2002年2月号
書評1
生活者1万人調査が示す、 暮らしの光と影
若林 靖永
京都大学大学院助教授
『続・変わりゆく日本人』
日戸浩之・塩崎潤一 2001年
野村総合研究所 1700円+税
いま日本は変わりつつあるし、 変わらなくてはいけないということは多くの国民が共有する感覚であろう。 それが私たちにとって以前より幸福なものかどうかは大いに疑問ではあるけれども。
本書は、 今後の日本社会のビジョンを描くためにも、 生活者 (国民) の価値観や消費行動などがいまどうなっているのか、 1万人にアンケート調査を行い、 実証的に論じたものである。 1998年の前著 ( 『変わりゆく日本人』 ) では 「個人化」 と 「階層化」 というキーワードで、 自己中心的な傾向の強まり、 平等社会の崩壊を明らかにした。
今回の調査でもそのような傾向がますます強まっていることを確認している。 と同時に、 インターネットによるインパクトもふまえて、 人々のコミュニケーションが大きく変わりつつある、 地域コミュニティの価値が再評価されつつある、 育児のスタイルも学び合い、 励まし合いを基本とするような芽が育ちつつあることに注目している。
さらに、 消費行動においても興味深いレポートをしている。 商品購入では 「利便性」 だけでなく 「快適性」 を求めるようになった。 周りの消費を気にする 「鳥の群れ」 消費が強まっている。 商品やサービスの選択における自己責任意識は高まっていない。 ブランド志向はあるものも高いものは支持しないようになってきている。 こだわりの一点豪華主義は継続している。 などなど。
生活者のゆるやかな人間関係、 ネットワークが広がる兆しがあり、 それを IT が加速しているという見通しは、 生協の組合員活動の変化、 組合員組織政策の試行錯誤とも重なり合うものだろう。 周りを気にする 「鳥の群れ」 的消費が強まるという見通しは、 生協の事業において、 商品の良さ・こだわりを伝え、 共感され、 支持されるという事業スタイルが困難になってきており、 ますますトップブランドの NB のシェアが高まっていることでも裏付けられる。 また社会経済環境が厳しくなる中で 「自己防衛」 に向かっているという見通しは、 自分たちでやろう、 切り開こうという積極性・挑戦性が競争や命令や評価など圧力がかけられない限り、 なかなか出てこないところにもあらわれているだろう。
本書はその結論を鵜呑みにするというよりは、 データにもとづいて社会・家族・消費などを考えるというプロセスを学び、 自らの問題意識でデータ収集・分析を行うところに結びつける上で、 大いに参考かつ刺激になる一冊である。
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