2000年12月号
人モノ地域2
「もうひとつの我が家」となるために
生活クラブ生協・千葉が設立した特別養護老人ホーム「風の村」
松本崇
立命館大学政策科学部学生
くらしと協同の研究所「生協と福祉」研究会
はじめに
2000年2月に生活クラブ生協・千葉(99年度末で供給高は共同購入中心に約87億円、組合員数33000人。池田徹理事長)が主体となって設立した社会福祉法人「たすけあい倶楽部」が運営する特別養護老人ホーム「風の村」がオープンした。場所は千葉県八街(やちまた)市。JR総武線千葉市駅からの電車に乗り、30分弱で八街駅に到着、そこからタクシーで約10分、道路沿いの桑畑を入っていった中に「風の村」は位置していた。
設立の目的は、利用者にとってこの施設が「もうひとつの我が家」となることであるという。では、この目的をどのような活動の実践によって、実現しようとしているのか。「風の村」の三好規(ただす)事務長のお話をもとにその取り組みを紹介する。
「風の村」の目的と概要
90年代に入り日本全体が超高齢社会を迎えるということが言われ始め、組合員の生活にも今後影響を与えることが知られるようになってきた。「老いの不安」が出現したのである。生活クラブ生協・千葉は、組合員の「食の不安」を解決するために購買事業を中心に事業展開を行ってきたが、こうした組合員の「老いの不安」を解決するために、たすけあいネットワーク事業(福祉事業)を、購買事業と並ぶ生協の事業として位置づけ1994年にスタートした。
現在この事業は、在宅ケア・共済・施設の3つの柱から成り立っている。「風の村」はこの3つめの柱に位置していて、在宅での生活が困難な人たちが安心して入れる施設をめざしている。また生協が社会に対して、施設福祉のあるべき姿を示し、施設福祉の全体的なレベルアップをめざすことも視野に入れている。
現在「風の村」の入居者は50人で、そのうち男性が14人、女性が36人である。職員は、常勤職員が25人(男性8人、女性17人)とパート職員が40人(男性1人、女性39人)で、他に生協のヘルパー研修の受講生8人が毎日、実習で入っている。入所者と職員の比率は2:1、一般の特別養護老人ホーム(以下、特養)の3:1よりも多くなっているのである。このように入所者一人あたりの職員数が多いのは、人手を必要とするケアシステムを採用しているからである。
オープンまでの道のり
1995年、特養設立のために、生協の組合員や役員からなる準備会が設置され、国内外合わせて30以上の施設を見学した。その一つに富山県宇奈月町にある特養「おらはうす宇奈月」があった。ここは全室個室で、入所者のプライバシーが尊重されたケアが展開されていた。この様子を見学したメンバーは、こういう施設なら自分たちも将来入りたいと思ったそうだ。しかし、入居する高齢者にとってはどうか、お金の無駄遣いになるのではないか、などの批判的な意見もあったが、結局は自分ならどちらがいいかを準備会で考え、全室個室とした。
建物の設計は、「おらはうす宇奈月」を設計した京都大学の外山義教授にお願いした。ただ、全室個室となると、建物の規模も大きくなり建設費も膨らむが、一部屋の広さを8畳と小さめにして建設費を圧縮した。また建設用地は、生協の牛乳生産者の方が寄付してくれるなど好条件もあった。
ユニットケア
「風の村」では、「ユニットケア」というケアシステムを採用している。これは6?9室の個室が一つのユニットを形成して、このユニットごとにリビングや調理台・電子レンジ・炊飯器・冷蔵庫などの台所とリビングが配置されて、そこを中心に生活できるようになっている。食事時間や入浴時間などの設定は各入所者の意向を尊重し、要望があればそれに応じるようにしている。また、部屋には馴染みの家具なども持ち込めるようになっている。このように、個人のプライバシーを尊重しながらも、一歩部屋の外に出れば他の入所者や職員との語らいの場があるというのがユニットケアの大きな特徴である。
また、毎週土曜に入所者が全員そろって会食する昼食会があったり、日曜には市街へのお買い物ツアーも開催されたりして、自分のユニット以外の人たちとも交流できる機会も設けられている。
ケア方針
「風の村」のケア方針の特徴は、なるべく入所前と同じように生活してもらおうと、生活は入所者の自由な意志に任されていることである。そして職員も入所者の自由な生活に徹底して付き合うようにしている。例えば、入所者がパチンコに行きたいと言えば、職員も同行して一緒に楽しむこともある。また、職員の側から入所者を誘い出すこともある。私たちが訪問した翌日にも入所者と職員、合わせて5人でパチンコに行き、残念ながら負けて帰ってきたという。
施設を支える人たち
「風の村」では、生協組合員が様々な形でボランティアとして活動している。喫茶室の運営、施設内の掃除、入所者の話し相手、職員が会議中の時の入所者の見守り、そして歌教室やお花教室の講師といったものがある。このような人たちを集めて、活動のコーディネートを行っている集まりが、「たすけあい倶楽部を支える会」(以下、支える会)という組織である。これは「風の村」を設置した社会福祉法人「たすけあい倶楽部」の理念に賛同し、運営を支援していくために作られた会で、現在会員は2500人を超えている。一人月200円の会費を納めると、そのうち50円が会の運営費に、150円が「風の村」に寄付される。会員には「風の村」に関する情報誌を発行し、生協に対しては組合員への情報誌に載せるための情報を提供するなど、情報公開という役割も担っている。
おわりに
生活クラブ生協・千葉は、「たすけあいワーカーズコレクティブ(生協組合員による自主管理・自主運営の地域組織)」を1985年頃から県内に展開してきた。そこで培ってきた地域での「たすけあい」の気持ちを大切にしながら、生協として福祉事業に責任を持つために「ケアグループ(生協の直営事業組織)」に衣替えをしてきた。その結果、訪問介護事業は9月度だけで4000万円を超える。地域密着のよさを生かした福祉事業を展開してきた成果である。「風の村」は、この15年にわたるおおぜいの組合員の活動や意思決定、参加があってはじめて完成した。地域で小さな助け合いの気持ちをはぐくんできた組合員が、次に何ができるのかをみんなで考えてきた結晶でもある。
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