2000年8月号
書評2

政府=NGO=企業-- 「奇跡」 を生んだ、 しなやかな連携

くらしと協同の研究所事務局
清水 隆



「オランダモデル--制度疲労なき成熟社会」
永坂寿久
日本経済新聞社 2000年4月


日本は、 戦後一貫してアメリカを参考に経済成長をとげ、 経済大国になった。 しかし、 いま、 いわゆるグローバリゼーションの進展の中で、 それに適応できず、 システムは制度疲労を起こし、 多くの部分でほころびと疲弊をもたらしている。 著者は、 こうした認識のもとで、 「オランダの社会・経済システムが独特であるとともに、 国際的な意味と普遍性を持ち始めた」 ことを指摘し、 さらに 「日本の改革を考えるにあたり、 われわれはアメリカ・モデルを参考に行うべきだという呪縛にいまだにとらわれ続けている」 という警告を発している。

リストラや雇用不安に象徴される日本経済の問題や噴出している社会問題、 さらに日本の社会構造といったことを考えるとき、 確かに、 オランダの 「しなやかな連携」 がもたらした経済再生プロセスや社会問題の解決手法には、 多くのヒントがあるように思う。

本書で紹介されている 「オランダモデル」 の主要な特色は、 合意形成システムと統合、 制御にある。 さらに治水の歴史や、 古くから移民や難民を受け入れてきたこの国の国民性-寛容性と黙認-とも関連して捉えられている。

本書は、 こうした特徴に支えられるオランダの社会経済システムを、 /オランダの奇跡は 「パートタイム革命」 から/よいコンセンサス社会の強み/高齢者が元気で過ごしやすい国/社会悪は根絶せず 「制御」 する/NGOは政府のパートナー/環境対策は法規制より 「紳士協定」 で/インフラ立国の高い競争力/21世紀の世界システムモデル/という章立てで紹介している。

それぞれに興味深いが、 1章では、 「オランダ病」 として有名になったこの国の経済の再生過程が紹介されている。 それは、 82年に政労使の3者で、 雇用確保を最優先するため自主的な賃金抑制の合意したことに始まる。 その合意に基づき、 国の財政赤字や税負担率を削減するための財政支出の抑制、 労働者の賃金抑制、 労働時間の短縮、 社会保障改革などの努力が行われた。 結果、 失業率はEU平均を大きく下回り、 企業の競争力も強化され、 94~99年にかけては減税計画も実施、 99年には財政も黒字化を達成する。 こうした 「奇跡」 を実現する背景に 「パートタイム革命」 と言われている雇用構造の大きな変化がある。 実際、 84年以降の雇用者数の上昇はパートタイム雇用の大幅な増加によって実現された。 その背景にはフルタイム労働とパートタイム労働の労働時間差差別の撤廃がある。 これには、 パートタイム労働の労働条件の改善を求める労組の主張と、 82年合意以降の企業側の導入努力があり、 94年には法改正も行われている。 オランダの労働者は、 パートタイム労働の導入によって、 ワークシェアリングを実現し、 夫婦で1.5人分の働き方をする中で、 「仕事と家族との和解」 「仕事と育児との両立」 の道を選んだのである。


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