2001年12月号
人モノ地域2


ワーカーズコレクティブという働き方・組織のあり方

(神奈川ワーカーズコレクティブ調査の報告)

「生協と福祉」 研究会
松本 崇 (京都大学大学院経済学研究科修士課程)

「生協と福祉」 研究会では、 11月5日と6日の2日間に調査・研究の一環として、 神奈川県の3つのワーカーズコレクティブと神奈川ワーカーズコレクティブ連合会を訪問した。 今回はこの調査の報告を行うことで、 読者の皆さんにワーカーズコレクティブとは何かを、 そしてその現状と多様な取り組みを紹介したい。


ワーカーズコレクティブという働き方

ワーカーズコレクティブ (以下、 ワーコレ) とは、 一般の企業のように雇用する側としての経営者が存在し、 その人たちと雇用契約を結ぶことで働いて賃金を得るという働き方とは異なり、 雇用する側とされる側という役割が存在するのではなく、 働きたい人々が対等の立場に立ち、 メンバーが相互の合意と自己責任に基づいて、 組織の運営方針を決めて働いていくという、 新しい働き方を実践している組織である。

神奈川県で最初のワーコレが設立されたのは1982年である。 それから約20年が経過したが、 現在の神奈川県全体でのワーコレの団体数は、 174団体にまで達している。 分野別の内訳としては、 在宅福祉部門が91団体 (うち家事介護サービスが56、 食事サービスが13、 移動サービスが9、 保育サービスが10、 健康支援サービスが3となっている)、 食部門が14団体、 ショップ部門が7団体、 生活クラブ生協からの委託部門が43、 情報文化部門が10、 そしてリサイクル部門が9となっている (2001年9月末現在)。 以下では今回の調査で訪れたワーコレを紹介したい。 まず、 介護保険の導入もあり活動の伸びが最も高い在宅福祉部門、 次にワーコレの最初のメイン事業である生協からの業務委託部門、 そして数は少ないが個性的な情報・文化部門のワーコレのケースを具体的に紹介するとともに、 その活動からワーコレの特徴を導き出したい。 そして、 神奈川ワーカーズコレクティブ連合会による各ワーコレへの支援の内容も紹介したい。

在宅福祉の実現を目指すワーコレ

家事介護ワーコレ 「ぐっぴい」 は1998年に設立され、 12人のメンバーでスタートした。 現在はメンバー28人、 登録利用者は55人となっており、 活動時間はスタート当初の約1000時間から約5300時間にまで伸びている。 活動内容は、 高齢者への家事援助と身体介護がメインであるが、 障害者への援助や産前産後のお手伝いも行っている。

「たすけあい ぐっぴい」 が活動する地域である、 横浜市西区は横浜市内の中でも高齢化率が高く、 古くからの住民も多い。 だがその一方で高層マンションなどが立ち、 新しい住民も入ってきているというように、 住民の幅が大きい。 また、 生活クラブ生協の共同購入班も少なく、 ワーコレを立ち上げる活動の下地もしっかりとしたものではなかった。 そうした環境の中でメンバーたちが、 住民の高齢化が進行するのを見て、 福祉のまちづくりをやっていく必要性を実感し、 まずは人数は少なくても自分たちのできることから活動を始めていき、 現在の事業へと結びついていった。 このような 「自分たちのできることから」 というスタンスは他の多くのワーコレの出発点にも共通している。

生協からの業務委託を引き受けていくワーコレ

企業組合ワーコレ 「キャリー」 は1992年に設立され、 23人のメンバーでスタートし、 生協からの野菜ラインの配送業務委託から事業を始めている。 現在は生協の牛乳ラインの配送業務委託の事業を行う企業組合と、 生協の組合員宅への個別配送業務を行うワーコレに組織を分けている。 それぞれのメンバー数は100と90となっている。 現在の事業内容は牛乳ラインの配送業務委託と、 個別配送の業務委託がメインであるが、 この他にパン製造のワーコレがつくったパンの配送や、 独自のカタログ販売も行っている。

