『協う』2002年8月号 書評2
地域を知り、 地域を生かす
名和 洋人
京都大学大学院
経済学研究科博士課程
『自立をめざす村
-一人ひとりが輝く暮らしへの提案』
高橋彦芳 岡田知弘著
自治体研究社
2002年7月 1,100円+税
過疎化が進み厳しさを増す農山村においては、 どのような地域発展モデルが適しているのだろうか。 従来は、 大規模公共事業の導入や企業の誘致による地域振興が試みられてきたが、
はるか昔に力を失っている。 このような限界を真摯に見つめ、 独自の村づくりに取り組んできたのが、 長野県北東端に位置する栄村である。 本書は、 同村の様々な取り組みを、
村長の視点と研究者の視点で紹介している。
そのなかで最も注目すべきは、 国の補助事業に頼らず、 村単独補助事業を各分野で実施したことだ。 例えば、 圃場整備の取り組みである。 農作業に農業機械を導入して久しいが、
これには圃場整備が必須条件となる。 しかし栄村では平地が少なく、 補助基準との不適合、 事業費の高額化がネックとなり、 一般的な国の圃場整備事業は導入困難であった。
この障害を打破すべく、 栄村は田直し事業 (村単独小規模基盤整備事業) に着手する。 これにより、 国の補助事業導入では10アールあたり100万円を超えた事業費を40万円以下に抑え、
同時に、 設計・工事を請負ではなく村内オペレーターへの委託という形を取って、 村外の大手業者ではなく地元建設業者に税金を環流させることに成功する。 同様に、
下水道整備や道路整備における事例も興味深い。
ほかにも、 経済的利益ではなく住民生活の向上を第一目的とする第3セクター方式産業振興公社の設立、 地域に適合した高齢者介護事業、 都市住民との交流活動など、
村民生活を支援する村独自の効果的施策が取り上げられている。 このような成功事例から、 その地域で繰り返し投資を行い、 地域内で雇用や原材料の調達を行う
「地域内再投資力」 形成の必要性が抽出されていく。
こうして巻末では、 中山間地域における望ましい地域政策が一般化される。 それは第一に、 地域産業政策は狭い意味での 「産業立地」 政策にとどまらず、
住民生活の向上や地域環境の保全に結びつく地域政策の一環とすること、 第二に、 インフラ整備にとどまらず地域内諸産業の連関を強め、 産業の発展を住民生活の向上と地域環境の保全に直結させていくこと、
第三に、 村民の自主的な活動を行政が適切に支援すること、 である。 さらに、 この政策の効果的運用に不可欠な地域住民主権・住民自治の徹底にも言及している。
このように本書からは、 中山間地域における、 あるべき地域政策のための知恵を豊富に学びとることができる。 と同時に、 国土保全や食料生産の未来を考えるとき、
また自らの地域を真摯に見つめる栄村の取り組みを知るとき、 農村部だけではなく都市部に住む人たちも、 本書から数多くのことを学ぶはずである。