『協う』2002年12月号 書評1
「ひとり勝ち」 ではなく無数の 「一番」 を生む手法
赤澤 清孝
特定非営利活動法人
きょうと学生ボランティアセンター代表
『新版 コミュニティ・ソリューション』
金子郁容 岩波書店
2002年4月 2300円+税
コミュニティ・ソリューション (以下 「CS」) とは、 既存の組織が対応できないでいる様々な問題に対し、 コミュニティを作り、 情報の共有と共同資源化により問題解決するひとつの仕組みである。
冒頭では、 その例として指揮者のいない 「オルフェウス楽団」、 数多くの人が作成に参画したソフトウェア 「リナックス」 という 「2つのコモンズ」 を挙げ、
CS とは何かを説明している。 2例に共通するのは 「人々が自発的に集まり、 情報、 技術、 問題などを持ち寄る」 「共有された情報が編集され、 そのことでコミュニティの何かが変化し、
新しい関係や意味が出現する」 「持ち寄った情報や変化の経験が、 蓄積され、 共有資源となる」 「具体的な成果が上がり、 各自が果実を持ち帰る (それが誘因となって、
最初のステップに戻って、 サイクルが回る)」 ということである。 このサイクルがうまく回っていくためには 「自発的につくってきたルール (自生した規則性)
やロール (わりふられた役割性) が尊重されていなくてはいけない」 が、 「絶対的な権限において運営されていない組織においてこのルールやロールは、 みながそれを尊重するという意思がなければ意味がなくなってしまうもの」
だと指摘している。 このほかにも CS には 「意見の相違や混乱が起こってしまい、 非効率になる可能性」 や 「情報公開をすることによって情報の悪用やフリーライダー
(ただ乗り) が発生する可能性」 など、 いくつか問題点が指摘できる。 確かに不安要素になるような 「弱さ」 も存在するのだが、 一方で 「それを補う、
またはそれ以上の 『強さ』 があるのが CS」 だとしている。 例えば、 人の命令によって動くのではなく、 自発的に行動することは、 その行動・情報を制限せず、
その場でその意見をいち早く取り入れ利用することでお互いの中にみる目標の成果を共有し活かしていくという 「強み」 ともなり、 情報や技術は、 特定の企業や個人やグループに独占されるのではなく、
コミュニティ全体の共有資源としていつも利用可能という 「強み」 が生まれる。 こうした弱さを補い合うために関係をつくる (相互編集する) ことによって力と新しい価値を生むことも
CS の特性なのである。
IT の発達により生まれたインターネット社会は、 グローバライゼーションとコミュニティ指向という二つの極を同時進行させている。 本書は、 その一方の極であるコミュニティづくりに有効な手立てを提示してくれるだろう。