが取れていない、
取ろうと工夫していないところにも原因があると思います。
コミュニケーションが取れていないことが原因で組合員の気持ちが生協から離れる例はほかにもあります。 たとえば、 商品に不備があった場合、 組合員が担当者に申し出ると、
たいてい返金処理されます。 問題は、 組合員の申し出を受ける時の担当者の対応の仕方です。 これが組合員の気持ちを左右し、 「言ってよかったわ」 ともなれば、
逆に 「もう言わないで我慢することにしよう」 「買わないことにしよう」 ということもあるのです。 組合員が商品の不備を伝える場合、 担当者に直接伝える場合がほとんどであることを考えると、
その担当者は組合員の不満や怒りを、 直接に見聞きしているのです。 そのとき、 口では 「わかりました」 と言いながらその口調や態度が不愉快な様子であれば、
それだけで組合員は 「もう言わないでおこう」 と思うようになります。 担当者が組合員の気持ち (思い) に沿うことなく機械的に対応しても、 実は問題は解決していないのです。
逆に、 組合員が商品に不満を感じても、 担当者が組合員の気持ち (思い) に寄り添い、 必要なコミュニケーションをとれたなら、 組合員の不満がこの人に言ってよかったという満足にかわることもあるはずです。
このように考えると、 組合員とコミュニケーションをとり、 組合員の気持ち (思い) に寄り添えるような対応のできることも担当者には必要であり、 組合員の求める基本的なことに含まれています。
さて、 本部はどうするのでしょう
基本があまりできていない担当者に当たった場合、 組合員はどうしているのでしょう。 多くの組合員は次の担当者に交代する時期を待っているようです。 たいてい一~二年で異動になるからです。
しかし、 共同購入は、 週に一回、 一年で52回、 これを、 担当者に不満を持ちつつ、 我慢するのはどうでしょうか。 言っても変わらないだろうなあ、 と思いつつ生活協同組合なんだから、
職員を育てるのも組合員の義務の一つと思っている 「生協ファン」 の組合員も確かにいますが、 そのことで生協本部の責任をあいまいにしてはいけないのではないでしょうか。
組合員から苦情の出る、 基本の出来ていないとされる担当者をシフトからはずし、 教育をし、 その上で、 元の現場に戻すことも考えられます。 実際にある生協では、
挨拶の出来ない担当者を、 数週間店舗に研修に行かせるそうです。 店舗では、 来店者があると、 いらっしゃいませと挨拶する、 このことからすべてをはじめているからです。
生協は、 共同購入の商品についてある水準に達しないものは、 厳しく吟味して組合員の信頼にこたえています。 その商品を配達する担当者についてもそうあってほしいものです。
それが組合員に対し責任をもったマネジメントだと思います。
II. ワン・トゥ・ワンの関係づくり
発信されつづけている、 組合員のくらし
生協は一般と違って消費者一人一人がはっきりと見えている 「小売業」 なのに、 その特性が十分生かされてきたとはいえないのではないでしょうか。 毎週、
同じ組合員に同じ担当者が面談できます。 この共同購入の特性を生かして、 組合員が望む担当者の基本に加え、 生協に対する満足度をあげる試みが出来るはずです。
長引く不況の影響で生協の共同購入事業は決して順調とは言えません。 今、 生協の共同購入の商品カタログを見てみると、 かつてのように組合員の圧倒的多数が利用する商品というのは少なくなり、
取り扱い商品の種類は物凄く増えています。 それだけ組合員の暮らしが多様化し、 ニーズも多様化していることの反映だと言えます。 その多様化しているニーズをキャッチするのは誰でしょうか。
言うまでもなく共同購入担当者であり、 その果たす役割はとても重要です。
基本的な組合員情報は加入時に生協に渡されます。 加入する時には住所・氏名・連絡先を書いて申し込みます。 共同購入の説明時には各家庭の状況を話して配達の曜日・時間を調整しているでしょう。
共同購入を始めたい人達にとっては今でも必要不可欠の話し合いのはずです。 この段階で他の流通業が簡単に手にいれることの出来ない情報がたくさん得られているはずです。
生協が持っている組合員に関する情報、 担当者が毎週の配達を通じて触れたり感じたりすることの出来る組合員の思いや暮らし、 こうした情報を生かした事業を運営しているでしょうか。
組合員一人一人のくらしに目を向けてみれば・・
私は約20年の共同購入でたくさんの人気商品や、 良い商品を担当者から教えてもらいました。 何よりも社会的な話のできる友達に飢えていた私にとって、 生協の様々な活動の場を教えてくれ、おかげでたくさんの友達にも恵まれました。
しかし、 今の共同購入の場ではどうでしょうか。 どの担当者も毎週顔を合わせ家族構成などの基本的なことはもちろん、 家族の勤務先・通学先・趣味・健康状態などを話す機会はたくさんあります。
