2001年4月号
特集


組合員から見た「商品づくり運動」


くらしと協同の研究所では、2000年度より「協う」編集委員会に京都生協組合員の参加を得て、同生協の「商品づくり運動」の取材を進めてきた。この運動は「生協活動の基本である商品づくりを、組合員の手によって進める、組合員自身の商品創造の運動」(2001年2月発行、「京都生協の商品活動」より)と位置付けられ、当初の商品開発計画がほぼ何らかの形で出揃った。生協事業の合理化・見直しが進み、いくつかの生協が同様の取り組みから撤退する中で、同生協では2001年度以降もこの運動の継続が予定されている。当研究所がこの間テーマとしてきた「21世紀における生協のあり方」を考えるにあたり、実際に新商品開発に携わった組合員としての立場も踏まえて、この取り組みの成果と今後について考える。



1京都生協の「商品づくり運動」とは

同生協は、バブル崩壊などの社会変化に伴う組合員の商品に対する要望の変化を受け、95年、「あたらしい商品活動方針」の中で「商品活動」を「生協の本質であり、原点である」と改めて確認した。そして、96年度より組合員と職員が商品活動を通じて「生き生きする」ための実践を開始した。今回取り上げる「商品づくり運動」は、直接的には97年度より出発している。同年、「コープ商品総点検運動」と称し、単協コープ商品の開発・改善を改めて本格的に再開した。そのねらいは、組合員一人ひとりの声から出発し、組合員、職員、生産者(メーカー)の新しい関係づくりを実践的に進めること、組合員自身が創造的に参加することで「私の生協」という実感を育むことに置かれた。このため、「次代の新しい商品づくりをすすめる組合員活動や協同のあり方を、実践の中で展望していく活動」とも位置付けると同時に、取り組みのプロセスを大切にする運動でもあるとした。

具体的には、まず「みんなで声をだします」の方針のもとに、約1000品目の商品についてアンケートによる見直しを行った。2万8000件に及ぶ組合員の声の中から、開発・改善希望商品をリストアップし、翌98年10月、28行政区ごとに開発担当商品を決定。組合員・職員・メーカーの3者が一体となって、商品のコンセプトづくり、仕様書を設計するところから運動をスタートさせた。試作品のアンケートや、その結果にもとづく検討という商品そのものの仕様だけでなく、包材やデザイン、宣伝など商品作りの全ての過程で組合員がかかわった。99年5月から開発商品のデビューが始まり、2001年2月現在、23行政区の41アイテム(うち食品38アイテム)が商品化されている。

一連の「商品づくり運動」について、同生協は2001年度の商品活動方針における「前年度のふりかえり」で、「アレルギー問題や品質管理問題など商品開発の奥深さについて、組合員・職員・メーカーとともに学ぶ貴重な場だった。今後は第一次開発商品の育成やメンテナンスが課題」と総括している。

95年度から新たに出発した商品活動は、「商品づくり運動」以外にもさまざまな活動が展開されるようになってきた。「つくる」「しる」「しらせる」「ひろめる」の4つの柱の元に、組合員の直接参加の機会を飛躍的に広げた。たとえば、「検討メニュー」という方式で開発した「無脂肪ヨーグルト」は、53の「こーぷるひろば」(地域ごとに集まり商品や生協のことについて話し合う自主的な場)、23の「コープ委員会」(店舗ごとの組合員組織)やクラブ(特定の課題について活動する自主的組織)の組合員や職員、1204人が試食し、アンケートに答えている。ほかに、「開発メンバー公募方式」といわれる、公募した組合員メンバーと職員、メーカーが開発を行う方式や、「試買アンケート方式」など、これらの活動を通じて2000年度だけで30品目以上が開発、リニューアルされている。

2001年度は、さまざまな方式を組み合わせたり、「二次・三次開発参加の要望の出されている行政区を中心に進める」などと同時に「現状の供給推移では継続困難となる見通しのものは、不振要因を把握してリニューアルもしくは廃番を検討する」などもあげられている。組合員の暮らしの変化に見あった商品活動をさらに深めていく予定である。

