『協う』2002年8月号 特集1
「21世紀型生協」をめざす
● 首都圏コープ事業連合 ●
(広島大学生物圏科学研究科) 田中秀樹
はじめに
本研究所に、 「現代生協研究会」 が発足した。 本研究会の背景には、 まだ個人的仮説ではあるが、 「大規模化=企業化した現代生協」 は、 1960年代以降に発展した旧来の市民型生協運動
1 とは、 組合員の階層的基盤から組織・事業を含むトータルな型として質的に異なるものへと変化し、 同時に、 その現代生協は、 組合員基盤とコミュニティの差異や生協の個性的取り組みの中で、
幾つかの個性的な生協類型として現れているのではないかという問題意識がある。 でき得れば、 そうした現代生協類型の中から、 21世紀の生協像とその展開方向への示唆を得たい。
すでに、 共立社鶴岡生協、 そして首都圏コープ事業連合と、 2つの調査に取り組み、 今後も研究会メンバーで幾つかの生協を訪問する予定である。 今回は、
近年個配で注目されている首都圏コープ事業連合について、 調査結果をまとめておくことにした。 まだ、 1回の訪問であり、 中間的で個人的なまとめである。
調査に快く、 しかも長時間にわたって対応していただいたゆめコープと首都圏コープの方々に、 最初に感謝申し上げたい。
1. 首都圏コープ事業連合の歴史とタイプ
-「弱小生協による事業連帯」
いきなり 「弱小生協」 とは失礼とは思うが、 「弱小生協による事業連帯」 は、 首都圏コープ事業連合を理解するキーワードのようである。 この 「自己規定」
2 の意味を理解するには、 その歴史から知る必要がある (以下、 本章の 「」 引用は首都圏コープ事業連合発行 「首都圏コープ20年史」 より)。
1960年代後半以降に高揚した市民型生協運動にも幾つかの系譜があるが、 首都圏コープを構成する単協の前身生協は、 いずれも日生協主流からはずれる 「アウトロー的な生協」
であった。 つまり、 日生協が 「拠点生協づくり」 による県内合併を提起した時 (1976年)、 それに飲み込まれるか、 あるいは 「相手にもされない弱小生協」
群だったのである。 そこから、 「弱小生協の存続をかけ、 小さな地域生協どうしの連合会」 の模索が始まる。 この連合の模索は、 まず、 77年の首都圏生協事業連
(未法人) の結成につながるが、 この連帯は、 「生き延びるための連帯」 であり、 自己防衛的な 「ゆるやかな連帯」 にとどまった。 この、 言葉を換えれば
「あいまいな連帯」 が、 注文書をコンピュータで自動的に読み取る OCR や商品統一という 「近代化」 に踏みだしたのが80年代後半であり、 89年の首都圏コープ事業連合の結成、
翌年の法人化へと展開する。 法人化がユーコープ事業連合と同時期であり、 最も早い時期のそれであることに注目しておきたい。
法人化を契機に、 商品とシステム統一をめぐる 「大論議」 の末、 連合への 「一体化」 が進む。 首都圏コープの性格は後にふれるが、 「一体化」 と表現される、
強固なシステムと商品の統一が特徴的である。 その背景には、 拠点になる生協がなく、 「連帯の前提は意見の違い」 という状況があり、 まさに 「大論議」
の末、 一体的連合が形づくられたのである。 つまり、 小さな単協資源を持ち寄った強固な一体的連合が形成された。 この点が他の事業連合と比べた時の特徴であり、
「意見の違い」 を前提にした制度化が課題となり、 単協個性保持 (組合員活動家のリーダーシップを含む) と強固な事業連合の関係性へとつながる。
同時にこの法人化と相前後して、 地域別連帯も同時進行し、 地域ごとの合併が相次ぎ、 県内合併が概ね実現しつつある。
2. 個配-個人対応型事業の模索と展開
法人化前後、 88年から90年代前半にかけては、 個配事業の模索の時期である。 個配は、 今でこそ全国に普及しているが、 業態としての開拓は首都圏コープが何歩も先んじた
3 。
88年に個配事業研究が始まるが、 その背景には、 女性の就労化、 社会の個人化傾向の他、 生協間競合の激化のもとで、 実態としての1人班の増加もあったという。
とりわけ、 激戦区となった多摩地区などで1人班が増加し、 ジョイコープで個配が先行した。 すでに OCR、 個人別ピッキングなど、 個人対応型技術も成立しており、
それを基盤に1人班を積極的に位置づけたのが個配であろう。 他の拠点大生協に比べ、 商品仕入れ値などの格差構造のもとでの弱小生協の厳しさを背景に、 他生協が共同購入へのこだわりを捨てきれない中での、
