2002年4月号
書評1


保存食品の歴史と、 その功罪をふりかえって…

西村 智子
『協う』 編集委員


『保存食品開発物語』

スー・シャハード著 赤根陽子訳
文春文庫 2001年11月刊 
493頁 800円+税


下宿時代、 私は夕飯のおかずの残りをはじめ、 米飯、 食パン、 うどんや果物を一緒くたに冷凍庫にしまっては友人に笑われていたものだった。 しかし、 冷凍による保存は添加物を使用した他の保存方法に比べると安全・安心というイメージがあると共に半冷凍の食品、 例えばヨーグルトやぶどうは通常のものとは一風変わった食感を与えてくれていると私は信じている。

本書にもあるが、 確かに 「保存料」 や 「添加物」 といった言葉は現代人に評判が悪く、 一方で、 「賞味期限」 といったものにとりつかれている傾向がみられる。 しかし、 もし保存食品が開発されていなければ、 大航海時代をはじめとした新たな土地の開拓や交易路の発達は不可能であるし、 また、 ワイン、 ソーセージ、 チーズといった現在多くの人々に食されている加工食品も食卓にのぼることはなかったにちがいない。 このように保存食品は人類の歴史とその発展に大きく寄与してきたのである。

ところで、 あなたは食品の保存方法やそれによってうまれた加工食品をいくつあげることができるだろうか。 …実は今日何気なく購入し口にしている食品のほとんどが当てはまるのである。 そして、 それらのさまざまな保存技術が歴史を通じて、 安価・大量・多様な食品を広く提供し、 人々を飢えと栄養失調から救ってきたと同時に新たな食文化をうみだしている。 本書では乾燥、 塩、 酢漬け、 燻製、 発酵、 乳製品、 砂糖、 濃縮、 缶詰、 脱水といった保存方法を取り上げ、 先史時代から現代までの保存食品開発の歴史を明らかにしているが、 その中で、 古代エジプト語で 「魚を塩漬けにする」 を表す言葉と 「死者をミイラにする」 を表す言葉の意味が同じであったことや、 実際に人間の遺体を保存するために行われた方法 (例えば乾燥、 ハチミツづけなど) は食品保存の原理に合致していたことが何故か印象深く残っている。

このように、 保存技術の発達によって人々はさまざまな恩恵をうけているが、 生産地も加工方法も材料もはっきり把握されていた昔と違って現在では、 食品の加工処理が一般に消費者の目の届かないところで行われることから、 保存食品に関する知識やその安全性の追究について曖昧になっているといえるであろう。 そしてその反動ともいうべき姿の一つとして有機栽培による食品や健康食品、 昔ながらのホームメード食品への傾倒があげられるであろう。

本書を片手に今一度、 冷蔵庫の中やキッチンにしまってある数々の食品の保存技術やその安全性などを確認してはいかがであろうか。 きっとおもしろいにちがいない。


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