2001年10月号
書評1


トップが語る生き残り策とは?

杉本 貴志
関西大学商学部助教授


『生き残れるか生協-生協トップへの連続インタビュー』

岩垂弘著 2001年
同時代社 1900円


本書は、 現在活躍するジャーナリストのなかで、 生協運動にもっとも詳しく理解のある著者が、 「かつてない苦境」 にある日本の生活協同組合の経営トップや研究者らに行った連続インタビューの記録である。 対象となった人びとのなかには、 単協の理事長や専務理事ばかりでなく、 連合会や事業連合、 あるいは労働組合の幹部も含まれている。 生協運動に熱心に関わっている組合員や、 生協を職場とする職員であっても、 自分が属する生協以外の生協のことは案外何も知らなかったりするというが、 とくにそんな人には興味深く読める書物であろう。 それぞれのインタビューは5ページ程度にまとめられているから、 とても読みやすく、 わかりやすい。

さてそれでは、 25人に対する30回に及ぶインタビューを通して、 著者はどんな結論を得たのだろうか?

著者は、 現在の困難から脱出し、 新たな発展を遂げるために、 現在生協では 「結局、 二つの道が考えられているようだ」 とまとめている。

「一つは、 徹底的な経営の合理化を促進することで経営の立て直しを図る方向」 である。 リストラを断行する一方で、 さまざまな社会運動にはあまり熱意を示さない、 こうした路線に 「全国の生協の多く」 が向かっていると著者は見ている。

それに対して、 「あくまでも組合員に依拠して生協の発展を図ろういう方向」 を著者は対置する。 そしてその代表例として、 ちばコープやいわて生協があげられるのだが、 この両生協の経営トップには2回インタビューが行われていることからも、 著者がこうした路線に対して強く共感していることは明らかである。 もちろんそこには、 生協のあり方をめぐって 「大論争」 が起こることを期待する著者の計算もあるだろう。 「徹底的な経営の合理化」 を推進する生協は、 「あくまでも組合員に依拠して生協の発展を図ろうという方向」 とは相容れないのか、 当事者からの反論を著者はむしろ期待しているのかもしれない。

読みやすく、 日本の生協入門としても優れた本書だが、 あえて注文を付けるとすれば、 新聞の連載をもとにしているという事情もあり、 それぞれのインタビューが簡潔にまとめられすぎていて、 少々物足りなさも感じる。 おそらく実際のインタビューではもっと多くのやりとりがあったのだろうが、 そういう部分も知りたいものである。

また、 著者のいう 「徹底的な経営の合理化」 を推進する側の論理も、 もっと紹介してよかったのではないか。 本書に登場する人物は、 生協運動がめざすべき方向性において、 著者と考えが一致する人びとが比較的多いように思われるが、 読者としては、 著者がジャーナリストとして生協トップに論戦を挑み、 切り込む姿も見たかった。 そういう意味でも、 続編の刊行を期待したい。


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