一人一人の組合員に目を向けて関心を持てば話題を広げることが出来ます。 まず、 組合員に関心を向ける、 「よく注文しているものはなんだろう。 お気に入りの商品は?それはどうして?休んだりする時の理由は?」
など共同購入に関係することから話していくように心がけ、 暮らしを語り合うことが出来れば、 横並びで一律な対応ではなくなると思います。 結果として同じ対応だったとしても、
組合員一人一人は自分だけへの対応と感じ、 満足度が違うのではないでしょうか。 組合員にとっても 「生協さん・配達員・運転手さん」 などから 「00さん」
と一人の人格を持った担当者に変わっていきます。 正直に言って、 親密度が高まると組合員は、 あの人が薦めるのならと購入する商品が増える場合もあります。
職員もあの人 (組合員個人) が希望しているのなら何とかしてあげたいとの思いも強まってくるでしょう。
欠品の時もワン・トゥ・ワン対応のチャンスに転換できます。 一律に代替品を押し付けたり、 返金の処理をして終りですませないで、 いくつか選択肢を提示し、
相手の気持に寄り添うこと、 いわゆる、 その組合員が日ごろその商品をどのように利用していて、 どのように暮らしに生かそうとしているのかを思い描いてから声に出せば、
同じことを言ってもずいぶんと印象が違ってくるものです。 それは各生協で取り組まれている 「組合員の声」 を伝えるカードなどからもよく分かります。 各生協で
「良い事例」 として取り上げられているものの多くは、 担当者が組合員の暮らしに関心を持って、 一人一人の組合員をきちんと識別し、 それぞれに合った話題を選び、
商品のお勧めをしたり、 苦情にもしっかり耳を傾けている様子が見えます。 組合員一人一人を大切にし、 その人に思いを馳せている。 これが 「ワン・トゥ・ワン」
のすがたです。
組織全体のものとして
しかし、 良い事例として紹介されていてもそれは個人レベルの工夫として実践されている良い例であって、 組織全体で共有して (生協あげて) ワン・トゥ・ワンの関係づくりをめざしているとは必ずしも言えないようです。
その事例のどこに注目するのかが明確でない場合が多く、 ただ紹介するだけでは読み手によって変わってしまう可能性があります。 組合員の満足度を上げるためには職員の個人的な努力を求めるだけでなく組織としてレベルアップの目標としてワン・トゥ・ワンの関係づくりをすすめることが必要ではないでしょうか。
職場の組織風土づくりとして職員間のコミュニケーションも大切にしてほしいと思います。 担当者と所属長、 現場と本部の間でそれぞれのことを思いやり、 気持を受け止めることが大切ではないでしょうか。
その人がそう言うのはなぜ?どうして?どういうこと?と、 まず考えれば組合員の暮らしや職員の仕事が見えてくるし、 気持を理解してもらったと言う満足感がお互いの信頼につながっていきます。
ワン・トゥ・ワンの関係を職場のマネジメントとして取り入れ、 担当者はとことん組合員の要求に付き合い、 本部はどこまでも希望に添うべく努力をし、 出来ないことを前提にしないでなんとしても組合員の願いを実現する姿勢が大切だと考えます。
結果として 「出来る」 「出来ない」 はあると思いますが、 組合員には返ってきた結果の裏に透けている努力の跡が見えるものです。 そうした努力もなく、 何度も
「出来ません」 と一蹴されて、 何度もがっかりするうちに組合員は何も言わなくなってしまいます。 だんだん買わなくなってしまいます。 担当者にとってもせっかくの努力が報われず徒労感がただよい元気がなくなってしまいます。
これは担当者個人の資質や責任ではなく本部のマネジメントの問題です。
ワン・トゥ・ワンの関係づくりに取り組むことは、 コミュニケーションを通して組合員のニーズをつかみ理解し、 努力してえられた知識を事業運営に生かすことであり、
ひいては組合員一人ひとりの生協への信頼 (結集) を高めることにつながるのではないでしょうか。
II. 考えてみたい
パーミッション・マーケティング
パーミッション・マーケティングとは
現在、 生協では共同購入組合員を 「十把一絡げ」 でみて、 季節のお勧め商品やキャンペーン商品を、 班の中の 「個人」 が望んでいないことであっても押し付けようとする
「土足マーケティング (interruption marketing)」 をおこなってはいないでしょうか。 インターネット・ビジネスをはじめ、 一般企業でもとりくまれつつある
「パーミッション・マーケティング」 を、 生協と組合員個人との関係の中で考えてみたいと思います。
これまでの共同購入のシステムは、 昔の 「井戸端会議」 方式の関係をうまく利用したものであったと思います。 しかし、 前述したような 「ワン・トゥ・ワン」
の関係を重視した対応を進める上では、 プライバシーを尊重した対応の重視が求められる時代であることも認識しておかねばなりません。
