2001年2月号
書評2
「男の仕事」・「女の仕事」を超えて
豊福裕二(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程)
『女性労働と企業社会』
熊沢誠著
岩波新書 660円
1998年の男女雇用機会均等法の改正により、それまで「努力義務」にとどまっていた雇用に関する性差別の撤廃が性差別の「禁止」へと強化され、労働基準法の改正によって、性差別の口実ともされてきた女子保護条項が撤廃された。少なくとも法律上は、企業が性を基準として従業員選別をすることは不可能となり、「機会の平等」が確保されたわけである。では、これによって雇用における性差別は解消に向かうのだろうか。決してそうではなく、この先にこそ真の困難があり、課題があるというのが本書の主題である。
著者は、改正均等法の時代を迎えたことで、従来のような機会の不平等に基づく「直接差別」はなくなるかもしれないが、実質的な格差構造にもとづく「間接差別」はなくならないという。その理由として重視されているのが、従業員査定の基準としての「日本的能力主義」と「性別職務分離」である。前者は、査定の基準が性から能力主義に変わっても、日本企業が求める「能力」とは「生活態度としての能力」、すなわち職場外の生活のニーズを気にせずに残業や転勤ができる能力であるため、家事や育児を顧みざるをえない女性は事実上排除されてしまうこと、後者は、「男の仕事」・「女の仕事」といった職務の分離が、伝統的な性別役割分業と結びついて女性を下位職務に押しとどめること、またそのことが一般的な「女らしさ」と結びつくことで、むしろ女性自身によって受容され「内面化」されてしまうことをさしている。
それでは、このような「間接差別」を解消するにはどうしたらいいのか。著者は実践的には、(1)女性が働き続けやすい、男女混合職場の雰囲気を作る、(2)同一価値労働には同一賃金を支払うという「ペイ・エクイティ」の考え方を普及させ、男女間の不当な賃金格差を是正する、(3)企業による非正社員やパートの安易な活用を規制する、の3点を掲げている。(1)はごく平凡な提起にも思えるが、著者は何よりも、女性が従来の「男の仕事」に進出して男女混合職場が一般化することが、男女共通の残業規制や育児休業の実現など、職場の制度や雰囲気を変えていくための条件であると強調している。きわめて現実的ともいえるが、実践的には女性の側にのみ一層の努力を促すことになりはしないか、やや疑問の残るところではある。「日本的能力主義」の克服を掲げる著者の結論からすれば、男性の側の課題についてももう少し強調されるべきではなかったか。
とはいえ、長年日本の労働問題に携わってきた著者だけに、豊富な資料にもとづいて展開された本書の議論は説得的であり、示唆に富んでいる。女性はもちろんのこと、働く男性にもお勧めしたい一冊である。
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