「キャリー」 はトラックを使っての配送業務という男性に多い仕事に、 女性たちがワーコレという働き方を通じて参加していった。 そして苦労の末に、 企業組合という法人格を取得することで、 社会に向けて自分たちの存在を訴え、 それが生協からの信頼に結びつき、 配送業務の受託を急速に増やしていった。 その配送業務という仕事をしているメンバーたちの属性も働き方も多様である。 当初は女性たちで立ち上げたワーカーズであったが、 現在は男性も多く参加しており、 中には若い人もいる。 ワークスタイルも、 フルタイムで働く人もいれば、 週に1~2日だけで他にも仕事をもっているという人もいる。 このようなワーコレの中でのワークスタイルの多様性ということは、 ワーコレの大きな特徴である。

クリエイティブな仕事をするワーコレ

編集ワーコレ 「セッションD」 は1990年に設立され、 20人のメンバーでスタートした。 このワーコレは生活クラブ生協の機関誌の編集を行う組合員を生協が募集し、 その人たちが設立したものである。 現在のメンバーは4人で、 事業内容は生活クラブ生協、 福祉クラブ生協、 そして神奈川ワーカーズコレクティブ連合会の機関誌の編集や取材、 単発のパンフレットなどの冊子の編集業務委託を受けている。

「セッションD」 が事業の柱とする、 編集という仕事はある程度の技術力やセンスを要求される仕事である。 立ち上げ時のメンバーの中には情報紙づくりの経験者もいたが、 未経験者もいた。 そうした中から、 現在ではパソコンなどの技術的な問題にぶつかっても、 自分たちで積極的にその問題について研究することで解決していき、 そこで得た知識をメンバーの間で共有して仕事につなげていっている。 こうした問題の解決と知識の共有ということは、 編集系ワーコレのようなクリエイティブな仕事を行うワーコレだけではなく、 他の分野の多くのワーコレにとっても必要なことである。

多様なワーコレを支援する組織

神奈川ワーカーズコレクティブ連合会 (以下、 連合会) は1989年に27のワーコレが参加して設立された。 連合会は、 それまで各自の事業を行っていくだけで手一杯だった各ワーコレが情報交流を行う中で、 ワーコレ相互のネットワークの必要性、 事業のさらなる飛躍のための協力、 法制化問題のなどのワーコレが持つ課題の解決のための場の必要性を認識し、 ワーコレ運動の発展を目指すことを目的に設立された。 連合会の活動の中でも注目すべき活動は、 各ワーカーズに対するマネジメント支援である。

講座としては、 「共育 (ともいく) 講座」、 「かながわ NPO 大学」、 「ワーコレ入門講座」 の3つがある。 「共育講座」 は会員ワーコレ向けの講座で、 一般教養講座から部門別講座まであり、 内容も専門的である。 「かながわ NPO 大学」 と 「ワーコレ入門講座」 はワーコレに興味のある人や、 これからワーコレを立ち上げて事業を行っていきたいという人向けである。 これら2つの講座は次世代のワーコレ予備軍を養成ことが目的である。

また講座以外では、 部門別にうまくいっているワーコレの事例集を出している。 これは各部門でうまくいっているワーコレのマネジメントの手法や事業の展開方法などを解説しており、 各ワーコレの今後の参考資料としてつくっている。

新たな組織のあり方としてのワーコレ

ワーコレは規模の小さい組織が多く、 それぞれが地域の中に小さく点在しており、 その分地域との距離が近い。 また、 組織の規模が小さいことで、 機動性があり、 柔軟性にも富んでいる。 そしてそのような強みを持つ小さなワーコレが連合会を通じて相互にネットワークを構築し、 自分の地域だけではなく、 神奈川県全体を豊かにしていっている。

このように、 小さな組織が自分たちのできること、 あるいは得意なことに取り組み、 自分たちとは違うことを行っている組織とネットワークでつながるということは、 現在の社会全体の傾向である。 そしてワーコレはこういった手法を社会が注目する前から実践してきたのである。 ワーコレは新たな働き方を実践してきただけではなく、 新たな組織のあり方も先取りして実践してきたのである。


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