2「商品づくり運動」取材の経緯

今回は、「かんたん煮魚」を作った福知山・三和・大江行政区、「おうちでパエリア」を作った船井・美山行政区、「ちょっと一切れ!直火焼き焼き魚くん」の宇治・宇治田原行政区、「京のだし巻」の中京行政区、「ブルーベリーヨーグルト」の伏見東、「マイスポンジ」の京田辺行政区を訪問し取材した。また、「ブルーベリーヨーグルト」と「おうちでパエリア」を開発したメーカーと商務にも、お話をうかがった。店舗の現場からは、コープ男山とコープ西陣の店長と担当者からもお聞きした。最後に、それまでの取材をふまえ、京都生協の商品担当常任理事と商品政策室マネジャーからもうかがった。

3「商品づくり運動」とその取材をふりかえって

---編集委員による座談会---
岡本やすよ、武内タキ子、田中 薫、森 智子、若林靖永

(1)組合員が商品づくりに参加することへの評価

若林:最初に、組合員の商品づくりにかかわっての感想や印象はどうだっただろうか。

岡本:組合員と職員、メーカーがそれぞれ、人格を含めて認識しあえる人間関係を継続的に結べたことは良かったと思う。組合員の多くは、自分のくらしのなかで、今まで以上に商品をしっかり見る目ができたようだ。また、「生協に入っていて良かった」「生活が豊かになった」という共感が、行政区委員を中心として関わった組合員に広がったことは、この運動の成果だったと思う。

田中:「メーカーが組合員と共に開発してくれるのは生協ならでは」という声があった。

武内:組合員は日々の生活の中で感じている商品への思いが実現できたと思う。例えば「集合住宅に住んでいるので、魚を焼くと近隣への臭いが気になる」「若い世代と高齢者向けのおかずを作り分けたい」という生活実感から「焼き魚くん」は生まれた。また、生協は「言えば変わることを実感できた」という声も多かった。

森:「かんたん煮魚」も「単身赴任の家族に魚を食べさせたい」という声から生まれたそうだ。こういうように報告書には出ない、商品づくりに込められた組合員の様々な思いを聞けたことが取材をして一番良かった。

田中:「煮魚」の開発に携わった組合員は「長い時間がかかったが、毎回新しい情報を得ることができて新鮮だったし、その回が終わると次のステップがあって楽しみだった」という。「ものを作り上げること」の達成感、充実感を味わえたことが大きかったように感じた。

(2)商品部とのかかわり、商品化後の組合員の思いと店舗とのギャップ

岡本:組合員の熱気は職員側にどのように伝わったのだろうか。

森:開発にかかわった組合員は「商品づくりは生協の財産」「その商品のことなら何を聞かれても答えられる」「味、安全性など全てに自信を持っている」などと話している。開発した商品を我が子のように思って、売れ行きにも責任を感じているが、供給状況のデータが手元に届きにくいとか、宣伝に行きたいのに、それは最初は期待されていなかったなどがあった。

武内:でも、店舗に宣伝に行ってほしいと言われて行ったけれど、負担に感じたという人もいた。

森:商品は、売ろうと思って作るので、「商品づくり」は売り方や宣伝も含めてのものだと思う。宣伝にもっとかかわりたいと思っている組合員は多い。商品部にとって組合員とともに開発した商品はどういう存在なのだろうか。

岡本:「店舗でのデビューの日に発注数が少なくて品切れになってショックだった」「店舗で試食宣伝しているのに、(当時は)共同購入でしか買えなかった」との声もあった。でも、組合員、生産者の思いがこめられた商品は他にもあるし、組合員が開発した商品だから常時特別扱いにはできないと思う。

