2002年6月号
書評1
マーケティングをくらしや社会に生かす
玉置 了
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程
『マーケティング・ネットワーク論』
-ビジネスモデルから社会モデルへ-
陶山計介・宮崎昭・藤本寿良 編
有斐閣 2400円+税
マーケティングという言葉は、 販売のためのテクニック、 または市場調査そのものととらえられることも多い。 しかし、 本来マーケティングとは、
顧客のニーズを満たすための活動である。 そして、 その顧客満足という観点は現代のマーケティング研究の対象を生協や地域社会、 学校など非営利組織にまで拡大しているし、
その内容も企業からの一方的な働きかけではなく、 顧客をはじめとする利害関係者との関係性やパートナーシップという、 マーケティングのネットワーク性に研究の焦点があてられてきている。
このような現代のマーケティングの最先端を論じた本書において、 われわれがくらしや協同、 地域や生協の事業運営を考える上でとりわけ興味深いのは、
第3部の 「マーケティング・ネットワークの社会モデル」 (第8~11章) であろう。
そこでは、 今日の非営利組織の運営や地域社会の活性化には、 構成員の自発性や信頼に基づくマーケティング・ネットワークが重要だと主張されている。
まず、 第8章ではみやぎ生協における組合員の積極的な参加による店舗活性化の事例から顧客参加型のマーケティングが論じられている。 続く第9章では大量の商品廃棄がされる今日、
リサイクルを経て再生産を行う循環型チャネルを構築するには、 住民の共同意識が必要なことが法制度や自治体の事例とともに述べられる。 第10章では都市において無秩序に発展する商業・物流について、
その改善と経済効率性の向上を、 民間企業と行政諸機関、 諸団体との連携により成し遂げた例として福岡市天神地区が取り上げられている。 さらに第11章では住民同士の絆の強化や地方分権型行政への移行に直面する自治体運営に対して、
住民や NPO とのネットワークの重要性が主張される。
また第3部だけでなく、 理論的展開がまとめられた第1部、 企業の事例を中心とした第2部も、 興味深い事例と豊かな分析、 そしてそれを裏付ける理論的基礎が、
社会や非営利組織の運営に大きなヒントを与えてくれる。
本書は研究書であり、 理論的な記述も多く、 専門家でなければ難解に感じる部分もあるかもしれない。
しかし、 マーケティングは日々のくらしの至る所でみることができ、 今日の不振にあえぐ企業や、 政府・自治体の政策をみると、 本書で主張される顧客志向、
顧客との協同・信頼を基礎としたマーケティング観がいかに欠如しているかがわかる。 一方で、 われわれは社会において必ず何かしらのモノやサービスを提供する立場にもあり、
生活や仕事の上で、 いかにして相手に喜んでもらうか、 いかに協力して問題解決を図るのかと言うことが重要となろう。 本書で展開されるマーケティング論をヒントに、
身近なくらしや社会を考えながら読み進めると一層有意義な一冊となるのではないだろうか。
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