2001年10月号
コロキウム


地域生協とボラン・システム

鹿児島国際大学経済学部教授
八尾 信光

はじめに

少子高齢化と過疎化によって多くの地域でコミュニティの維持が困難になっている。 これに加えて、 グローバルな大競争の進展と量販店や大規模店の進出が地方産業と商店街に打撃を与え、 この面からも地域社会の衰退が進んでいる。 これに対して国や自治体が果たすべき役割は今でも非常に大きいが、 政府による行財政的施策にも様々な欠陥や限界があるために、 市民自身によるボランティア活動への期待が高まっている。 そしてこれを促進するために地域 「通貨」 を導入する試みが各地で進められている。 地域社会や地域住民のためにボランティア活動をした人に対して、 その労力提供に応じて紙券または点数を与え、 それによってこうした活動を発展させようとするものである。

これについて筆者は最近、 二つの論稿を発表した。 一つは、 これに関する松尾匡氏の論文を検討して、 今の日本で地域社会の再生を目的に地域 「通貨」 を導入するとすれば、 地域内で通用する商品割引券 (ボラン) を用いるのが最も現実的ではないかということを論じたものである。 ボランティアに商品割引券で謝礼をするシステムを創れば、 地域福祉の向上と商店街の再生とを同時に達成できるのではないかということを述べた。 もう一つの論稿では、 このシステムを実際に構築し運営するにはどのようにすればよいかについての具体案を示した。 幸いにして様々な分野の方々の共感や賛同を得ることができたので、 さらに多くの方々がより具体的な検討を加え応用して下さることを期待している。

本稿では、 このボラン・システムの概略を説明した上で、 その創設と運営および活用に生協はどのように関わるべきかを論じてみる。 ただし筆者自身は協同組合の研究者ではないので、 生協関係者自身による主体的な御検討をお願いしたい。

1.ボラン・システムの概略

筆者が提案しているボラン・システムとは、 おおよそ次のようなものである。

以上の仕組を簡単に図示すれば第1図のようになり、 それには次のような意義がある。

(ボラン・システムについてのより詳しい説明は関連拙稿をご覧頂きたい。)

2.ボラン・システムと地域生協

以上のように、 ボラン・システムは、 個々の市民や業者の自由な意志を最大限に尊重しながらボランティア活動を発展させる。 それによって地域社会と住民の福祉を向上させ、 地域経済そのものを再生させることができるのである。 したがって、 それぞれの地域でこのシステムを構築しうる可能性がある場合、 生協関係者はその創設と運営に進んで参加し協力すべきであろう。

ボラン・システムには、 量販店やチェーン店に奪われた客を地元の中小零細店に引き戻す作用がある。 薄利多売で売上を伸ばしてきた大規模店よりも地元の中小零細店の方が店頭価格に対して高い割引率を設定しうるからである。 したがって、 このシステムは必ずしも生協の売上を増加させるとは限らない。 生協は半ば大規模チェーン店としての性格も持っているからである。 けれども、 生協の場合は、 外来の大規模量販店やチェーン店などに比べると、 ボラン・システムに参加し協力することのメリットが大きい。

生協は薄利多売や高級ブランド品の販売で利益を得ようとはしている訳ではないから、 そうした方法で利益を得ようとしている量販店やデパートに比べれば、 高い目の割引率を設定することができる。 こうした大規模店が5パーセントのボラン割引にしか応じられない場合でも、 生協ならば10パーセントのボラン割引に応じることが出来るかもしれない。

しかも、 生協の場合は、 受取ったボランを様々な方法で活用しうる。 地元業者との取引も重視しており、 その中に協力業者が含まれているとすれば、 それへの支払いの際にボランを活用できる。 地域住民を店員やパートタイマーとして雇っている場合には、 それへの繁忙時特別手当 (賃金への上乗せ分) などとしても活用できる。 生協は、 運営委員など多くのボランティアの協力によって成り立っているが、 そうした人々への謝礼(手当)にも当てることができる。 (例えば、 これまでは運営委員に月額2500円の手当を現金で支給していたとすれば、 それを月額3000ボランというように改めて支払うこともできよう)。 生協はその他にも多くのイベントや社会活動を行っているが、 そのために時間や労力を割いてくれた人々への謝礼にもボランを使うことができる。

