2002年2月号
人モノ地域2
地域に根ざした、 自分たちでできる活動をめざして
愛知のワーカーズ訪問記
『協う』 編集部は、 昨秋の 「女性トップセミナー」 で報告され評判になった名古屋のワーカーズを調査するため、 2002年1月18日に 「生協と福祉」 研究会と合同で出かけた。 訪問したのは、 めいきん生協の閉鎖した店舗を活用した 「いのこしの樹」 と、 生協のモーニングコープ事業の委託をうけて始まった 「いきいきワーカーズ瀬戸」 の2カ所である。
上掛 利博 (研究委員 「生協と福祉」 研究会代表)
「いのこしの樹 産直ひろば」 を訪ねて
「いのこしの樹 産直ひろば」 は、 名古屋市名東区に20年前に開設されためいきん生協の店舗が閉められた後を、 2001年6月から月82000円で借り受け、 週2回 (火・金) 10:00~12:30に開いている店である。 ここは、 17人の組合員が3000円づつ出資して、 時給400円で3時間半働く (1日1400円) というワーカーズの形式で運営されている。 メンバーは48歳~74歳の女性で、 平均年齢は60歳という素人集団である。
めいきん生協でパートをすれば時給850円と倍以上になるのに、 しかも仕事はこちらの方がきついにもかかわらず、 みんなでやれている理由として、 リーダーの猶喜賀陽子さんは、 「自分たちで全部するのは、 やりがいがあって面白いから」 と楽しげに話してくれた。 鮮魚売り場の担当者の愛着が伝わってくるような売り方には、 こんな背景があるようだ。 平均200人の来店があるが、 家計が苦しいなか出資金を出さなくてもよいこともあって、 近くの公営住宅からの高齢者の利用が増えたそうだ。 リサイクルショップや食堂兼喫茶コーナーもある。 野菜を中心に1日の売り上げは25~26万円、 客単価は1200円程になる。
豊富な野菜は、 愛知や岐阜の農民連 (農民運動全国連絡会) からだけでなく、 暖かい静岡や寒い長野からも搬入され、 年間を通じて多様な品揃えが可能になっている。 しかし、 夏はキュウリ、 冬はハクサイが重なるといった悩みもある。 売り上げデータは提供しているが、 生産調整は行っていない。 トラックの高速料金が1日6000円かかるので 「生産者が一番きつい」 けれど、 お客さんの 「顔が見える」 から生産者としても励みになるのだという。 餅つき大会を一緒にやったり、 「6~7割は心意気でやっている」 と話していた。
ここでは 「日本の農業を守る」 ことと 「地域のふれあいの拠点になる」 ことが、 活動の2本柱になっている。 「いのこし福祉グループふれあい」 が、 デイサービスセンターのボランティアを引き受けたり、 月1回の配食弁当を30食作って配達したりしている。 また、 2階のスペースを使って、 子育て支援にも取り組んでいる。
70坪ほどの店内に、 お年寄りや子連れのママが行き来している。 喫茶コーナーでは、 「熱いお湯にして」 と抹茶 (菓子付き200円) を注文し、 休憩している人もいる。 入り口の前では、 「いきいきワーカーズ」 のメンバーがモーニングコープの宣伝をやっていた。 自発的に働いているワーカーたちの明るい笑い声のなかに、 「自由な活気」 を感じることができた。 新鮮な食品、 リサイクル、 福祉などの活動を通じて、 「いのこしの樹 産直ひろば」 が地域で欠くことのできない存在になっていることがわかって、 すでに 「COOP」 の看板をはずされ、 文字の跡が残った古い建物が、 どことなく少し誇らしげに見えた。
「いきいきワーカーズ瀬戸」を訪ねて
「いきいきワーカーズ瀬戸」 の出発は5年前、 もうじき定年という人が地域のなかに増えてきて、 老後の不安に対応するため 「いきがいコープ」 の仕事おこしグループが、 ワーカーズ方式で何かやろうとしていた時、 めいきん生協のモーニングコープの早朝配達 (朝3時~6時) の仕事があったことである。 お年寄りが 「自分の条件を活かして働ければいいな」 と願っていたのと少し違う仕事だったが、 「とりあえずやってみよう」 と配達メンバーを募集したところ予想以上に集まった。 今では、 10カ所のデポのうち6カ所をワーカーズで引き受けるまでになった。 案内のパンフレットには、 「みんなが出資し、 みんなで働き、 みんなで運営する新しい働き方、 それがワーカーズです」 とある。 登録メンバーは154人で、 7割の111人が女性 (うち20代1人、 30代20人、 40代45人、 50代28人、 60代13人、 70代4人)、 男性は3割の31人 (うち20代1人、 30代3人、 40代16人、 50代14人、 60代5人、 70代4人) で、 男女とも40歳代と50歳代が中心になっている。
