2000年12月号
書評1


毎日が訓練の場に

立命館大学大学院政策科学研究科修士課程
西村智子


『自己表現力の教室』

荒木晶子+向後千春+筒井洋一
情報センター出版局 2000年4月


かつては大勢の前で話をしたりパフォーマンスをしたりするのが得意で大好きだった私ですが、いつのまにか苦手意識から嫌悪に発展するほどのスピーチ嫌いに。さらにはせっかくいいアイデアが頭にうかんでも、相手に話したいことがあっても、どうにもうまく表現できないようになってしまったのです。原因をつきとめ、克服するために読みはじめてみました。

本書は「話す力」がつく最強最短プログラムと「書く力」がつく最強最短プログラムの2つのパートにわかれています。「話す力」のほうで印象的だったのは欧米、アジアからの留学生と日本人学生の授業における違いについての話でした。実際、留学先の講義で私を含めほとんどの日本人学生は人前で意見を述べることに恐れや不安、苦手意識をもつ傾向――わかっていてもわからなくても、発表者の意見に賛成、反対を感じても自分の中にしまったまま授業をすごしたり、そして後になって友達同士で授業内容を確認したり、授業のコメントをぼそぼそと言いあったりすること――がありました。どうしてそのようなことがおきるのでしょうか。その答えの一つとして自分の意見をはっきりと、しかも大勢の前で述べ、意見交換するという機会が日本の日常生活(学校、家庭、職場など)では十分にないことがあげられると思われます。本書で日本人はとかく「言わぬが花」「口は災いのもと」「以心伝心」「能ある鷹は爪を隠す」といった語らないことをよしとし、まわりの目を気にする態度が常に働いていることを指摘しており、さらには相手の評価や注目を気にしすぎたり、「自分は話し下手である」と思い込んだりすることが自信喪失や苦手意識につながるとも述べています。しかし一方でコミュニケーション能力は誰でも伸ばしていけるものであり、そのためには気持ちの持ち方や毎日の訓練が大切になってくるとしています。

本書で紹介されていた自己訓練方法を実際に行ってみました。ビデオテープを使って自分の声の大きさ、速さ、間の取り方、明瞭さ、顔の表情、視線、内容などをチェックして、「まぁ~」「~なのでぇ」といった口癖や髪をさわりながら話すといった動作における自分の癖を知ることができました。しかしながら、癖を把握したところで、すぐになおせないのが難しいところですが。

ところで、この書評を書くのに随分と時間がかかってしまったのですが、それはやはり読者の反応が気になってのことだったのでしょうか。


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