『協う』2002年12月号 視角

人びとのパートナーシップを実現するステージとしてのIT
野口 宏


 西暦2000年、 IT 革命のかけ声のもとで国家 IT 戦略がスタートを切った。 だが21世紀に入るやいなや IT バブルが崩壊し、 長期好況を誇ったアメリカ経済もあえなく失速してしまった。
 多くの論者は、 これまでの IT フィーバーが異常だったのであり、 IT 革命の序幕が降りて、 これからいよいよ本番の幕開けを迎えるだろうと論じた。 しかし幕を開けたのはニューエコノミーの申し子であるエンロン、 ワールドコムの破たんと一大スキャンダル劇であった。
 IT バブル崩壊は初期にありがちなフィーバーが醒めたというより、 もっと大きな歴史的な区切りを意味しているのではないか。
 これまで IT 革命はメガ・コンペティション、 グローバル・スタンダード、 金融自由化、 規制緩和、 巨大合併といったキーワードに結びつけられてきた。 そこにはビッグビジネスを生んだ19世紀の市場拡大の再来がイメージされている。 だがアングロサクソン型市場に世界を染めあげる2度目の歴史は茶番であろう。
 IT はけっして新たな流通チャネルなどではない。 IT はコミュニケーションの技術革新であって、 たんなる情報のやりとりを超えた人びとのパートナーシップを実現するステージなのである。 それを忘れると破たんしたドットコム企業の轍を踏むだろう。 21世紀の人びとのニーズは、 19世紀とちがって規格化されたマスプロ製品ではなく、 きめ細かく個性的に生活の質を高めることである。
 生活の質は広く教育、 文化、 福祉、 環境に関わっており、 市場で商品を選ぶだけでは満たされない。 それらをもとに消費者自らが参加してつくりだすものであり、 さらに市民としてコミュニティとしての解決が求められる。
 そこでは商品やサービスの生産性を高めるビジネスと、 コミュニティの生活者を代表する NPO と、 それらの土台を提供する公共部門の3者のパートナーシップが欠かせないであろう。
 地域のショップは文字通り消費者の生活の質を高めるパートナーになり、 さらにはコミュニティの再生の担い手にならねばならない。 地場産業もそれに結びつき、 地域循環をめざすべきであろう。 とりわけ NPO の創造的な発展は、 地域のメインステージになるであろう。 そして生活協同組合は、 まさにその原点が輝きを増すであろう。
 このようなパートナーシップの機はすでに熟している。 IT はまさに追い風である。 だが真にそれが進むには、 まだ多くの創造的な経験の積み重ねが必要である。