2000年10月号
書評1

NPOの出番だ

京都大学大学院助教授
若林靖永



『顔が見える介護保険』
佐藤義夫 光芒社 2000年6月


介護保険がスタートした。本書は、市場・事業・経営という観点から、介護保険のもとで何が起こるか、そこでのNPOの戦略のあり方を示している。

筆者は、「介護」とは、おむつを取り替える、食事や入浴をするといった基本的な世話だけでは成立しない、障害をもった高齢者の社会への復帰、あるいは参加の問題(生活介護・生活リハビリ)であり、高齢者が参加可能な具体的な場、いわば社会集団の中でリハビリテーションを行う場が必要であるということを強調している。本書のタイトルが「顔が見える」というのも、介護は実は人と人との関係なんだという主張から来ている。

さらに、ビジネスとして見るならば、介護保険で最も競争力のある供給主体が医療法人系の介護事業者、次いで大手企業系、さらにNPO系という順だと言う。医療法人にとっては、在宅介護の対象者を必要に応じて入院させるということで顧客の確保もできるし、入院患者が要介護者になることが少なくないことから医療機関は将来の顧客もおさえている。極論すれば、介護事業で儲からなくても医療事業の方にプラスがあるからそれでいいという経営構造になる。民間シルバーサービスは、短期的採算を重視して、儲かる部分だけ切り取って事業の対象とし、家事援助など単価の低いところは引き受けようとしない。儲かる部分だけやるというのは福祉の理念とは違うなどと言っているところは、市場では競争力がない。儲からない部分には十分にサービスが提供されないという社会問題が生まれることになる。さらに、自治体やこれまでの社会福祉法人の多くはその高コスト体質から事業を継続することが困難になっている。そこで、NPOの出番である。

儲からない部分でもやれてしまうのは、低コスト労働力を提供できるNPOしかない。それは、NPOでのサービス提供者は雇用労働者としてではなくて、ボランティアの延長線(有償ボランティア)上に位置づけられるからである。このことは、介護保険が提供しないサービスや介護保険の単価では十分に保障されないサービスについて、独自に提供して、本来の介護サービスをトータルに提供することを可能とする。さらに、NPOは事業体でありながら、地域住民の運動でもあり、市民参加でもある。行政とのパートナーシップが発展する可能性が大きい。

NPOの最大の課題が人の問題、NPOにはマネジメントがないという問題だ。チャンスを生かす能力はあるか?と筆者は問いかけている。


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