2001年2月号
エッセイ


組合長職事始め

大山乳業農業協同組合
代表理事組合長 幅田信一郎


昨年の3月末に現職に就任したが、直後に大事件が続発した。92年ぶりという口蹄疫 が宮崎県で発生、日を置かず有珠山の噴火、小渕総理の急死、おまけとして、小生も風邪をこじらせて、一ヶ月あまりの間、声が出なくなるという事態になり、なんとも先行きの案じられるスタートとなった。

口蹄疫については、宮崎県では終息に向かいつつあったが、今度は乳牛の本場である北海道で発生し、畜産業界では相当な被害が出るのではと、一時はパニック状態であったが、幸いにも大きな広がりを見せずに終わった。

その後も大事件が続発した年であった。何といっても雪印の食中毒事件は、被害の甚大さから、酪農・乳業にたずさわるものにとっては忘れられない大事件であった。発生当初は製造ラインの汚染が原因といわれたが、最終的には原料に使用された脱脂粉乳に毒素が含まれていたためであり、その原因が製造中の停電によるものであることが明らかになった。この事件以降、食品のトラブルが連日のようにマスコミをにぎわした。食品の品質管理と事件発生に際しての危機管理の2点が大きな教訓として残ったできごとであった。

もう一つ、10月6日に発生した鳥取西部地震も一大事であった。地震の規模では阪神淡路大震災を上回るものであった。当時、事務所にいた小生も生まれて初めて経験する、大きく、そして長い揺れに言葉を失い、椅子にしがみついていた。死者もなく大惨事にならなかったのは幸いであった。

こうして、多事多難な就任一年目であり、対応に右往左往している間にあっという間にすぎてしまったというのが実感である。

さて、私共の組合は今年で創立55周年となる。酪農家が生産した牛乳を自らの手で処理、加工、販売していこうと立ち上がって工場を運営し、今日までガンコにこの姿勢を貫いてきた。東西の冷戦構造が終わり、経済のグローバル化が叫ばれる今日である。農業分野も例外ではなく、市場原理、経済合理主義の導入が求められている。この流れの中で農業は先行きの不透明感が濃くなっているのが現実である。しかし、食料はこうした流れに巻き込まれるべきものでない。さらに、経済発展の陰で飢餓問題、地球環境の悪化等のマイナスも発生している。こうした矛盾を乗り越えるため「競争」から「共生」へという言葉が大きな力となりつつある。生協との産直運動や宅配牛乳を通して、消費者の皆さんとの交流は今後、ますます重要になってくると確信する。

状況の変化の中で変えていかなければならない部分と、変えてはならない部分がある。節目にあたる本年は、先輩諸氏の今日までの取り組みを改めて振り返り、新たな前身の糧とする年としたい。小生自身についていえば、就任2年目、今年は真価を問われる年であり、心ひそかに闘志を燃やしているところである。


・口蹄疫(こうていえき)~ウイルスが原因でおきる牛、豚、羊などの急性の伝染病。人に感染することはないが、伝染力が強いため畜産業に与える影響は大きい。(編集部)


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