『協う』2002年12月号 書評2
eラーニングは、 教育の主流となり得るか?
荒牧 和弘
生活協同組合コープしが
常務理事
『eラーニングの〈常識〉』
森田正康 朝日新聞社
2002年8月 1100円+税
e ラーニング (=インターネットを使った教育システムのこと。) というと、 日本ではまだ耳慣れない言葉である。 しかし、 すでに欧米ではインターネットを使った、
大学教育や資格取得講座、 企業研修がすすんでおり、 日本でも先進事例がいくつか出始めている。 本書は、 e ラーニングの現在までの到達点と実際に使用してみた視点からの評価、
今後の可能性などに触れ、 最後に対談という形で教育のあり方論にまで及んで、 考察がされている。 わたしたちは、 インターネットを使ったビジネスの現状やくらしの変化にあまりにも無頓着である。
その意味から一読をおすすめする。
わたしが、 この本で印象的だったのは、 e ラーニングへのチャレンジが、 かなり進んでいることである。 アメリカではマイクロソフト社などが出資した 「カペラ大学」
など、 オンラインだけで修士・博士号を取得できる大学があり、 ハーバード大学、 コロンビア大学など既存大学でも分野は限定されるものの、 オンラインのみ、
または一部スクーリングを組み合わせて学位がとれるシステムを導入しているところも出てきている。 また、 企業研修においては、 IBM をはじめとして e
ラーニングは低コストで高い効果を生む手段として導入がすすみ、 日本でも日本マクドナルドやキヤノン、 トヨタ等がすでに導入をはかっており、 市場規模としては2005年には3100億円になるであろうと予測がされている。
しかし、 この本では実態として失敗もかなり多いことも指摘されている。 特に受講者が継続的に学習し続けることの困難さや受講者への対応や要望に応え切れていないことなど、
必ずしも順調にすすむとは言い難いことにも言及されている。 教育では、 そもそも一カ所に集まって行う行為自体にも意味があることを考えると、 e ラーニングのみの教育システムには疑問が残る。
ともあれ、 インターネットによるビジネスは、 わたしたちのくらしのあらゆる分野においてチャレンジされているのである。 IT 戦略への立ち後れが指摘されている生協陣営の現状からして、
的確な情報収集とともに対策の必要性を感じさせられた。
『eラーニングの〈常識〉』
森田正康 朝日新聞社
2002年8月 1100円+税