2001年12月号
書評1
生協のアイデンティティーと、 私のアイデンティティー
井上 英之
大阪音楽大学教授
『虹のメッセージ』
末川千穂子著 2001年
かもがわ出版 1600円+税
京都生協の前理事長末川千穂子さんが、 退任にあたってまとめられた本です。 シャルル・ジードによって提案された協同組合運動のシンボルとしての 「虹」。 この 「虹」 をテーマとカバーデザインにした 『虹のメッセージ』 は、 たんなる記念誌でなく、 協同への思いをまとめた今日の生協がかかえる問題を考えるにふさわしい本です。
94年の大赤字による96年の執行部交代。 そこに 「高等学校時代のバスケットボールと生協」 に一生懸命になった末川さんが女性理事長として登場します。 それからの5年間の苦闘。 「あとがき」 では、 「社会・経済の逆風も加わり、 組織の再生・生まれかわりを求めて苦闘する5年間でした。 ただでさえ肩こり症の私が、 首と肩をガチガチに凝らしながらも、 元気で意欲的な組合員からエネルギーをわけていただき、 地を這うような努力をつづける現場・本部の職員に励まされ、 かわるのが先か、 経営的に破綻するのが先か、 というきわどい日々を重ねてきました。 …やっと行くべき道がみえてきた…そこで次の世代へのひきつぎをさせていただくことになりました」 と記されています。 思いはここから発しています。
第一部の 「ある時代、 協同と民主主義と私」 は、 フィード・バックの手法で末川さんにとっての3つ画期がまとめられています。 「京都生協 1996年」 では、 「累積し絡み合った矛盾が臨界点に達して炸裂したとしかいいようない」 執行部交代と、 生協がかかえ込んでいる問題群の中にトップリーダーとして登場しなければならなかった理由が分析されています。 そして、 それを主体的に担わなければならなかった過去の2つの輝ける画期、 生協活動の原点となった家計活動、 「わたしの民主主義」 を育くんだ高校時代、 がまとめられています。 苦闘にたちむかう末川さんのまさにアイデンティティがうかがわれます。
第二部は、 京都生協の機関誌・紙に掲載された文章からセレクトされたものがまとめられています。 食を中心に、 いずれも 「くらし」 と 「協同」 へのメッセージで、 その時々の課題や到達点が反映しています。 「夢」 ではサッカーW杯がバスケットの夢となり、 確信のもてなさや不安を生みだすのは、 「チームの中での信頼関係、 そして場面場面での素早く的確な判断と動き」 がないこと、 「攻撃の想像力と創造力の貧弱さ」 が 「生協への夢」 として語られています。
第三部の 「協同の豊かなひろがりを求めて」 は、 二場邦彦さん (京都生協学識理事・当研究所理事)、 バトンタッチをした小林智子理事長との鼎談となっており、 「経営の危機」 「信頼の危機」 に直面するなかでの、 率直な問題提起と苦闘の中で何をつくりだしてきたのかを語り合っています。 この5年間の主体的な総括としてきわめて貴重なものと言えるでしょう。 御一読をおすすめします。
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