『協う』2002年10月号 視角

ホームレス自立支援法成立に思う
吉田 明彦
よしだ あきひこ
さまりたんプログラム代表

 先の通常国会で全会派一致で可決された 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法案 」 (以下、 自立支援法) について一文を寄せるよう、 編集部から依頼をいただいた。 私は昨年6月に発足したばかりの、 兵庫県西宮市内の野宿生活者支援を目指す NPO/NGO を代表しており、 この法案作成の過程に起こった、 運動家、 野宿生活者自身の中の推進派、 反対派、 慎重派の間の論争について多くを知るものではない。 しかし、 私のような者の視点からの意見でよいとのお話で、 ここに私見を述べさせていただくこととした。

  「いわゆるホームレスの自立の支援、 またホームレスとなることを防止するための生活上の支援」 を国・自治体の責務とした点において、 画期的な意義を持つ法律だと歓迎する向きがある一方、 この法律の運用の行く手に大きな危惧を抱く人々もいる。
 この法文に関しての議論には様々のものがあるが、 最大の論点は与党案によって盛り込まれた第11条〈公共の用に供する施設の適正な利用の確保〉(注)、 いわゆる公用地の使用に関する 「適正化条項」 である。 これを以ってして、 この法の本質は 「保安強化」 「野宿者の排除」 であるとする立場と、 運動によってこの条文が排除のために用いられることは防ぎうるとする立場が対立している。 私自身は、 この法を根拠に野宿生活者自身の主体性、 意志を十分に反映しない形での政策策定がなされた場合、 それに従わない人々に対してこの適正化条項が排除の根拠に用いられる可能性は否めないと考える。

 '90年代の NY においては、 ジュリアーニ市長の下、 ホームレスは激減した。 '87年にできたマッキンニー法によって連邦政府から潤沢な資金を得られるようになった NPO と市当局が連携し、 定住型の住宅プログラムなどを成功させた。 しかし、 それと並行して、 路上の物乞いの非合法化、 サウスブロンクスやブルックリンでの強制立ち退き、 夜間の市営シェルターへの強制収容 (しかも、 シェルター利用には条件としての労働が義務付けられた) などの、 野宿生活者の犯罪者視、 深刻な人権蹂躙が行われたことを忘れてはならない。
 右上がりの好景気を誇り、 NPO が大きな力を持った NY にしてこのような強権的排除が行われたのである。 構造改革という名の、 企業の生き残りをかけての弱肉強食競争が続き、 果てしない数の失業者が生み出されつづけている日本における 「ホームレス問題の解決」 とはどのようなものとなるだろうか。
 この法の目指すホームレス対策が、 官製の施策を野宿生活者たちに押し付けるようなものとならないよう、 「適正化条項」 を根拠に強権的な排除が行われないよう、 何よりも野宿生活者自身の声を聞き上げていく努力が行政によって行われるよう、 この法の運用の行方を見守っていきたい。

 さて、 看過できない点として、 自立支援法以前に問われなければならない問題を提起しておく。 憲法25条 (生存権の保障) とそれに基づく生活保護法 (特に1章の無差別平等主義と4章の居住地を持たない要保護者への現在地保護の義務付け) は明確に野宿生活者の生存権の保障を明確に謳っている。 さらに、 2001年の3月には厚生労働省は生活保護関係全国係長会議文書 「ホームレスに対する基本的な生活保護の適用について」 (通知) で、 野宿生活者からの生活保護申請を受理するよう全国の自治体に通達を出している。
 しかし、 全国の市町村の福祉事務所は 「まだ稼動力がある」 「野宿の場所、 小屋・テントは現在地とは呼べない」 などと言って、 野宿生活者の生活保護申請を受理せず、 軒並みこれらの法律・通達を無視し続けてきている。 まずこの違法状態の解決こそが改められなければならない。 新しい自立支援法が、 この状態の正常化につながらず、 むしろ逆に今の違法状態を覆い隠してしまうような効果を生むなら言語道断である。
 野宿生活者自身と市民の連帯・運動こそが、 なお求められているのである。

注:第11条 都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は、 当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、 ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、 法令の規定に基づき、 当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする。