2002年4月号
書評2
スウェーデンの社会を支える 「自己形成の教育」 システム
上掛 利博
所員・京都府立大学福祉社会学部
『スウェーデンののびのび教育』
河本佳子著
新評論
2002年2月刊 244頁 2000円+税
私は去年の講義の際、 「批判的なコメントは不要、 教科書に書いてあるとおりに授業を進めて」 とか、 「現実がどうのというより、 国家試験に出る内容を中心に教えてほしい」 という声が、 少数の学生からではあるが“堂々と”出されるという経験をした。
「自分の頭で考える」 ことの大切さや 「相手の立場に立って考える」 ことの意味、 創意工夫の面白さなどを唱えてきたがゆえに、 大変なショックを受けた。 そんな中で、 この本を読んだ。
書き出しで、 「ケーキを一つ切るにも、 日本では“均等に”が一般的だが、 スウェーデンでは自分が“欲しい分だけ”を切る」 という例をあげ、 スウェーデンと日本の考え方や価値観の違いを論じている。 その違いは、 教育システムによってもたらされるのだという。
スウェーデンの福祉について、 誰もが人間として充実した人生が送れるように一人ひとりを大切にしていることは知られているが、 その背景にある 「自己形成の教育」 の存在は知られていない。
それは、 「自分で考え、 判断し、 豊富な選択肢の中から自分に合うものを選び出して行動に移す。 そして、 その結果には自分自身が責任をもち……自らの人生を楽しむ」 というもので、 自分を愛するだけでなく他人を敬うという意味も込められており、 こうしてスウェーデンでは“対等・平等”が社会生活のなかで徹底されているのである。
著者の河本佳子 (こうもと・よしこ) さんは、 1950年岡山市の生まれ、 1970年にスウェーデンに移住し、 ストックホルム教育大学幼児教育学科を卒業後、 マルメ市で障害児教育に携わる一方、
1992年にはルンド大学医学部の脳神経科作業療法学科を卒業、 現在はマルメ大学総合病院ハビリテーリングセンター (日本では、 再生や復帰という接頭語“Re”をつけて 「リハビリ」 というが、 実際には二次的障害より先天的な障害のほうが多いことから、
北欧では 「ハビリ」 を使う) で作業療法士として勤務している。 また、 河本さんは、 『スウェーデンの作業療法士』 (新評論、 2000年) の著者としても知られている。
本書の構成は、 第1章の保育園から小・中・高をへて第5章の大学まで、 「意欲さえあれば再スタートがいつでもできる国の教育事情」 を、 自らの実体験をもとにわかりやすく紹介している。
例えば、 不登校・イジメの対策でも、 学校環境・家庭環境・本人の病的精神構造のどこに原因があるかを見極めて、 すぐに生徒を学校に戻す工夫をしているスウェーデンと、 病巣を取り除かないまま、 学校に疲れた子どもは自宅で過ごしてもよいと精神科医もすすめる結果、 学校へ戻る割合が非常に少ない日本の現状を比べている (152頁)。
大学では、 教養科目が一切なく専門科目に直接入り、 質疑応答も多く、 なぜ、 どうしてそうなるのかと学生は常に問題意識を持って勉強に臨んでいる (216頁)。 こうした教育の違いが、 福祉の水準や人生の質の違いを生んでいるのである。
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