『協う』2002年10月号 エッセイ
二人の 「師匠」
大阪よどがわ市民生活協同組合
理事長大西 一正
人生において 「師匠」 と呼べる人にどれだけ逢えるのだろうか。 私の場合、 これまでに少なからぬ方々から教えを得たが、 仕事の上での 「師匠」 といえばお二人である。
お一人は金森勝美さん、 私の最初の職場であった共産党地区委員会の委員長であった。 金森さんは職人肌の金型労働者出身であり、 非常に楽天的で粘り強く労働者そのものを感じさせたが、
政策にも明るく表現力も豊かであった。
七〇年代半ばはそれまで約十年余続いた革新勢力の発展を押し留める政治反動の嵐が吹き荒れた時代であった。 そうした困難な中で常に明るさを保ち、 組織を鼓舞激励し続ける金森さんに間近に接することができたことは、
青年期の私にとって本当に幸運であった。 様々な組織問題を抱える現場にも付いていったが、 金森さんの道理ある説得で問題解決の方向に討議がすすんでいる状況に、
整理のつかない私の頭の中は混乱した。 又、 闘いの教訓を政策化する論文も熱心に執筆しておられたが、 私は原稿用紙を走る金森さんの手にあるモンブラン (?)
の太い万年筆にも憧れた。
金森さんは半年間に亘るガンとの壮絶な闘いを終え、 この秋、 一周忌を迎える。
もうお一人はおおさかパルコープ専務理事の池晶平さんである。
私の所属する大阪よどがわ市民生協は九〇年前後の出店と独自路線による過大な経費増により急激に損益が悪化し、 九六年度には累積赤字生協に転落、 経営危機に陥った。
同時期の金融情勢の悪化も重なり借入金の返済に迫られ、 資金繰りに窮する状態であった。
ところが危機の渦中にある者程危機であることを認識していない。 実は危機であることを認識できた時点で質的な変化が生まれ危機からの脱却が本当に始まるのだ。
当事者がその気にならなければ何事も始まらないのである。 池さんはその当たり前のことを決して押し付けがましくなく、 根気強く教えてくれた。
お二人に共通しているのは強烈な自己分析力だ。 事実に対し謙虚であり、 裏表なく率直で、 昨今問題が表面化している深刻な偽装・粉飾事件などとは全く無縁である。
私もそうありたいと思うが、 何時も私心が顔を覗かせてしまう。 「師匠」 を必要とする所以である。 ただ日々是精進、 真剣に生きたいと考えている。