2002年6月号
特集 #2


くらしと協同の研究所のこれまでとこれから

  6月22日、 くらしと協同の研究所の第10回総会・記念シンポジウムが開催されます。 つまり、 本研究所は1993年に設立され、 今年で10年目を迎えることになりました。 そこで 『協う』 本号の第2特集として、 本研究所のこれまでの活動のふりかえりと、 今後に向けた方向性についてまとめました。


<本研究所の設立前後>

 本研究所の設立は1993年ですが、 本研究所の性格を理解するためにはまず、 1986年に刊行された 『転換期の生活協同組合』 に触れる必要があります。 1983年6月、 京都生協に調査資料室が設置され、 久保建夫氏 (現主任研究員) を事務局として京都を中心とした教育・福祉・労働・中小企業・農業経済・経済・経営・会計・住居学などの研究者が組織され、 9月生協理論研究会、 84年2月京都の食糧を考える会、 6月地域研究会が活動を開始し、 広くその活動や成果を公表してきました。

生協理論研究会によるその主な研究成果が本書であり、 ほかに 『産直物語』 (87年)、 『生活革命の旗手たち:生協組合員のライフスタイル』 (88年) が刊行されました。 本書は、 生田靖氏 (元関西大学)、 野村秀和氏 (元京都大学、 現日本福祉大学、 前研究所所長・前理事長)、 川口清史氏 (立命館大学、 現研究所理事長) をリーダーとする研究グループによって、 共同購入事業を中心に急成長を遂げた生協運動の現状を体系的に分析し、 新たな成長戦略について問題提起を行った労作でした。 本研究所にとっては、 設立前の研究書とはいえ、 出発点にあたるものであり、 今後の研究事業においても本書の研究成果をふまえ、 乗り越えていくことが課題と言えるでしょう。

『転換期の生活協同組合』 出版など10年間に近い研究蓄積の中で、 研究者グループにおいても、 京都生協の内部においても、 生協の社会的貢献事業の一環として恒常的な研究組織の設置が期待されるとして、 研究所の設置に向けた具体化がすすめられました。 その中で、 京都生協を中心に、 主に西日本の生協関係者の理解を得て、 団体会員として支えていただくということでその設立が実現しました。

また、 研究グループは 『転換期』 の続編として、 92年10月の ICA 東京大会に合わせて共同研究をすすめ 『生協 21世紀への挑戦:日本型モデルの実験』 を92年に刊行しました (英語版も93年刊行)。 本書は、 正直に言って前書ほど内容にまとまりがありませんが、 店舗事業に本格的に挑戦をすすめる生協事業の転換、 事業連帯の可能性と問題点の分析、 組合員の意識と生活の変化による生協の運動と事業の揺らぎといった、 これまでの成長路線が壁にぶつかりつつある生協の新たな状況をとらえようとしました。


<研究所の主な研究事業>

 研究所には、 さまざまな研究会が開設されてきました。

設立当初 (93年~95年) には、 「生活様式研究会」 (代表、 浜岡政好)、 「福祉研究会」 (代表、 川口清史)、 「職員論研究会」 (代表、 戸木田嘉久)、 「組合員活動研究会」 (代表、 井上英之)、 「農村地域研究会」 (代表、 馬場富太郎。 その後、 主査代理庄司俊作)、 「フォーラム・女性と協同組合」 (代表、 上野勝代)、 「中小企業と協同組合」 (代表、 二場邦彦)、 「消費組合の歴史研究会」 (代表、 青木郁夫)、 「健康・医療・協同組合研究会」 (代表、 渡辺真也、 その後松野喜六) が常設研究会として研究活動を展開しました。

さらに96-98年には、 「生協の福祉事業研究会」 (代表、 上掛利博)、 生協の事業・商品研究会・共同購入研究会 (代表、 若林靖永)、 女性と協同組合 (代表、 廣瀬佳代) が取り組まれました。

現在、 生協職員論研究会 (戸木田嘉久座長)、 協同組合史研究会 (井上英之座長代理)、 生協と福祉研究会 (上掛利博座長) があります。 これらの研究会は、 研究者の自主的な運営を基礎に、 調査と研究をすすめています。

これらの研究会の研究成果は、 『研究年報 協同の社会システム』 (94年)、 『新しい生活の想像と創造』 (96年)、 『生協職員論の探求:生協経営と職員のアイデンティティ』 (97年)、 『研究年報 新たな胎動』 (98年) にまとめられました。