若林:開発から販売の現場まで、一貫した体制や計画を作り、その中で状況に応じて動くことが必要なことが今回の経験の中で分かってきた。

(3)商品そのものの評価

森:日本で初めてという冷凍パエリアは「具が大きく食べごたえがある」と好評で、「スペインで食べたのよりおいしい」という人もあったそうだ。また、砂糖きびの廃糖蜜などから作ったスポンジは、環境に優しいので、他生協などからも引き合いがきているように、商品そのものの完成度は高いと思うのだが。

武内:組合員が求めている簡単・便利・少量化・簡易包装といった要望には何とか応えられているのではないかと思う。ただ、いいものを作りたいという思いは強くても、値段が高くなるからできないという難しさもあった。

田中:私は、味にうるさい田舎の母に「かんたん煮魚」を勧められて買ってみたけれど、今回の取材では、メーカーが特許をとった調味液を使っていると聞き、納得した。母は父の晩酌の肴に、私は主人の弁当にと、この商品がまさにターゲットとしている「個食」で利用している。でも、おいしいとかおいしくないとかは、個人の嗜好の違いもあって、万人受けする商品を作ることは難しいだろうとも思う。

若林:この運動は組合員の創造性を高め、併せて職員組織も自己変革を図るための「組合員活動」として始まったが、結果として商品価値の高い商品を作ることができ、「事業」としても高く評価できると思う。

森:私は、自分も商品開発に参加したけれど、その商品と同じようにほかの商品も、買う人、使う人の立場で作られていると思うので、必ず1回は買っている。「作る人も買う人も京都生協の組合員」という信頼感を大切にしている。

田中:私の場合、例えばだし巻きは家で作るので「組合員が開発したから」という理由では買わない。私は、この間話題になっている「新しいタイプの組合員」「生協における異質者」だと自認しているが、私のような組合員は多いのではないか。

若林:京都生協の46万組合員の中でも、「自分で作る人・買う人・もともと食べない人」に分かれていて、「組合員の開発商品」であることは、「買う人」にとっての一つのオプションにすぎない。森さんが言う「作る人も買う人も京都生協の組合員」という気持ちを、組合員の中に広げていくためには、どんな人のどんな生活を応援するための商品か、ということを大切にすることだ。そうすれば、そのターゲットの中では気持ちがつながっていくのではないだろうか。そのためには、ターゲットとして設定した層に商品が支持されているのかを調べ、されていないなら、そこに絞った宣伝をする必要もあるだろう。

田中:衣料品や子ども用品の通信販売でも、消費者参加の開発を進めているが、こうしたカタログを見ていると、必ずしも消費者参加ということだけを強調していない。まず商品を手にとってもらうには、宣伝の工夫も必要では。

(4)組合員参加を広げることは難しい?

武内:私も参加した一人だけれど、97年のコープ商品総点検運動で集まったアンケートを読みこんでから商品がデビューするまでに3年、4年かかった商品もある。その間、原材料から味、価格、包材のデザインなど全てにわたって職員やメーカーの方も組合員と一緒に関わってきた。味に自信がもてないとき、支部長にお願いして共同購入の時にアンケートをとってもらったりもした。商品普及のために他の支部や店にも初めて行った。いろいろあったけれど、そこまでできたのは、いろんな事を行政区委員会に任せてくれたからだと思う。でも、いつも同じメンバーでやらねばならなかったのがつらいところだったけれど。

森:継続した活動で人を集めるのは難しいところがある。でも、「商品作り」のチラシを見て初めて行政区委員になった人もいたそうだし、アンケートには多くの人が書いてくれてもいるし、試飲、試食などのイベントには多くの参加があった。個々の組合員のライフスタイルや価値観に応じた形で、組合員活動の参加の幅は大幅に広がったと思う。

武内:「組合員は単なるお客さんではない」ことを自覚しなければ、という人がある一方で、「私はお客さんで買うだけ」という人も増えている。

田中:興味があることには、時間をやりくりして自腹を切ってでも参加しようと思うけれど、私にとって商品開発はそういう対象ではない。その点、サークル活動的な一面もあると思うのだが、やりたい人を募って開発する方式は物理的に不可能なのだろうか。