早期の個配選択であった。
90年代前半にかけては 「個配の実験時代」 である。 93年には共同購入の補完ではなく、 個配の事業的価値を確認し、 連合会事業に位置づけ、 95年には、
独自商品案内作成や配達委託など、 業態確立に向けた戦略的取り組みを開始している。 98年には個配と共同購入の供給高が早くも逆転した。
こうした個配の急速成長を支えたのが、 後に“パートナーシップ”と理論的位置づけを与えられる配達委託である。 配達を業者に委託することで生協は組合員拡大に業務を特化でき、
人事マネジメントに悩むことも少なかった。 配達は単協業務であり、 単協によって異なるが、 たとえば、 神奈川ゆめコープでは配達の98%が委託、 つまり、
センターにはセンター長とエリアマネージャーが正規職員として配置されているだけである。 東京マイコープは、 配達正規職員比率が最も高いが、 それでも3分の1にすぎない。
こうした配達委託に対しては、 生協と業者とのパートナーシップなどという形で、 21世紀戦略につながる積極的位置づけもされているが、 同時に、 そこには幾つかの問題を有することも自覚されている。
ひとつは、 継続的な職員養成の問題であり、 2つには、 その結果としての組合員意識の問題である。 前者は、 委託業者はその業界の特質から若年者が多く職員の交代が頻繁で、
人材育成が困難である。 したがって、 個配の拡大要員が不足し、 自前で養成しない限り、 拡大に遅れをとる可能性がある。 後者は、 その結果とも言えるが、
もともと脱退が多い個配業態において、 便利さの説明中心で生協の説明をしない、 生協価値が浸透しないことになり、 生協についての教育が必要となる。 この後者の組合員意識問題は、
個人単位の生協組織・運営という21世紀型生協戦略 (後述) を描く上でアキレス腱になりかねないと思われる。
首都圏コープの個配事業のもう一つのユニークな点は、 ライフステージ別商品カタログを作成していることである。 子育て階層に中心をおいた従来の商品カタログ
「マイキッチン」 に加え、 赤ちゃん1人のより若い夫婦階層をターゲットにした 「YUMYUM !!」、 そして、 単身世帯や中高齢小家族向けの 「kinari」
の3種類のカタログが現在発行されている。 どの商品カタログも、 最初のページ (「表紙では物を売らない」) と最後の 「おしゃべりジャーナル」 ページが個性的であるが、
とりわけ、 若い夫婦対象の 「YUMYUM !!」 は、 層としては小さいが育児をめぐる悩みの多さ、 深刻さを反映して、 「おしゃべり」 にエネルギーがある。
さらに今後、 高齢世代向けの第4のカタログ構想もあり、 これは福祉助け合い活動と連動しそうである。
個配からスタートした首都圏コープは、 現在、 グループ利用も含め、 「戸ではなく個を対象」 とした個人対応型事業 (パルシステム) を積極的に展開し、
その延長線上に個人単位の生協・運営という 「21世紀型生協」 像を描き出そうとするところにまで至った。
3. 首都圏コープ事業連合の機能と性格
(1) 事業連合の事業構造
首都圏コープ事業連合の会員は、 首都圏1都6県にまたがる9つの地域生協である 4。 2001年度のシステム統一会員生協の総事業高は約1199億円、 うち事業連合供給高は899億円、
共同購入は約338億円で減少傾向にあるのに対し、 個配は約832億円 (71.1%) で、 すでに個配が7割を越えた。 個配の前年比伸長率は1996年度162%から2001年度の112%と減少傾向にあり、
他生協が個配参入する中での競争激化が影響し始めている。
事業連合の理事会構成をみると、 意思決定と執行を分離し、 常勤理事は理事長と専務の2人のみで、 6人の執行役員 (各本部長クラス) は 「理事でも職員でもなく」、
理事会が任命する。 また、 他の理事は全員単協代表理事で、 事業高に応じて理事の数が決まる。 ちなみに東京マイコープが4名、 神奈川ゆめコープ3名で、
組合員出身理事が理事会の多数派を構成している。 単協理事長に女性組合員理事長が多いこと、 商品政策論議の場 (連合理事会、 パルシステム推進会議、 商品活動委員会など)
での組合員も参加する 「大激論」 など、 組合員リーダー層の参画とレベルの高さが印象的である。
また、 事業連合傘下のグループ企業の存在形態もユニークな点が多い。 (株) ジーピーエスは青果と米についての商品部機能を受託 (日常的に連合会商品統括本部商品部産直グループと政策の意思統一は勿論、
