『協う』2003年2月号 人モノ地域
人と人をつなぐ
史跡巡りスタンプラリー
-旭陽校区の地域コミュニティの展開-
岡本哲弥 (京都大学大学院経済学研究科 博士課程)
姫路市・旭陽校区では、 校区の連合自治会などの企画で2002年11月に同校区に点在する史跡を巡るスタンプラリーが開催された。 小・中学生をはじめ延べ4000名が参加し、
大成功の末に幕を閉じた。
今日、 地域コミュニティにおける活動のあり方、 また地域教育のあり方が問われている。 もちろん、 その答えを導くことは容易なことではないが、 旭陽郷土史跡スタンプラリーには、
地域コミュニティのあり方を考える上で、 多くの学ぶべき点がありそうだ。
史跡巡りスタンプラリー
旭陽郷土史跡スタンプラリーは姫路市の 「いきいき地域づくり推進事業」 の一環で企画され、 2002年11月2~4日、 9・10日の5日間開催された。
旭陽校区にある魚吹神社、 和久遺跡など史跡15ヶ所に石碑8本、 由緒看板7本が設置され、 そこがラリーのチェックポイントに設定された。 すべてのチェックポイントを周ると12キロメートルにもおよぶ。
スタンプラリー初日の開会式には、 300人の小学生を含め700人が参加し、 来賓の祝辞のほか、 和久遺跡発掘の責任者であった小柴治子氏が和久遺跡に関して講演し、
引き続き旭陽公民館の三和敏宏館長と旭陽小学校の上村富男教頭が動画ソフトを使って15ヶ所の史跡の紹介を行った。
スタンプラリーでは、 5日間の間に15ヶ所のチェックポイントのなかから8ヶ所以上を周り8個以上のスタンプを集めれば、 事務局のある旭陽公民館で播州音頭を紹介する冊子と記念品を受け取ることができる。
時折、 木枯らしが舞ったり、 みぞれが降ったものの、 ほぼ全日天候に恵まれ、 元気な子供たち、 親子連れ、 孫を連れたお婆さんなど、 みな思い思いに史跡を巡った。
なかには一度では飽き足らず何周もコースを周る子供達、 周囲の世話役の人たちに乗せられていつしか多くのチェックポイントを通過している80歳過ぎのお婆さん、
コース上で満開に咲き揃うコスモス畑に思わず見入る人々の姿もあった。 チェックポイントに待機する各町の自治会役員はスタンプを押すだけでなく、 自分たちの町の史跡への理解を深めてもらおうと丁寧に史跡の説明をし、
参加者は皆各史跡の謂われを知ることができた。 また、 旭陽小学校のパソコンルームが開放され、 開会式で紹介された史跡動画ソフトが、 20台のパソコンから閲覧できるようになっていて、
人気を集めていた。
ラリー開催中、 毎日700人前後の参加者が旭陽の町を歩き、 学区外からの参加者を含めると延べ4,000人もの人々が旭陽の町を歩き回ったことになる。
スタンプラリーの舞台裏
スタンプラリーの企画は、 2002年2月から 「旭陽いきいき実行委員会」 (20名) が中心となり進められた。 「後世にまで残るようなイベントにしたい」
との思いから今回の企画が浮上し、 郷土史研究を進めていた三和館長が事務局を勤め、 旭陽校区連合自治会および婦人会などの各種団体で実行委員会は構成された。
旭陽には魚吹神社のような名所もあるが、 もともと15ヶ所の史跡全てが、 地域住民誰もが分かるような形で存在していたのではなく、 歴史の掘り起こしから始まった。
旭陽校区は、 北は和久町から南は宮内町までの10の町で構成され、 史跡の発掘はこれら各町の責任で進めることになった。 例えば、 福井の自治会からの福井荘梵字型水路
(鎌倉時代に石見用水の末端の灌漑用水不足対策に考案された) など、 8町から史跡の提案があった。 最終的には、 郷土史家も交えて相談し、 主要な名所旧跡を含め15ヶ所の史跡が選定された。
当初、 消極的であった一部の実行委員も史跡発掘の取り組みが進むに従い、 スタンプラリー企画に積極的に関わるようになっていった。
スタンプラリー開催に先立ち、 2種類の史跡マップが制作された。 一つは下敷きの表に史跡マップが描かれたもので、 7月に旭陽小学校児童と同校区内の中学校生徒に配布された。
この下敷きの裏には旭陽校区のヒヤリマップがあわせて印刷され、 不審者の現れそうな場所、 飛び出し注意場所、 子ども110番の家が記入されている。 今回、
ヒヤリマップの作成にあたっては、 PTA の父兄が危険場所の洗い出しを全面的に行ったり、 市販の地図では情報が不十分なところを上村教頭がパソコンソフトを駆使して作成したりと、
マップ完成に向けて地道な努力があった。 ちなみに、 ヒヤリマップ付きの下敷きを配布した後は、 不審者の通報が全く入っていないという。
もう一つは関係者全員に配る史跡案内用である。 これら二つのマップの史跡のイラストは、 校区内の朝日中学校の美術部員8名が夏休み3日をかけて描いてくれたものである。
史跡動画のパソコンシステムは、 上村教頭と三和館長が担当した。 全ての史跡を周り撮影した映像をパソコンへ取り込み、 各史跡説明のナレーションを小学校の女性職員の協力を得て吹き込んでいった。
このようにスタンプラリー成功に向けては、 極めて多くの関係者の協力があり、 上に紹介したものも、 その一部に過ぎない。
スタンプラリーに学ぶこと
旭陽史跡巡りスタンプラリーは、 いろいろなことを我々に教えてくれる。
そもそもこの企画は、 旭陽の史跡を再発見するという趣旨で行われた。 この点については、 旭陽地域の子供達、 地域住民はスタンプラリーを通じて地域の史跡に直接足を運び、
触れることができ、 住み慣れた地域を再度見つめなおす機会を十分に提供できたであろう。
次に、 総合学習、 地域学習の視点である。 下敷きに描かれた史跡マップやパソコンの史跡の動画を通じて、 子供たちが事前に史跡について知ることができたことが、
地域の史跡を直接巡ることへの関心を促したと考えられる。 これは、 真に地域・歴史などについて学び、 深める方法を示唆しており、 今後の主体的・自主的な発展学習が具体性を帯びてきたのではないだろうか。
三点目は、 地域コミュニティのあり方の視点である。 今回の企画に向けての準備プロセスでは、 スタンプラリーという一つの目標に向けて、 各自治会 (町)
が、 史跡の掘り起こし、 企画の準備などに協力しあいながら主体的に取組んでいった。 このような成功体験を共有することで、 地域コミュニティの協力関係はより良くなり、
地域内の結束も高まったであろう。
このような三つの点を通じて、 古くから旭陽に住む人々だけでなく、 新たにここに移り住んで来た人たちを含め地域住民全員に郷土愛が育まれていくはずである。
スタンプラリー後しばらくして、 感動した参加者から旭陽公民館の三和館長のもとへ、 柿の実と葉の描かれた絵手紙が寄せられた。 この手紙は、 今も公民館の玄関に額縁に入れられ飾られている。
そして、 この一通の手紙がきっかけとなり、 現在、 公民館で 「絵手紙教室」 が開講されるに至っている。
旭陽の史跡巡りスタンプラリーは、 準備段階から次々と地域住民をはじめ多くの人を巻き込み、 人々の協力・協同が幾重にも重なりあいながら展開していった。
そして、 今も、 旭陽の人から人へのラリーは続く。 地域コミュニティの広がり、 深まりに対する潜在力を感じずにはいられない。