また生協の組合員や職員による参加型のユニークで楽しい研究会として 「田中恒子ゼミナール」 (代表、 田中恒子) が行われ、 その成果は冊子にまとめられました。

協同組合間協同プロジェクトは、 中間報告書をとりまとめ、 京都府4連の協同組合デーで、 藤谷座長が記念講演を行いました。

研究プロジェクトとしては、 94年から取り組まれた 「協同組合間協同調査研究プロジェクト」 (代表 藤谷築次)、 「生協運動の現状分析プロジェクト」 (代表 野村秀和) が取り組まれてきました。

「生協運動の現状分析プロジェクト」 は全国の生協調査をすすめてきましたが、 95-96年には阪神大震災の中で奮闘するコープこうべの調査に取り組み、 96年12月に調査報告書 『被災地に生協あり-壊れたまちで、 人が、 協同が、 試された-』 を刊行するとともに、 97年8月にコープ出版から 『生協 再生への挑戦-コープこうべの 「創造的復興」 から、 学ぶべきものはなにか』 を出版しました。

本書は、 阪神大震災の中でコープこうべはいかに考え動いたのか、 現場の第一線から本部までの経験を調査し学ぶ中で 「この取り組みには、 無限の教訓が満ち溢れており」 「今の日本の生協運動にとって、 一番大切なこと、 組合員との信頼関係そして地域コミュニティーへの貢献という使命共同体としての実践を正面から取り上げた」 (序文:野村秀和) ものです。 現在から見ても、 本書はさまざまな論稿が収録されているにもかかわらず、 生協のあり方そのものを問う、 全体として共通する強いメッセージを発しています。

同プロジェクトではさらに、 北海道の3生協の現状分析にとりくみましたが、 後に問題点が指摘され、 総合的視点からの分析という課題を残しました。

98年以降には、 介護保険体制下の生協の福祉のあり方プロジェクト (上掛利博座長)、 99年には、 生協運動の現状分析プロジェクト 「元気な生協の条件を探る」 (川口清史座長) が取り組まれ、 その成果は総会・記念シンポジウムなどで発表されました。

また、 地域研究会を支援していくことも本研究所のユニークな方針の1つです。 各地で活躍される研究者をそれぞれの地域で組織し、 協同組合運動の実践家との共同研究会活動をすすめていくことを本研究所が応援するというものです。 最初の試みとして 「土佐くらし研究会」 (代表 玉置雄次郎) が93年3月に発足した。 翌94年には 「ヒロシマくらしと協同の研究会 (途中 「ヒロシマ地域と協同」 に名称変更)」 (世話人 鈴木・田中秀樹) が発足、 毎年、 ひろしま 「地域と協同」 集会を開くなど継続して活動をすすめています。 その後、 「鹿児島研究会」 (代表 仲村政文)、 「えひめ暮らしと協同の研究会」 (世話人 北島健一、 松本仁)、 「おかやま・くらしと協同の研究会準備会」 がつくられましたが、 実現したところと、 しなかったところがあります。 各地域での研究者の組織化を通じて各地域での協同組合運動に貢献しようという地域研究会づくりは、 本研究所の特徴の1つであり、 各地域の生協と協力し引き続き追求されることが求められます。

受託調査研究事業の最初の取り組みは、 西新道錦会商店街振興組合と京都生活協同組合の委託による 「壬生地域のまちづくりと消費者ニーズに関する調査」 (93-94年) でした。 またこれまで 「くらしと組合員調査プロジェクト」 (浜岡政好座長) として、 コープしまね (95-96年)、 京都生協 (96-98年)、 コープしがで実施されました。 また、 2000年には京都生協の二条駅店開設にむけた基本調査 (地域経済研究会、 代表 岡田知弘) を受託して報告書がまとめられています。 現在は、 姫路医療生協調査を受託してすすめています。 これらの受託調査は、 単に研究所が受託し調査報告をまとめるというのではなく、 生協関係者等とともに、 地域やくらし、 協同の課題を探り、 認識を深めていくという協同のスタイルを重視して取り組まれています。

