『協う』2002年10月号 書評1

迫り来る未来社会がもたらすものは・・。
小林 智子
京都生活協同組合
理事長

『ネクスト・ソサエティ
-歴史が見たことのない未来がはじまる』
P・F・ドラッカー著 上田惇生訳
ダイヤモンド社
2002年5月 2,200円+税

 21世紀という新しい時代に向けて、 我が生協でも 「21世紀ビジョン」 を策定した。 そのなかで、 21世紀をどう見るという議論の結論は 「大きな変化の時代」 であった。 しかしその変化の中身、 30年後、 50年後の社会の予測に踏みだすことはできなかった。
 92歳になる著者 P・F・ドラッカーは、 わたしたちがギブアップしたテーマに大胆に切りこんでいく。 そしてその未来社会はわたしたちの予測を超えた異質な社会である。 「ネクスト・ソサエティ (次の異質な社会) においては、 経済が社会を変えるのではなく、 社会が経済を変えるのである。 その異質な社会はすでに生まれつつある」 と述べ、 次に来るであろう社会の姿を描いている。
 ネクスト・ソサエティにおいてもっとも重要な要因は人口構造の変化である。 わたしたちも日本の人口が2005年以降減少すると認識しているが、 高齢社会が問題ではなく、 実は若年者人口の減少によってさまざまな変化を生み出すのだという。 若年労働者の減少は、 必然的に高年労働者の確保を必要とする。 しかもその労働形態は多様な選択肢を持つものとなる。
 また、 ネクスト・ソサエティにおいて、 企業はこれまでとはまったく異質のグローバル企業となる。 あらゆる分野がアウトソーシングされ、 すでに雇用業務代行会社が急成長しているという。
 IT 革命は私たちにとって衝撃的であり、 その進歩のスピードになかなか追いつくことができないのが現状だが、 まだ大きな変化をもたらしていないと著者は言う。 今日までのところ、 前から存在していたもののプロセスを変えたにすぎず、 情報自体にはいささかの変化ももたらしていない。 今後 e コマースによって経済、 社会、 政治が一変し、 世界はひとつの経済、 ひとつの市場になると予測している。
 本書ですべて未来が予測できるものではない。 ビジネス界に最も大きな影響力を持つ思想家として知られるドラッカーでさえ 「予測できることは、 未来は予測しがたい方向に変化するということだけである。」 と述べている。 しかし 「急激な変化と乱気流の時代にあっては、 たんなる対応のうまさでは成功は望み得ない。 個々の変化に振り回されてはならない。 大きな流れそのものを機会としなければならない。」 とも述べている。
 ドラッカーの言葉の持つ意味は重い。 やがて来るであろうネクスト・ソサエティのなかで、 わたしたちは人間らしいくらしを創り出すことができるのだろうか。 楽しみでもあり、 不安でもある。