業務執行の連携を密にして進めている) し、 実質的に首都圏コープの青果担当といって良い。 別会社化した理由は、 首都圏コープからの自立性を担保するためであり、
自立した意志決定 (「生協の意思決定が遅い」) と生産者側の論理 (スピードや決算など) にも立て、 産地規模の拡大に貢献してきた。 5%程度は他生協にも荷を流している。
連合の青果は産直が原則で、 受注量と生産量のアンバランスで不足した時などは、 全農越谷・大和などの市場経由 (産地指定) 品での代替えが3~5%近くある
(天候による生産量の増減により左右される)。 又、 代替えできない場合は欠品もある。 代替制度はかなり以前からあるが、 5年くらい前に代替え基準を作成し
(公表されている)、 その基準に基づいて運用されている。 産直産地は生協の急速拡大に比例して約70産地くらいから170産地程度まで拡大してきたが、 「産地は切っていない」。
また、 最近注目されつつある産地での公開確認会を、 組合員が監査人講習会に参加する中で3年前から取り組み始めた。 有機認証などの第三者認証に代わる、 当事者同士による二者認証であり、
産地での栽培記録・管理をふまえた自己公開への監査である。 すでに監査人100人程度が認定され、 今後は、 第三者機関による事前監査も含めた2.5者認証的なものが展望されている。
その他のグループ企業では、 インターネット事業の開発に関わる (株) コープネクストがあり、 ホームページ上で 「ココネット・コミュニティ」 というインターネット上での
「コミュニティ」 運営等を担当している。 首都圏コープ組合員のインターネット登録者はすでに5万人規模で、 特に都市部や神奈川で多く、 また、 ココネット・コミュニティは2万人の登録、
うち半数は首都圏コープ外の組合員である。
(2) 商品とシステムの連帯
首都圏コープの事業連合の特徴として、 「一体化」 という言葉に象徴される強固な連合であることがあげられるが、 その内容は、 商品とシステム、 基幹物流の統一と連帯である。
まず、 商品については、 「99%が連合、 単協は1%」 (会員生協平均) というように、 商品部機能は連合に集中した。 ちなみに、 ゆめコープでは商品担当職員は1名である。
一般的には、 商品部機能が連合に集中することには以下の問題がある。
まず、 単協の商品政策機能が、 職員、 組合員共に低下し、 とりわけ組合員が商品政策過程から疎外される傾向にある。 しかし、 首都圏コープにおいては、
「組合員リーダー層の参加意識と力量の高さ」 に際だった特質があり、 商品政策への組合員参画においても同様である。 ゆめコープ理事長の金子さんが、 「ゆめコープの商品部が首都圏コープ」
とおっしゃっておられたのが印象的である。 もともと、 連合の形成過程に象徴されるように、 各単協資源の一体化と 「意見の違いを前提とする大激論」 がその後の連合にも体質化されており、
それぞれの単協にとっての連合は、 単協商品部に近い意識となっているのではないか。 また、 組合員活動家層のレベルの高さの背景には、 商品統一過程での大激論の結果、
「どちらかと言えば職員の力というより組合員の力でこの商品統一が実現できてきた」 ことなど、 職員集団の力量が伴わなかった反面、 組合員の力量が高かったこと、
また、 小規模であることから組合員の参画のチャンスが多かったことなどがあげられよう。 こうした組合員活動家層の蓄積をふまえ、 21世紀型生協につなぐものとして、
「組合員自らが動かす生協」 像が提起されている。
第2に、 地域性や食文化の違いによる単協独自商品の問題があり、 単協商品部機能を残し独自商品を維持する必要、 すなわち 「二重商品部」 問題につながる。
この点でも、 ゆめコープに見られるように、 ほとんど単協商品部機能は残されておらず、 商品統一のレベルが高い。 この点では、 「食文化の違いは県別よりステージ別」
とのことであり、 首都圏の組合員、 とりわけ、 他生協に比べて、 若く学歴も高い組合員を組織しているという、 首都圏の組合員階層の特質があるように思われた。
次に、 システム連帯であるが、 注文・物流システムは、 配達業務のみ単協機能であるが、 配達前の物流はすべて連合に統一している。 配達業務のアウトソーシングはすでにふれたが、