このように研究者の創意によってこの間、 さまざまな研究事業が取り組まれてきました。 問題としてしばしば反省されるのは、 研究会が開設されても場合によっては企画の具体化準備等がすすまず、 活動が停滞することがあったこと、 研究成果をとりまとめて発信するという取り組みが弱かったことなどが挙げられています。 また 「さまざまな研究事業がすすめられているにもかかわらず、 研究のコアの部分、 生協論が欠けているのが根本的な問題なのではないか。 そこを研究所としてもおさえて理論化していく努力が求められる」 (田中秀樹氏、 研究委員) という指摘も出されています。 さらに 「これまでの成果をふまえ、 やはり、 本を出版することが大事だ。 出版によって世の中に研究成果を問う、 生協のあり方について問題提起するというのが、 研究所のもっとも重要な取り組みではないか」 (的場信樹氏、 研究委員会幹事) とも指摘され、 今後の具体化が望まれます。


<研究所のシンポジウム (別表)>

 研究所がもっとも力を入れてきた企画は毎年総会時に開催される記念シンポジウムです。 その時々の生協が直面する課題を意識して問題提起的な企画が組まれてきました。 また、 研究所の研究会活動の一環、 その研究成果の発表の場として、 分科会が開催されています。

また、 地域を対象とした事業を展開することが本研究所のミッションの一つであり、 これまで、 福井、 広島、 石川、 島根、 京都府大宮町で地域シンポジウムが開催されました。


<研究所のセミナー・講座>

 好評につき回を重ねてきた本研究所主催のセミナーが 「女性トップセミナー」 です。 生協の果たす社会的役割が大きくなり、 かつ、 生協経営環境が厳しくなっている中で、 組合員理事長等の責任は重くなっているし、 その期待にこたえるためにもっと学びたいというニーズが強く出されるようになっています。 そこで女性トップらが自ら学び交流して研鑽を積む貴重な場として、 女性トップセミナーは近畿の女性トップが中心になって企画運営がすすめられています。

他にも、 2000年に学識理事監事交流会が開催されました。 このことも、 生協の理事監事ということで選ばれている学識者から自分たちには何が期待されているか、 どういう役割を果たすべきかという自問自答があり、 今後の開催も検討されています。

研究所が開催・支援してきた講座は多くありますが、 もっと団体会員・個人会員の期待にこたえて講座企画を充実させていく必要があるでしょう。 これまで行われてきた講座の中でユニークなものの1つに 「くらし発見の旅」 (世話人、 浜岡政好) がありました。


<研究所の 『協う』 等の情報発信>

 研究所からの情報発信ということでもっと基本的なものが 『協う』 です。 『協う』 は本研究所の所報・機関誌として位置づけられていますが、 研究所は運動団体ではありませんから、 機関誌とはいっても統一した意思表明をすることを目的とはしていません。 そうではなく、 くらしと協同について研究して協同組合運動を応援するという大きな方向で、 いろんな意見、 いろんな動きを取材し掲載していくことをその目的として情報発信をすすめてきました。

その 『協う』 は本号で71号を迎えました。 初期は毎月、 95年以降偶数月の年6回発行をすすめています。 『協う』 は現在、 研究者、 大学院生事務局員、 研究所事務局 (生協職員)、 生協組合員 (女性) の4者によって構成された編集委員会で、 企画、 取材・執筆、 原稿点検を行っています。 内容的には、 その時々のくらしと協同の問題や研究所の取り組みを取り上げる 「特集」、 研究者らによる論考を掲載する 「コロキウム」、 各地の話題や取り組みなどを取材して掲載する 「地域・くらし・もの・人」、 生協関連の本はもちろん、 広く話題の本をとりあげる 「書評」、 生協トップによる 「エッセイ」、 その時々の社会的主張を取り上げる 「視角」 といったコーナーで構成されています。

『協う』 はこれまで取材先生協などから原稿内容に問題があるとして批判されたことが何回かありました。 その問題解決がうまくいかなかったことも残念ながらありました。 事実を正確に記載し、 意見を表明する場合も適切な表現を心がけるように、 編集委員会でさらに企画・執筆・原稿点検時にさまざまな角度からチェック、 配慮をこころがけるとともに、 さまざまな意見があってそれを掲載して議論を深めていこうとすることは 『協う』 にとって重要であるという関係者の理解を広げることが教訓だと思います。

また、 『協う』 地域版というかたちで、 各地の研究活動の成果をまとめることもすすめてきました。 96年 『協う』 の 「こうち版」、 98年 「しまね版」、 99年 「京都・歴史版」、 2000年 「ひろしま版」 が発行されています。

ほかに、 研究所はホームページを開設して情報提供をすすめています。 『協う』 のバックナンバーや研究所の総会議案書、 シンポジウムの記録などを掲載しています。 ネットを通じた広報・交流は今後いっそう重要になるでしょう。


