2001年10月号
視角
薬害エイズ被害者からみた 「薬害ヤコブ」
川田 龍平
Bブラウン社のヒト脳乾燥硬膜 「ライオデュラ」 を使用してクロイツフェルト・ヤコブ病に感染した被害者らが提訴した薬害ヤコブ病裁判が、 大津、 東京両地裁で結審した。 裁判所は結審の日に原告も予測しなかった異例の和解勧告を出してきた。 しかも、 裁判所からの和解にあたっての所見 (意見) が出されなかった。
薬害エイズの和解勧告では、 裁判所から画期的な、 国の法的責任について認める和解所見が出され、 それから和解交渉が始まっていった。
過去のスモン、 サリドマイド、 クロロキンの薬害裁判や、 水俣など公害裁判で裁判所が国の責任を認めたことはなかった。 厳密に言えば、 救済責任 (被害が悲惨だから助けなければならない責任) までは認めてきたけれども、 加害責任 (被害を引き起こし、 拡大させた責任) までは認めてこなかった。 薬害エイズの裁判で勝ち取ったと思えたのは、 その加害責任を国に認めさせ、 文書に残したことが大きかった。
しかし、 薬害エイズの和解にあたって、 納得いかない点がいくつかあった。 その中で、 特に悔しいと思っていることは、 「謝罪」 という言葉が文書に盛り込まれなかったことと、 真相解明がされていないことだ。
何が悪かったのか、 自分たちがしたことを間違いだったと 「罪」 として認めて 「謝る」、 心からの 「謝罪」 がされていない。
真相解明については、 '96年3月、 和解の確約書で 「厚生大臣は、 …再び本件のような医薬品による悲惨な被害を発生させるに至ったことを深く反省し、 その原因についての真相の究明に一層努めるとともに、 …」 という約束をしているのだが、 資料の公開はいまだ不十分だ。 '96年8月に検察が厚生省から家宅捜索して持ち出した資料が裁判の証拠として採用され、 刑事裁判が始まって1年経過してから、 ようやくエイズ研究班の会議が録音されているテープの存在が明らかになった。 いまだにテープの公開はされていない。
真相が解明されず、 薬害に対する責任はあいまいにされて、 スモン、 サリドマイド、 クロロキン、 その他にもさまざまな裁判として大きく問題になっていない薬害が繰り返し、 ひき起こされてきている。 責任者が処罰されないために、 後任者も責任をもった行動をとらなくても許されるという、 不作為の連鎖がおこっている。
薬害ヤコブ病の問題も、 薬害エイズと同じく厚生省が何もしてこなかった不作為によって被害が拡大され、 多くの命が奪われ、 そして今も苦しんでいる。
しかし、 いまだに、 厚生省は薬害の反省をまったくしていない。 つい先日も、 コレステロールの値を下げる薬で、 アメリカで企業が自主回収した製品に対して、 すぐに対策をとることをしなかった。 非常に対策が遅い。 狂牛病の問題についても、 ヨーロッパで問題になっていて、 日本でも同じことが起きてくることが予測されていたにも関わらず、 対策がとられなかったために被害が拡大している。
危険だということをわかっていても、 企業は利益追求をし、 官僚も一緒になってその体制を支えている。 さらに今後は、 規制緩和によって、 監督官庁の権限が弱まり、 企業がますます、 やりたい放題のことをできるようになっていく危険性がある。
薬害エイズの刑事裁判は週1回のペースで続いていたが、 薬害エイズは終わったものと世論の関心はピークのころに比べると、 落ち着いてきていたところに、 今年3月28日、 安部英被告に対して、 無罪不当判決が出された。 血友病専門医の権威で、 エイズ研究班班長の立場にあり、 もっとも責任があった彼が責任をとらなかったのでは、 いったい誰に責任があったのか。
その後、 7月2日 (大津)、 16日 (東京) に、 薬害ヤコブ病の裁判が結審していくのだが、 被告国は8月28日、 和解勧告に対する意見書を出してきた。 国は薬害ヤコブの責任をまったく認めようとしていない。 国は薬害エイズの民事裁判で一度認めた薬害に対する責任を、 安部無罪判決とあわせて、 責任はなかったという方向へ覆そうとしている。
9月28日には、 元厚生省生物製剤課長であった松村明仁被告に対する判決が言い渡される(※)。 安部判決を出した永井敏男裁判長が判決を出すことになっているが、 このまま、 薬害の責任が国になかったとは言わせない。 薬害ヤコブ病の裁判についても、 法的責任を国に認めさせた上での和解でなければならない。
※追記
- 官僚の不作為責任を問う裁判では画期的な有罪判決であった。
- 一方で危険性が認識できたとする時期が遅すぎ、 帝京大ルートが無罪という点、 また、 刑も執行猶予のついたもので、 感染の被害を軽視した判決であった。
かわだ りゅうへい
人権アクティビストの会 代表
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