それ以前の物流、 セットセンターについても委託であり、 連合はオペレーション機能のみ担っている。 また、 経理システムも統一したが、 基本的には単協からの業務委託関係にあり、
選択は単協に任されている。 人事システムについても統一化をめざしており、 大単協から統一の方向を現在志向しているとのことである。
4. 21世紀型生協へのチャレンジ
-「組合員が動かすパートナーシップ型生協」
首都圏コープ事業連合は、 個人対応型事業の展開をふまえ、 その延長線上に 「21世紀型生協」 像を積極的に描き始めている。 1998年度から始まる 「首都圏コープ個配研究会」
「コープ研究会」 とその延長線上での 「21世紀コープ研究センター」 など、 その中で 「21世紀型生協」 が検討されてきた。 事業面だけでなく運動面においても、
つまりトータルな生協像として、 21世紀の生協運動につながる戦略を議論している生協がどれほどあるのか疑問に近いものがあるが、 首都圏コープは、 21世紀型生協像を描き出すだけでなく、
その戦略について全国の生協にも問題提起を投げかけており、 誠意を持って議論に参加する必要があろう。
まず、 首都圏コープの21世紀型生協像であるが、 その中心点は、 「個人対応型事業の延長線上での個人単位の生協」 であり、 イメージとしては 「組合員が動かすパートナーシップ型生協」
であると思う。 ポイントは、 個人と生協との関係が、 「個人がいて生協がサポートする」 5 という関係であり、 個人の主体性を重視して生協組織が組み立てられていることである。
子育て家族など、 同質的組合員像をベースとした生協から、 個人化と異質性をベースとした生協像への転換であり、 同時に 「組合員が動かす生協」 であることを積極的に提起する。
生協組織論としては、 「個人単位の参加」 がベースであり、 組織や活動の 「生協内完結」 から 「開放型」 へ、 また、 班に代わって、 「個人単位の協同」
「協同ネットワーク型組織」 を生協の基本単位として位置づける。 同時に、 地域社会を積極的に位置づけ、 「協同型コミュニティの形成」 を21世紀生協の社会的責任として取り上げていることも興味深い。
この点では、 すでにゆめコープが、 個人対応パルシステム事業 (連合事業) の他に、 コミュニティ事業、 福祉事業という3つの基本事業の位置づけをしており、
後者2つは単協固有事業である。 ゆめコープのコミュニティ事業は、 「くらしの願いの事業化」 をめざし、 「コープ You & Me カレッジ」、 市民活動支援、
助け合いの 「ゆいネット」 等、 多様な取り組みが始まっている。 こうしたパルシステム以外の事業は単協実践であり、 単協個性が強い。
「個人がいて生協がサポートする」 というときの生協事業論としては、 パートナーシップとプラットフォーム型事業がキーワードである。 この点は、 首都圏コープ固有の業務のアウトソーシングの深化と関連し、
それを積極的に位置づけようということであろうが、 近年の生協事業のアウトソーシングの拡大から言えば、 普遍性を持つテーマでもある。 パートナー (下請けではなく)
の対象は、 アウトソーシング業者、 職員集団 (労働者協同組合化も含む)、 組合員の労働参加形態などがあげられ、 プラットフォーム型事業とは、 「プラットフォーム上に自らの技術やノウハウをオープンにし、
それを利用するパートナーとの提携を推進しよう」 というものである。 関連して、 全国の組合員資源や配達インフラなど、 生協事業インフラの社会的開放も提起されている。
5. 21世紀型生協の論点
-個人と協同、 アウトソーシングと生協労働、 普遍性
21世紀型生協像の紹介は以上にとどめて、 幾つかの論点を整理しておきたい。 ひとつは、 個人対応型事業・生協組織論と協同型コミュニティの関連であり、
普遍的なテーマとして言えば、 個人参加・個人利用と協同の関係である。 共同購入や班へのこだわりは、 直接的で 「リアルな協同」 へのこだわりであり、 また、
個配に脱退が多く協同への接点や戦略を描きにくいことが、 個配参入へのためらいとして多くの単協にあったように思われる。 その戦略を描くことのない、 なし崩し的個配参入はどうかとも思うが、
ここでの問題は、 個人と協同の関係である 6。 利用を個にばらし利用に協同を内包できない以上、 他の場に協同の契機を見つけるしかない。 商品カタログの