このように考えると、 ボラン・システムへの参加は、 生協の売上を増加させる可能性を含んでいるだけでなく、 受取ったボランの活用によって、 現金支出を削減しつつ生協活動を発展させうる可能性も含んでいる。 しかもこのシステムへの参加は生協の地域社会との結びつきを深め、 その発展は地域社会と地域福祉の向上を促すのである。

したがって生協関係者は、 地域レベルでボラン・システムを構築しうる見込みがある場合には、 その創設と発展に積極的に参加し協力すべきであろう。

ただし地域よっては、 地元業者や地域住民の中にそうした意欲や機運が全く見られない場合もあり得る。 一部にそうした意欲のある人々がいたとしても、 それを実現するための現実的な条件がない場合もあるかもしれない。 そうした場合には、 地域生協が独自にボラン・システムを創り、 それによって地域福祉の向上に寄与していくという道もあり得る。

3.地域生協を基盤としたボラン・システム

地域生協を基盤としてボラン・システムを構築する場合の 「通貨」 は、 その生協で使うことができる商品割引券 (生協ボラン) ということになる。 この場合のボラン・システムは、 おおよそ次のようになろう。

以上の仕組を簡単に図示すれば第2図のようになり、 それには次のような意義がある。

以上のように、 ボラン・システムの導入は生協と生協活動の発展に大きな役割を果たす。

むすび

地域通貨には色々なタイプがあってよいが、 今の日本でそれを導入し機能させるには、 地域内で使用可能な商品割引券を用いたボラン・システムのような形のものが最も現実的であるように思われる。 したがって生協関係者には、 そうしたシステムがそれぞれの地域で構築できないかを検討し、 その実現に努力して頂きたいが、 それが難しい場合でも地域生協独自のボラン・システムを創ることはできる。 ただし、 生協が独自のボラン・システムを発展させた場合には、 それがボランティア参加者をはじめとする生協関係者の意識をあまりに強く所属生協に結びつけるために、 外部への関心を薄れさせる可能性も含んでいる。 したがってこの場合には、 外部環境の変化や関連業界の動向に一層の注意を払うと共に、 他の生協や農協、 地元業者との連携に今まで以上の意識的な努力をしていく必要があろう。※


※生協が独自のボラン・システムを構築した場合でも、 それに地元業者などの参加と協力を呼びかけることはできる。 それぞれの業者に自己申告した割引率の範囲で生協ボランによる支払を認めてもらえばよいのである。 協力業者とその割引率の一覧表を公表すれば、 協力業者の宣伝になる。 協力業者は受取ボランを活用するために生協に加入し生協からの購入を増やすであろう。

生協が独自のボラン・システムを構築した後に、 他の生協や地元商店街などが別のボラン・システムを創った場合には、 それらとの話合いで相互にボランを共用できるようにしてもよい。 生協ボランを商店街で使い、 商店街ボランを生協でも使えるというようにするのである。 それに弊害がありそうなら、 お互いのボランを適当な比率で交換してもらった上で使えることにすればよい。

それぞれの地域内に LETS や 「ふれあい切符」 のような形の地域 「通貨」 サークルができ、 それらのサークルから、 それらの内部に余剰 「通貨」 を抱える人々 (他者から受ける支援に比べて他者への支援が多い人) が生ずるので、 それらの人々の余剰 「通貨」 を生協ボランに換えて欲しいと求められた場合は、 その活動内容を聴いた上で、 それらの地域 「通貨」 を適当な比率で生協ボランに換えて上げればよい。 例えば、 20時間分の余剰切符=5000生協ボランといった割合での交換に応じて上げるのである。 そうすれば、 地域内の様々なグループが自発的に行う相互支援活動を生協が支援することになり、 それらの人々と生協との結びつきも強められることになる。 それらの人々が生協に持ち込んだ 「通貨 (切符)」 を生協の職員やパートタイマーが使ってもよいという場合には、 交換の際に渡す生協ボランの割合をもっと多くしてもよい。


参考文献


前のページへ戻る