パーミッション (permission) とは 「許容する」 「許可する」 という意味で、 顧客や消費者の許可を得て行なうマーケティング活動のことです。
あらかじめ承認 (許可) を受けた顧客や消費者に対してのみ勧誘や販売をするため、 反応が早く強引さを感じさせないという特徴があるといわれています。 企業と顧客の間に長期的な友好関係を築くのに有効な手法であるとされ、
ポータルサイト世界最大手の Yahoo! 社の副社長をつとめていた Seth Godin 氏が提唱した概念で、 個々の消費者や顧客の嗜好やニーズなどに合わせて一人一人個別に展開される
「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」 をさらに進化させるものということができます。 つまり、 顧客が望んでいないことを無断で突然押し付けるという、 消費者に対して一方的な
「土足マーケティング」 ではなく、 より親密で継続的な個人的関係を築こうというものです。
「見知らぬ通行人を友だちに 友だちを生涯の顧客にする」 という発想といわれており、 生協にとってのパーミッション・マーケティングとは、 拡大 (仲間づくり)
の側面では、 見知らぬ地域の住人を組合員にし、 かつ組合員を生協の大ファンにする活動といえるでしょう。
生協の新しいスタンダードに
生協と組合員のもう一歩突っ込んだ共同購入の展開のためには、 もう一歩踏み込んでパーミッションを得た上での 「ワン・トゥ・ワン」 の関係を作りが必要ではないでしょうか。
共同購入のシステムにおいて、 担当者はコミュニケーションによって個別に組合員個人の情報を聞くことが他の企業よりも容易です。 そこに、 組合員のパーミッションを得られれば、
より 「個」 に配慮した対応が可能になります。
しかし、 大事なのは組合員のプライバシーに踏み込むことと紙一重であることを自覚し、 ■生協内での組合員情報管理についてのルールを作る、 ■担当者自身がプライバシー保護について考え、
配慮のある対応をする、 ■組合員自身が考える許容範囲の情報を提供するというシステムを確立する、 などをすすめることが求められます。
それを踏まえた上で 「この商品はこの人にいい」 という各組合員に応じたお勧め、 つまり、 「ワン・トゥ・ワン」 対応することで生協の付加価値が生まれます。
パーミッションを前提とした 「個としての職員」 「個としての組合員」 として 「ワン・トゥ・ワン」 を深めていく関係を生協全体として展開していくことは出来ないでしょうか。
「個」 としての職員の成長を!
人間としての原点、 仕事人としての原点できちっと仕事をするということは自分の思いや尊厳、 一人の人間としての人権を尊重すると同時に、 相手の思い、 感情、
人権、 尊厳を尊重します。 そういうことが組合員と生協との関係において、 また、 職場の中での職員同士 (上司と部下、 同僚) などの関係においても大事にされるかどうかがこれからのキーワードとなるのではないでしょうか。
今まで、 丁寧で誠実な努力の積み重ねができていないから 「まずいな」 「もっとうまくやりたいな」 と思っていてもなかなか職場が変わらない、 なかなか組合員との関係が変わらないという時があると思います。
「個」 として組合員に向き合う担当者個々人のコミュニケーション技術 (力) が伴わなければ、 「パーミッション・マーケティング」 は逆効果になる危険性もはらんでいます。
パーミッション・マーケティングを成り立たせるためには、 まず生協全体が、 「個」 として確立されたパーソナリティを持った集団になることが大切であり、 ある意味で前提であるともいえます。
そのプロセスを大切に 「パーミッション・マーケティング」 を進めていくことで、 組合員は生協をより理解し、 より参加し、 より情報を提供するというような相手として信頼関係を深めていく、
いわゆる、 生協に対して更なる高いレベルのパーミッションでの関係を深めていくということになります。 そうして、 一生涯の生協ファンとなっていく、 そういう関係を深めていくことが可能ではないでしょうか。
これからの生協がそうなったらいいなと私たちは願っています。
〈文責〉
『協う』 組合員編集委員
田中薫 中本智子
武内タキ子 西村智由紀
岡本やすよ 森智子
編集委員会顧問
若林靖永
『協う』 編集委員会に3年間参加されていた、 岡本さん、 田中さん、 武内さん、 森さんは今年度をもって編集委員を降りられることとなりました。 最近でみれば 『生協の HP コンテスト』 02.04、 『カルフール訪問記』 01.10、 『組合員から見た商品づくり運動』 01.04、 などの執筆。 他にも 「くらし・人・地域・モノ」 「書評」 「シンポ・セミナー要約」 などで大変な力を発揮されました。 本当にご苦労さまでした。 - 事務局 -@@-"" -