2002年2月号
特集



「生協女性トップセミナー」 より

当研究所は 「第4回女性トップセミナー」 (2001年11月13、 14日、 於愛知県女性総合センター、 参加者36名) を別記の内容で開催した。 その企画で、 21世紀コープ研究センターが2000年度に行ったリーダーシップ研究の実践について、同研究プロジェクト座長の本郷靖子・生活協同組合エル理事長に報告をお願いした。 以下、 当日本郷さんが報告された内容を要約して紹介する。 後段に、 今回セミナーの呼びかけ人である、 ならコープ副理事長の仲宗根迪子さんに、 4回を経た女性トップセミナーの振り返りと課題についてもまとめていただいたので参照いただきたい。 また、 同日事例報告をいただいた 「いきいきワーカーズ瀬戸」 の取り組みについては、 本号14ページで訪問記を掲載している。

なお、 今回セミナーの詳細な報告集は近々完成の予定である。


『リーダーシップ論-いま求められているものは-』

生活協同組合エル 理事長  本郷 靖子 氏

1、 リーダーシップ研究の背景と経緯

今回の研究を行った21世紀コープ研究センターは、 首都圏コープ事業連合 (生活協同組合エルなど9生協が加盟) のシンクタンクとして2000年度に設立された。

同センターの前身であるコープ研究会は、 同事業連合で個配に取り組むことになったのをきっかけに、 「これからの生協のあり方」 を考えようと発足。 「共同購入と個配の組合員は違うのか」 「組合員参加と参画をどう考えるのか」 などの議論を経て、 「はじめに生協ありきではない。 『個』 から始まって、 それがどう協同していくかをきちんと考える必要がある」 という視点に至った。 「生協は組合員の組織なのだから当然だ」 と言われるかもしれないが、 本当にそうだったのかどうかは、 ここにおられる皆さんも、 いろいろな場面で感じてこられたのではないか。 私自身、 今後の生協について 「徹底した組合員主義を貫き、 そこで社会的役割を果たすことでしか存在できないのではないか」 と思っている。

この視点に立ち、 1999年に 「21世紀型生協の提案」 をおこなった。 ここでは、 「組合員自ら動かす生協」 をそのひとつに挙げている。 これには2つの側面が考えられる。 ひとつは 「男性理事は職員出身で常勤、 女性理事は組合員出身で非常勤」 という従来の枠から抜け出す必要があるという役員レベル、 もうひとつは 「生協は供給者側の論理でなく、 組合員の視点で本当にすべてが貫かれているのか」 という、 生協全体のあり方に関わるレベルである。 このことには、 コミュニティ・ビジネスや労働による組合員参加を積極的に進めていくことも含まれる。

「組合員自ら動かす生協」 を推進するためには、 リーダーとなる人材の養成・育成制度の確立が課題となり、 今回のリーダーシップ研究につながった。 しかし従来型の研修で、 リーダーシップが身につくことはもうないと考えている。 リーダーシップの内容があいまいなため、 研修で身についたことが、 次につながっていく仕組みがないからである。 あるいは近年、 生協においても流通業としての生き残りをかけた、 経営者としてのリーダーシップ・経営手腕が求められたが、 「だから組合員理事にはまかせられない」 といった見方を作っていったのではないか。

このような経過を経て、 「協働型社会のリーダーシップをとれる人材開発の実践」 を目的としたリーダーシップ研究となった。

ここで私たちは、 「これからの生協」 ではなく、 「これからの協働型社会」 を視野に入れたリーダーシップを論じた。 生協の原点は、 「食の安全」 をテーマに、 従来の地縁型の枠組みを超え、 市民の発意に基づいて再構築されるコミュニティづくりに取り組んできたことに示されるように、 「組合員と地域の暮らしを高めることを目的に、 協同の事業や運動を行う組織」 である。 生協はある意味、 全国で最大規模の非営利セクターであり、 それならば、地域コミュニティが崩壊している今こそ、 各種民間非営利セクターと行政や企業をつなぎ、 協働を促進していく要として、 リーダーシップを発揮することが可能だし、 求められているのではないか。 生協が協働型社会の実現に社会的役割を発揮していくためにも、 「生協」 の枠にとらわれないリーダーシップが必要であると考えたものである。