「いきいきワーカーズ瀬戸」 のなかでは、 地域に根ざした様々な活動が、 次のようなワーカーズによって展開されている。 (1)めいきん生協のモーニングコープ商品を玄関先まで配達する 「モーニングワン」、(2)モーニングコープ商品をトラックに積んで移動しながら宣伝・試食販売を行う 「モーニングコープひろめ隊」 「試食隊」、(3)不要になった日用雑貨や洋服を安く提供する 「リサイクルエコ」、(4)土にこだわり健康野菜を育て販売する 「無農薬 EM 野菜」、(5)手芸、 パソコン、 絵手紙など 「やってみたい」 「教えてほしい」 という声に応える 「ドゥーイット」、(6)ちょっとした困りごとや願いに応える 「ねこの手隊」 (福祉宅配、 おそうじ隊、 生活便利屋、 庭木の剪定、 お墓そうじ)。 このように、 地域住民のもっている様々な知識や経験、 技術などをいかして、 地域社会の役に立つように、 なおかつ収入にもつながるように工夫した仕事おこしがなされている。 変わったところでは、 「バイオリンの出張演奏」 というのもある。 ワーカーズのうたい文句は、 「子育て中でも、 定年後も、 自分らしく、 力量にあった仕事ができたら、 すばらしい」 というもので、 利用者の立場に立ったより良いサービス モーニングコープを請負って良かったことに、 利用者4500世帯に月1回 『ワーカーズニュース』 を配布するなかで、 便利屋とか植木の剪定などワーカーズの仕事が広まったことがある。 また、 「チラシ作成チーム」 は、 試食会などを通じて利用者の声を直接聴けることから、 男性専従職員が作ったわかり難いチラシを、 高齢者にもわかりやすいように、 そして業者に委託して作った他生協のチラシに負けないものを目指している。 というのも、 効率や利益ではなく、 組合員の参加を重視する生協の特徴を大事にしたいからだ。
代表の田中詔子さんは、 市民生協の創立期の組合員の目から見ると、 「今は生協の施設が活用されていないし、 地域にいる人材が能力を発揮できていない」 と指摘した。 他のメンバーからも、 「生協の組合員活動が薄れてきているのでは?」 「物を買うだけの組合員に終わらないで」 「専従者に任せるのではなく、 活動を組合員の手に取り戻す」 といった意見が出された。 いきいきワーカーズは、 お金のために働くのではなく 「地域に役立つ」 ことを目的としているので、 例えば、 生活便利屋の仕事も 「一歩踏み込んで」 考え、 お客さんとコミュニケーションをよくとって相手の気に入ったやり方で行なうことで、 頼んで良かったと思ってもらえるよう努力しているのだそうだ。 とはいえ全部がワーカーズになる必要はないし、 また、 個々のワーカーズはそんなに大きくなる必要はなく、 地域協同組合としてコミュニケーションができる100人程が限度だろうという意見も出された。 他の多くのワーカーズ・コレクティブが、 専門分野のある機能別ワーカーズであるのに対して、 いきいきワーカーズは、 住みやすい地域にするために本部は瀬戸にあって、 いろいろな生活に対応できる 「何でも屋」 的な地域ワーカーズといえる。 勤めた経験がない、 フルタイムでは働けない主婦たちが、 ワーカーズに主体的に関わって、 やりたいと思った仕事を自分で作り出すなかで大きく変わってきている。 かつて、 「人から言われたことをこなす」 存在だったのが、 ワーカーズで 「より良い生き方」 を求め、 年代を越えた 「家族っぽいつきあい」 ができることに期待をもち、 生活を楽しんでいる。
メンバーは、 「自分に出来る何か」 で地域や人とのつながりが出来ることに意味を見いだそうとしているが、 これこそは、 一人ひとりの生きがいや役割を大切にする 「福祉を創る」 活動だといえよう。 「どこまで出来るかわからないけど、 やれるところから始めてみよう」 というパイオニア精神と、 「住み良いまちづくりに貢献する」 という使命感が結びついて花開こうとしている気配を感じることができ、 「わくわくする」 訪問であった。
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