若林:興味がある人を集めたとしても、初対面でやるのは難しいかもしれない。仲のいい人や知っている人同士ならいいということもある。商品作りは長期間かかってけっこう大変なので、行政区委員会を中心にしたからできたという面はあるだろう。

岡本:それでも、この活動は自分たちの思いを具体的な形にするという目標を持って動けたし、実際に形にすることもできて、今までの生協活動の中で一番良かったという人もあった。そのおもしろさを、どのような場で、どのように他の組合員に伝えるかだ。

田中:確かに、「いい経験ができた」とどの人も言うけれど、その経験や生協に対する確信を今後の生協活動に生かせる機会はあるのだろうか。

若林:組合員にとって意義のある経験を広げるという点でも、優れた意味のある商品開発につなげるという点でも、行政区委員会のような拠点以外にも、いろんな組合員が友だちを誘って参加できるようなものにしていくことが大事なんだろう。

(5)今後の商品開発のあり方

田中:商品開発にかかわった組合員で、次の参加には二の足を踏むという人も多かったが、そのあたりの負担感はどうなのだろう。

武内:長期間にわたったということもあろうが、自分たちで開発した商品を大切にしたいという思いが強いようだ。

森:私は、ものを作ることが面白いし、好きなので、またこういう機会があればいいと思う。

岡本:これからは、作りたい人、それが欲しいと思う人が集まるともっといい。共同購入や個配で相手の見える事業をしているのだから、組合員がどんな商品だったら参加してくれるのかをつかんで巻き込んでいかねば。

若林:ターゲットにしている人を、商品開発のプロセスの中に巻き込んでいくことは大切だ。その後の組合員への伝わり方や商品の完成度にも差が出てくる。田中さんは、今回の商品開発には興味がないということだが、例えば「かばん」ならどうだろうか。生協が扱っている食品や日用雑貨以外の分野での参加、あるいは、「商品のデザイン」「環境に優しい包材」といった製作の一過程での参加も考えられる。

岡本:枠にはまらない切り口はたくさんあるが、そもそもどういう切り口があるかを柔軟に出し合える場が欲しい。

(6)生協全体として「商品づくり」をどう位置付けるか

若林:生協の方針や話を聞いていると、「商品づくり」の取り組みは組合員活動、ボランティア的な組合員参加としてとらえられているようにも感じる。組合員に「生協らしさ」をもう一度実感してもらうことが、最初の大きな目標の一つになっている。

田中:今後の商品づくり運動の方向として、「有償化」という選択肢もあるのではないか。組合員参加というと「主婦の立場」「消費者の立場」が強調されるが、組合員の中には食品製造やデザイン、宣伝などの専門的な知識や技術を持っている人もいるだろう。「主婦」を含めたそういった人材が、個人の情報や技能を有償で提供する場としての組合員活動、商品づくりという発想も、多様化する組合員像に対応する一つの方法だと思う。対価としての金銭が存在することは、活動の社会的な評価を高めると思う。ただ、無償で行うことこそ組合員活動だと考える組合員もいるわけで、その気持ちも汲んでいくようなやり方が必要だとは思うが…。

若林:生協は組合員のニーズに応える商品供給事業がどれだけタイミングよくできるか、が問われている。その意味では、「商品づくり」は多くの組合員が意思決定に参加している取り組みであるけれども、単なる組合員活動とは違い、マーチャンダイジング(商品供給全体のマネジメント)の重要な一環として位置付けるべきだと思う。ニーズを満たす商品の完成度を追求し、組合員が満足する品揃えを進めるための一つの方法であり、その過程を通じて一般のスーパーが追随できない商品、ひいては店舗を作るということにも貢献するのではないだろうか。

(文責 田中 薫)


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