2001年4月号
書評2


よみがえる、思い出・・・・・そしてこれから

岡本やすよ 京都生協組合員


『あのころ、今、これから…』

鮫島純子
小学館 1600円


とてもなつかしい気がして、おもわず手にとり、買ってしまった。表紙の絵にひかれた。大人のための絵本。なつかしい暮らし。

巻頭の著者と永 六輔の対談でこの本ができたいきさつ、著者の家族に対する考え、この本にこめたメッセージがさらりと語られる。きっかけの巻物が見てみたい。「はじめに」の現代風俗、意地悪記録となっているが、若者から老人まで各世代の絵とコメントが楽しい。ほとんどの絵が笑顔のためだろうか。

第1章 暮らしの変化 昭和初期から平成
昔と今が対比されながら絵と散文で語られる。そうだった、そうだった。そう、そう。行間ににじむ暮らしへの想い。体験してきた世代にはよくわかる。

第2章 家事 今昔物語
私の幼いころの母の姿、祖母の姿、そのころの日差し、におい、おと、かぜ、何もかも一度に思い出す。

第3章 昭和の初め頃まで街中で見かけた商売
見たことがないものもあるが話には聞いている。父や母の思い出話。それぞれの商売の人たちに出会った時の状況、話を聞いた時の様子が思い出される。

第4章 21世紀に残したい大切なこと
昔の暮らしの合理性が見事。「専業主婦の仕事は誰も特別認めてくれず、褒められもしないが、家計の助けにゴミの減量に大いに貢献していたのだろう」「産業廃棄物がふえ自然還元ができなくなった せめて家庭のゴミを減らさなければ」の言葉に共感する。

各章にエッセイがついている。海老名香葉子の戦火に消えた家族の思い出があたたかく、子供のころの親の愛をあらためて感じる。吉沢久子からはこの人の折り目正しい暮らしぶりが感じられる。小沢昭一の音の話が一番いい。次々と語られる音でよみがえる暮らしの場面。俳優ならではの感性。「その一つ一つは、人の身すぎ世すぎの切ない稼業でもあったわけで、それがすっかり途絶えてしまったことは、むしろ喜ぶべきことでもありましょう。」に働く人たちへのあたたかいまなざしが感じられる。

最後には20世紀の年表がついている。庶民の暮らし、風俗や世相が中心になっている。学校で習った歴史でなく、祖父母・父母から私に伝えられた100年があった。

庶民の暮らしは歴史には残っていかない。こうして100年の暮らしを絵で見てみると失われたものの多さに驚いてしまう。変化して当然だけれど残ってほしいと思うこともたくさんある。たとえば、お正月の獅子舞、夏のすだれ、新聞紙のかぶとなど。その時の状況が一気によみがえり、家族・友達との失われた時間が取り戻せたらやさしくなれるのではないだろうか。

一人で思い出に浸るのにもいいし、友達となつかしい時代を共有するのにもいい。また、若い人達、子供達に思い出を語るきっかけにもいい本です。


前のページへ戻る