研究メンバーは、 世古一穂さん (特定非営利活動法人 NPO 研修・情報センター代表理事) をコーディネーターとし、 首都圏コープ事業連合の理事長や人事関係のマネージャーで構成した。 当初、 それ以外にも 「研究に参加したい」 というメンバーが多く集まったのだが、 「リーダーシップ研究会での成果を、 実際の実務を担う現場で実行に移すことが出来るポジションに着いている人」 に限定した。 非難もあびたが、 この考え方をはっきり貫くことで理解を得られたと思っている。 従来の 「やったことに意味がある」 「バランス・平等主義」 を排し、 まさに 「リーダーシップをもって物事を進めていく姿勢」 を実践することができ、 よい勉強になった。

実際の研究は、 2000年12月から約半年にわたり、 同事業連合加盟生協などへのヒヤリングによる課題の抽出、 生産者を交えての客観的なパートナーシップについての話し合い、 「リーダーシップチェックリスト」 を使用しての自己評価などを行った。 このリストは、 NPO 研修・情報センター作成によるもので、 ファシリテートの総合力 (多様な合意形成のルールを作り提示することができるかなど)、 能力・資質 (決して参加者を批判してはいけないが、 必要なときには引き締めることができるかなど)、 情報受発信力・情報整理分析力 (情報入手のプロセスを立案し実行できるかなど) など9分野75ポイントにわたって自己評価するものだが、 その際、 スタッフや理事長など、 自分と違う立場についても欠けているもの・求められているものを客観的に分析し整理した。

以下はその研究成果のまとめである。 項目によっては、 職員か組合員かといったような形式的な役割分担論ではなく、 「担える要件を満たしている人がそこを担っていく」 ということをベースにしている。

2、 これからの生協組織を担うトップリーダーのあり方

   

1つ目は 「社会改革の志とビジョンをもって、 夢を語れる人」。 それは、 時代の変化に対応し、 協働型市民社会において役割を発揮する組織のトップとして、 自分の言葉で、 例えば 「この国のかたちはどうあるべきか」 を語り、 その夢を具体的に実現できる人。 その際、 暮らしている一人一人の声を聞き、 きちんととらえて形にできる人ということである。 2つ目には 「マネジメント能力がある人」。 組合員と組合員、 組合員と職員、 生協と生産者など、 多様な協働をデザインし、 地域のコミュニティの核となるような事業を展開する役割が発揮できる、 いわゆる非営利共同セクターのマネジメントの出来る人である。 3つ目は、 「協働コーディネーターの役割を発揮できる人」 である。 協働コーディネーターとは、 参加型の会議やワークショップ全体のプロセス、 参加者の構成、 選択のデザインを行い、 専門家やスタッフを集めてくることも含めた全責任者であり、 資金作りや資金計画、 運営を行うプロデューサーでもある。 意見をコントロールせず、 進行をコントロールする、 ファシリテーター (直訳すれば 「促進者」 「援助者」) としての技術と能力、 幅広いネットワークなどが求められる。 4つ目は 「政策提言ができる人」、 である。

3、 社会のリーダーシップをとる組織としての生協組織のこれからの方向

この点では6点にまとめた。

(1)「ボードと業務執行の分担を明確にする」 という点で、 現在、 生協において発生している問題の多くは、 この点があいまいであることに起因していると思われる。 業務組織は 「組合員の声を具体化するプロフェッショナル」 たり得ているのか、 理事は 「組合員の夢や声を明確化する役割」 を果たしているのかを改めて問うために、 職員と組合員それぞれが 「主要に行う部分」 「ともにシェアする部分」 「サポートする部分」 の領域を、 いったん具体的に整理することが必要と考える。

また、 従来、 例えば生協の理事会において、 役員は 「暗黙の評価」 はされても、 「指標に基づく評価」 をされないままその任を得ているし、 また生協全体としても自己評価をするということにはあいまいさがあった。 こういう点から(2)「結果を評価できるシステムの構築」 は、 自らより高い成果を実現するための指標として、 あるいは成果を分析し、 活用するためにも不可欠なものであると位置付けた。

(3)「組合員の参画強化」 は起業やコミュニティ・ビジネスなど組合員が担う分野を増やし、 組合員のかかわりをきちんと位置付け、 能力ある組合員の参画を促すこととする。

(4)「社会的運動づくり」 に関しては、 ニーズが多様化する時代だからこそ、 従来の動員型でない協同組合での運動論の再構築が必要であると考えている。 この点に関しては、 生協同士が学び合うことが必要と思う。