「おしゃべりジャーナル」 や 「インターネットコミュニティ」 は出会いの場、 協同の契機として機能するだろうが、 それはリアルな継続的協同ではない。 協同はあくまでリアルで一定の持続性を持つ人間関係ではないだろうか。
リアルな協同の場としては 「協同型コミュニティ」 や福祉助け合い事業が大切だと思われた。 市場は消費に浸透し、 個別化された個々を生み出し、 社会や共同・協同を解体する。
消費は私的で私事であるが、 しかし、 具体的な生活は、 ある場所における人間の多様な活動による 「人間存在の空間的形態」 7 であり、 社会空間や公共空間を創造する起点である。
ある場所での活動やくらしが生活空間や社会空間を満たし、 具体的な豊かな他者関係が地域空間を満たすのが 「協同型コミュニティ」 のイメージではないかと思う。
2つには、 パートナーシップに関わるアウトソーシングと自前の職員集団の位置づけの問題がある。 首都圏コープにおけるアウトソーシングの拡大は、 そもそも小規模で単協資源の少ないところから出発したのであるから、
外部の力を積極的に借り急速拡大した結果でもある。 さしあたり2つの論点がある。 まず、 職員集団の位置づけをめぐって、 労働者協同組合か生協労働者かという論点である。
私の考えは原則的に後者であり、 この点についてはここではこれ以上立ち入らない 8。 2点目は、 アウトソーシングの領域とレベルに関わり、 逆に言うと自前の職員養成がどこまで必要かという論点である。
組合員と職員との接点である配達業務が単なる配達ではなく、 職員にとって、 くらしとの接点であり声を聴く場であるように、 首都圏コープにおいても配達に関わる自前の職員養成や生協内での
「ノウハウの蓄積」 9 の必要性までは否定されていない。 この点での結論を持ち合わせていないが、 考える視点としては、 生協労働者とは何か、 生協労働の専門性の内容分析をふまえて分業のあり方を考えることではないかと思う。
生協労働の 「生活支援労働」 としての性格をふまえ、 他の専門労働との分業のあり方を整理してみる必要があろう。
3つ目の論点は、 首都圏コープの描く21世紀型生協像が、 全国的・普遍的生協像かどうかという点である。 ふだん広島で中国山地の農村を見ている者にとって、
首都圏コープの地域性との違いはショックに近いものがあり、 大都市圏の組合員をベースにした生協像というイメージが強い。 もちろん、 時代を踏まえた普遍性、
共通性は存在するが、 今後、 福祉やコミュニティ事業が展開していくと、 地域性やコミュニティの違いは生協像の違いとなって現れてくると思う。 共立社鶴岡生協の調査を踏まえてもその実感が強い。
1 市民型生協運動とは、 歴史的存在形態としての、 1960年代後半以降の日本で発達した、 都市の消費者を担い手とした生協群である。
詳しくは、 拙稿 『消費者の生協からの転換』 日本経済評論社、 1998年、 参照。
2 『首都圏コープ20年史』 首都圏コープ事業連合発行 (1997年、 16ページ) の中で 「法人化の3タイプ」 が分類されており、 それは、 ■ずば抜けて力のある生協を中心とした連帯、
■力のある生協同士の単協連帯、 ■弱小生協同士が 「連合会」 を中心に連帯するタイプである。 この第3タイプは、 「会員の中に核がない以上、 連合会そのものを核として、
そこに経営資源を集中して強める以外方法はな」 く、 「連合の一体化」 へと展開する。
3 より詳しくは、 若森資朗 「首都圏コープグループの個人宅配からパルシステムへの変遷」 ( 『生活協同組合研究』 318、 生協総研、 2002年7月)
を参照されたい。
4 うち8つの地域生協はシステム統一の A 会員であるが、 他に商品利用のみの B 会員として神奈川のナチュラルコープがある。
5 『1999年度コープ研究会報告書』 首都圏コープ事業連合コープ研究会。
6 個別化、 個人の自立化と協同、 もしくは古い共同との関係については、 拙稿 「現代消費社会と新しい協同運動」 (中川雄一郎編 『生協は21世紀に生き残れるのか』
大月書店、 2000年) および、 拙稿 「システム転換と協同組合運動」 (中嶋・神田編 『21世紀食料・農業市場の展望』 筑波書房、 2001年) で詳しく述べた。
7 間宮陽介 『同時代論』 岩波書店、 1999年。
8 拙稿 「協同組合の企業化と協同組合労働者」 鈴木・中嶋編 『協同組合運動の転換』 青木書店、 1995年。
9 濱口廣孝 「首都圏コープのグループ企業とアウトソーシング」 『生活協同組合研究』 320、 2002年9月。