アジア太平洋からはじまる、
新たな協同組合研究
(財) 生協総合研究所 客員研究員 山口 浩平
6月24日から25日にかけて、 「ICA第1回アジア太平洋協同組合研究会議」
がシンガポールで開催された。 これまで、 ICA調査委員会が主催する国際協同組合研究会議は、
そのほとんどヨーロッパで開催され、 アジア太平洋地域からの参加者は限られていた。
今回、 「アジア太平洋地域」 で研究会議が開かれた意義は、
研究者どうしのネットワークづくりや、 さらに協同組合リーダーと研究者の接点を増やすという意味で、
極めて大きい。
研究会議は、 冒頭のマクファーソン、 ロジャー・スピア両教授の基調講演の後、
「参加型民主主義」、 「価値ベースのマネジメント」、
「女性と青年」、 「戦略と構造」、 「雇用創出」、 「イノベーションとリニューアル」、
「コミュニティへの貢献」 の7つの分科会が開かれ、
全部で26の論文が発表された。 また、 オーストラリア・インド・インドネシア・イラン・イスラエル・韓国・マレーシア・ニュージーランド・シンガポール・スリランカ・タイ・日本の各国から研究者が約60名参加し、
各分科会で議論が交わされた。
私は、 「雇用創出」 の分科会で 「社会的企業による雇用:組織とメンバーとの関係から」
と題した報告を行った。 この分科会では私の他に、
韓国・ULSAN大学助教授のSang-Jin Hahn氏が
「国家と市場を超えて:韓国における社会的企業」、
イラン協同組合省のJafar Asgari氏が 「雇用創出と社会的正義における協同組合の役割」
と題する報告を行った。
特に、 Hahn氏の報告は、 私の問題意識とかなり近いものだったこともあり、
24日の夕食会と、 ホテルまでのMRT (地下鉄)
の中で、 拙い英語力ながら軽く雑談程度の話をした。
Hahnさんによると、 韓国での社会的企業に関する研究は、
既存の協同組合研究に比較しても 「まだはじまったばかり」
だという。 社会的企業については、 制度的にも、
組織的にもヨーロッパの議論が先行しており、
どうしても後追い的な面がある。 それでもHahnさんは
「アジアにおいても、 社会的企業を研究する意義はあります」
と言う。 「社会的企業には、 既存の協同組合の価値をより豊かなものに作り替えるだけの潜在能力があると思います」。
これは日本でも言えることで、 現在はコミュニティ・ビジネス、
NPO、 協同組合などの組織・主体が様々な形で登場してきている段階であり、
そのセクターとしての研究はまだまだこれからである。
しかし、 既存の協同組合の内外で、 協同組合を力づけ、
新たな価値を生み出す活動が各地で起こりはじめているということを、
私も感じている。
今回の研究会議では、 アジアにおける協同組合の価値、
その意義、 そしてこれからの研究課題が議論された。
しかし同時に、 「アジア太平洋地域」 という枠の括り方に、
やや 「かみ合わない」 点も感じられた。 例えば、
一口に 「雇用創出」 と言っても、 日本で言う
「雇用」 の持っている意味と、 インドネシアやイランでの雇用創出は、
かなりの違いがある。 前者は、 労働の豊かさや、
オルタナティブな労働をいかに生み出すかという価値についての協同組合の役割を論じるのに対し、
後者は、 貧困からの脱出や経済的自立の方向性を追求する。
その違いも、 これから研究されるべき課題かもしれない。
「いつか、 ヨーロッパの後追いではない、 アジアの社会的企業の調査をしたいですね」
と言って、 Hahnさんと握手をして別れた。 それは、
未だ小さな流れかもしれないが、 これからの可能性をもった研究になるかもしれない。
第2回研究会議は2002年のICAアジア地域総会に併せて、
フィリピン・セブ島で開催される予定。 いつか、
アジア太平洋地域からの発信が協同組合研究の流れをつくることができれば、
というのはあまりにも針小棒大な話であろうか?
※なお、 この研究会議に提出された論文は、 ICA
ROAP (International Co-operative Alliance:
Regional Office for Asia and the Pacific)
のホームページhttp://www.icaroap.org.sg/に、
今後掲載される予定です。