他に(5)「トップ人材の育成と確保」(6)「地域のプラットホームになる」 なども位置付けている。

4、 リーダーシップ指標

リーダーシップにおける課題として 「事業 (非営利セクターとしてのマネジメント能力)」 「社会運動 (運動と事業の一体化をはかり、 構築する能力)」 「地域コミュニティ (コミュニティのリーダーたる能力)」 「人材開発・育成」 の4点を抽出し、 これと連動し、 3領域にわたる評価の対象を設定した。 それは 「組織 (理事会、 業務組織の評価)」 「事業 (非営利組織としての事業評価)」 「協働 (組合員と組合員、 組合員と職員など多様な協働の質と成果の評価)」 である。

5、 これからの検討課題

会員生協においてリーダーシップ指標に基づく運営を実践し、 成果を検証 (フィジビリティースタディ) しながら、 具体的なリーダーシップ指標を作成する。 評価の過程で役員の中から抵抗が生じることも予想される。 すでに私の所属する生活協同組合エルのプロジェクトにおいて、 前述の 「ボードと執行の棲み分け」 を提案するなどしているが、 受け止める側にとっては、 すんなりと受け入れるということに抵抗感があるようだ。 自己評価すること、 そして他者によってリーダーシップをチェックされるのは、 私自身も怖い。 しかし、 これからのリーダーには 「さらされる」 という覚悟がなければ、 組合員の声を体現し、 役割を発揮することにはならないだろうと考える。

こうした新しいリーダーシップ論を社会に提案していくために、 大学のオープンカレッジの1つの運営に、 リーダーシップ養成の場として生協も参加する構想を整理した。 実験的な取り組みが出来たらいいと考えている。 また、 評価システムづくりと同時に、 その評価システムの評価者 (アセッサー) の育成も必要である。

いままでを 「だめだ」 「なかったことにする」 のではなく、 なおかつ既成概念を壊して次にチャレンジしたい。

(文責:田中 薫)


『4回を経た女性トップセミナーの振り返りと課題』

本セミナー呼びかけ人 仲宗根迪子氏 (ならコープ副理事長)

90年代後半、 全国で女性の役付き理事 (理事長・副理事長・常任理事など) が意識的に輩出されるようになった。 これは日本生協連から男女共同参画に関して主に機関運営の場や連合会組織、 組合員活動の場、 職員組織での推進が提起され、 こうした流れの中で会員生協での論議が始まった事による。

生協の役付き理事は男女に限らず、 常勤であったり、 非常勤でも学識者や組合員活動経験の女性とさまざまで、 定款や役員規定で機能が謳われているが、 実際その職務や活動範囲は単協の歴史や組織風土に影響を受ける。 初めて役付きになった組合員代表の女性にとって、 自身の力量や活動の在り方に悩むことも多く、 何より先例やネットワークが少なく孤独である事が多い。 そうした問題意識から女性役付き理事の研修・交流を目的に、 京都生協前理事長末川千穂子さんの働きかけで 『くらしと協同の研究所』 で女性トップセミナーが開催される運びとなった。

この女性トップセミナーの特徴はまず女性トップの参加者が20名ほどで、 1テーマごとに論議の時間を多く取っていることである。 一方的に教えてもらうという立場ではなく (勿論教わることは多いが)、 議論に参加することでさまざまな事を認識し、 また深め、 考える力を付けることを狙って、 こういう参加規模で進めている。 また複数の研究者や生協 OB、 トップリーダーが問題提起をしたりコメンテーターとしても参加することで、 生協運動実践者だけの議論ではなく、 広い視野に立て多方面から論議することができる。 自生協のポジションや組織風土を客観的に見る力も養われる。 そういった意味では単協毎の理事研修と違った意味合いがある。

今まで4回開催されたが、 講師陣には生協トップや OB、 研究者 (理念・店舗事業・会計)、 弁護士、 企業の女性役員、 NGO など実に多彩な顔ぶれであった。 毎回目一杯のプログラムが組み立てられている。 今回は名古屋開催ということもあり、 役付きでない組合員理事の参加も多く好評であったことから、 今後はトップに限るのか、 また女性に限るのかも課題になっている。

現在の生協は経済構造改革と競合で経営に厳しさが増している中、 事業基盤を盤石のものにすることが急務になっている。 日本生協連や地連の議論もそのことに集中しているのはやむを得ないが、 変化の時代だからこそ、 理念や機関運営、 地域社会とのかかわりや社会的なポジションの問題など多様なテーマをさまざまな立場の人たちと議論を深めることも忘れてはならない。 そういった意味でこのセミナーは貴重なものになっている。


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