『協う』2002年8月号 人モノ地域

地域通貨「おうみ」の取り組み

~持続可能なコミュニティの発展を目指して~
(京都大学大学院経済学研究科修士課程)
         松本 崇

 今、 テレビや新聞などのメディアで様々な 「地域通貨」 の取り組みが紹介されている。 そこで、 地域の様々なボランタリーな取り組みを紹介してきたこのコーナーにおいても、 地域通貨 「おうみ」 を発行し、 滋賀県で活動している NPO 法人 「地域通貨おうみ委員会」 の活動を取り上げることで、 地域通貨の取り組みを紹介したい。 今回は、 同委員会で従来より運用されている 「おうみ」 以外の新たな取り組みである 「ひとの駅」 と 「おうみありがとう券」 についても紹介する。

○地域通貨とは
 地域通貨とは、 その名の通り、 地域内の市民や団体から発行され、 その地域内だけで使うことのできる通貨である。 地域通貨は使うことのみに価値をおいた通貨であり、 貯め込んだりすることで利子がつくものではない。 世界では様々な地域通貨が発行されているが、 それらに共通する目的は、 地域通貨を媒介にして地域の人々が出会い、 自らの時間や能力、 そして物やサービスを出し合うことで、 内発的で持続可能な地域発展を目指しているということである。
 地域通貨の概念や歴史についての詳細は、 『協う』 2000年12月号の 「コロキウム」、 「くらしを見つめ直す 生活支援の道具としての地域通貨」 と題した山口洋典さんの論文をご参照いただきたい。

○ 「おうみ」 とは
  「おうみ」 は1999年4月に誕生した。 当初は、 市民活動を支援するための施設である 「草津コミュニティ支援センター」 を利用するためのチケットとしてスタートしたが、 施設の利用のためだけではなく、 広く地域づくりにも視野を拡げて、 地域通貨として活用されるようになった。 現在の地域通貨としての 「おうみ」 は、 NPO 法人 「地域通貨おうみ委員会」 によって運営されている。
  「おうみ」 を利用するためには、 まずユーザー会員登録をすることから始まる。 必要事項を記入した申込書と、 年会費500円を地域通貨おうみ委員会に提出し、 その際に100円を寄付するごとに1おうみを受け取ることができる。 「おうみ」 には 「1おうみ」 と 「10おうみ」 の2種類があり、 「1おうみ」 が100円の価値を持つとされているが、 実際に円に換金することはできない。 また、 現在流通している 「おうみ」 の量は 「6700おうみ」 にのぼっている。
 ちなみに登録の際の申込書には、 「達人リスト登録」 という項目があり、 ここには自分が提供できる物やサービス、 例えば 「私は自転車の修理ができます」 とか、 「手作りの野菜を販売します」、 といったことを記入し、 登録する。 またそれとは逆に、 「庭の草刈りを手伝ってほしい」 とか、 「犬の散歩をしてほしい」 というように、 自分が提供してほしい物やサービスを書き込んで登録しておくこともできる。 会員同士は90分のサービスに 「10おうみ」 を支払うことを基準にして、 サービスの交換を行っている。 また、 ユーザー会員同士のこうしたサービス交換の他に、 「おうみ」 に参入したタクシー会社や映画館では、 「おうみ」 を使ってタクシーに乗ることができたり、 映画を見ることができる。

○地域の人々のつながりをめざして
~ 「ひとの駅」 ~

 地域通貨おうみ委員会の新たな取り組みの一つが、 8月23日にオープンした 「ひとの駅」 である。 草津駅前の商店街の一角に開設された。 これはその名の通り、 「おうみ」 を使うユーザー会員など地域の人々が出会い、 交流できるための施設であり、 「おうみ」 を使うことができるお店として開設された。 開設時間は13時から22時までで、 そのうち前半の13時から16時までが 「おうみ」 を使っているかどうかを問わず広く地域の人々が訪れることができる時間であり、 「万屋おうみ」 としての開設時間となっている。 ここではフェアトレードの生活雑貨や環境生協の日用品、 そして古代米やオーガニック商品などの商品を揃えている。 そして開設時間後半の17時から22時までは、 「おうみ」 ユーザー会員のための時間として 「素菜」 としての開設時間となっている。 ここではユーザー会員のために野菜料理やこだわりのお酒などを揃えており、 それらを肴にユーザー会員同士が交流するための時間となっている。
 開設時間の前半は広く地域の人たちに 「おうみ」 を知ってもらうため、 あるいは地域でつくられた商品を紹介するための時間であり、 後半は 「おうみ」 ユーザー会員同士の交流の時間となっている。 だが、 厳密に区別しているわけではなく、 「おうみ」 を使っているか否かを問わず、 地域の人々に 「おうみ」 を知ってもらい、 交流しもらうための、 まさに 「ひとの駅」 としてこの施設は開設されている。

○地域経済の発展をめざして
~ 「おうみありがとう券」 ~

 地域通貨おうみ委員会の新たな取り組みの二つ目は、 この秋から開始する 「おうみありがとう券」 の発行である。 「おうみありがとう券」 とは、 ボランティア活動に対する報酬として発行されるチケットで、 このチケットで商店街で買い物ができるというものである。
 具体的な仕組みとしては、 まず地域通貨おうみ委員会が 「おうみありがとう券」 を 「琵琶湖ネット草津」 という草津川の整備を行う NPO に販売する。 琵琶湖ネットでは、 草津川の清掃ボランティアに参加した市民に 「おうみありがとう券」 をボランティアのお礼として配布する。 「おうみありがとう券」 を手にした市民は、 それを使って草津商店街連盟に加盟する350の商店で買い物をすることができるというものである。
 最終的に 「おうみありがとう券」 を受け取った商店は現金化することができる。 だが、 「おうみありがとう券」 発行の理念の一つは、 地域内での経済・資源循環を促進することで地域の活性化を図ることであり、 商店がすぐに現金化したのでは経済や資源の地域内での循環が促進される可能性は弱まってしまう。 商店が地域内の他の商店と、 あるいは地域の市民との間で物やサービスの交換をこの 「おうみありがとう券」 を使って行うことで、 地域内での経済や資源の循環を促進することができる。 そういう意味で、 「おうみありがとう券」 を使うことができる仕組みやマーケットを創造することが今後の重要な課題と言えるだろう。

○地域からの信頼と認知に支えられて
 地域通貨の目的は大きく二つあると思われる。 一つは地域内での助け合いの輪を広げることである。 そしてもう一つは地域内での経済循環を生み出すことである。 地域通貨おうみ委員会は 「おうみ」 を通じて、 地域内での助け合いの輪を広げることに成功し、 地域からも認められる存在となった。 そして次なる課題は 「おうみありがとう券」 を通じて、 地域内に経済循環を生み出すことである。 地域通貨おうみ委員会は、 この取り組みを行うにあたっての一つの大きな課題であった商店街連盟との協力関係を築くことができた。 これは 「おうみ」 の取り組みにより得た地域からの信頼や認知によるところが大きいであろう。 こうした地域からの信頼や認知を持続させ、 助け合いの輪のさらなる広がりと地域内での経済循環を実現させるためには、 「おうみありがとう券」 がうまく循環していくことが大きなポイントになるであろう。