<研究所のあり方についての再検討>

 2000年度に研究委員会内の小委員会で、 2001年度には理事会内の小委員会で、 当研究所のあり方について検討をすすめてきました。

あり方見直しの最大の問題意識は、 研究所は意味があるのかという根本問題でした。 生協関係者からは、 シビアに見れば研究所が生協にとって役に立つような役割を果たしていないという評価がありました。 研究所の主な財政的担い手は団体会員である生協ですから、 その団体会員にとって意味があるのかという問いかけがなされたのです。 研究者からは、 研究者各人の自主的参加を基礎に、 くらしと生協について、 その時々、 調査をすすめ問題提起をしてきたという一定の自負が出されました。 しかしながら、 研究者からの発信の中には、 生協関係者から見て問題視されることもいくつかありました。

そのような論議のなかで、 あらためて研究所の目的は 「生協のニーズに積極的に応える」 ことであることが強調されました。 ニーズについては、 団体会員である生協側からより具体的な提案要望を、 理事会の場などを通じて積極的に示そうではないかという指摘がありました。 これからの研究所は、 こうして団体会員から提起された研究テーマについて積極的に取り上げて、 具体的に研究所が生協に貢献するということを示していくことが重要であるということが確認されました。

また 「ニーズと言ってもいろいろあるだろう。 社会的意義のある研究という公益、 協同組合陣営全体にとって意義があるという共益、 さらに個別生協にとって意義があるという私益とある。 研究所はやはり、 その中で特に、 公益・共益を重視していくべきであろう。 したがって、 ニーズといっても、 直接的に個別生協に役立つというものだけでなく、 より高い観点から意義のあるものを取り上げよう。」 と増田佳昭氏 (当研究所研究委員会幹事) は指摘しています。 この指摘の通り、 研究所の意義・役割というものを短期的かつ直接的な貢献で評価するのではなく、 より高い社会的観点からとらえなくてはならないと思います。


<研究所の組織の見直し>

  上記の研究所のあり方の見直し議論を受けて、 組織についても変更をすることになり、 今度の総会で提案することになりました。

第1に、 理事会の機能強化の方向が確認されました。 研究所の方針や予算は理事会で決定し、 総会に提案承認を求めることになっていましたが、 実際の理事会において、 研究所のあり方について論議し、 とりくむべき研究事業の内容についての要望・提案が出されるということは少なかったのです。 研究所が団体会員の期待に応えていくためには、 まず、 理事会において、 積極的に理事が研究所でとりくむ事業企画を出し合うことが重要です。 そこで、 理事の定員を減らす一方で、 議決事項を明文化して、 今まで以上に、 研究所がとりくむべき事業は何かについての意思決定を行うものと位置づけました。 また、 これまで研究所はいろいろとりくんできたにも関わらず、 「評価」 がなされてフィードバックすることが弱かったので、 今後は、 研究所が取り組んできた事業についての評価・総括といったことに取り組むことが期待されています。

第2に、 新たに専務理事職が設けられます。 専務理事は生協役員が想定され、 生協関係者によってより高い立場から研究所の日常運営をリード監督することを目的とし、 事務局の統括責任を負います。 専務理事を置くことで期待されていることは、 研究所が幅広い構成員によって構成されており、 活発な意見交換をすすめることが重要であるという特性を深くふまえた上で、 団体会員の立場、 常勤役員の立場から積極的に提案・調整・点検を行って円滑な研究所運営をすすめていくことです。

第3に、 新たに企画委員会が設けられます。 これまで研究所の事業企画は研究者によって構成される研究委員会 (特にその幹事会) が立案具体化をすすめてきました。 研究所事務局から生協側のニーズ、 要望について調査して提案するというようなことはされてきましたが、 研究者主導の企画策定であったと言えるでしょう。 そこで、 今後は生協関係者からの発信も同様に重視強化すべきという観点から、 企画委員会は、 研究所の各種事業における生協関係者と研究者との協同を強めるために、 年数回開催して、 研究所の事業についての企画立案をすすめることになります。

全体として、 協同のスタイル、 あるいはコラボレーション (共にテーブルについて各人の個性を生かして一緒に取り組む) を意識的に追求していこうということが組織変更の基調となっています。 10年目を迎える本研究所の新たなスタート、 ますますのご参加ご支援をよろしくお願いします。

(文責・若林靖永)


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