若者の目を通して見た日本経済論
豊福 裕二
京都大学大学院経済学研究科博士課程
「さて、 メシをどう食うか
-〈池野ゼミ〉卒業生の現在-」
池野高理
技術と人間 2000年1月
本書は、 長年大学で学生ゼミナールを担当してきた著者が、
これまでゼミの卒業生たちとやりとりしてきた手紙の中から、
とくに彼らが自らの労働環境、 すなわち職場の現実について綴った部分を編集して、
1冊の本にまとめたものである。 著者自身、 「卒業生たちの生の声をできるだけ紹介したいという考えから、
私の作業は最小限の編集にとどめています。 彼らの現場からの声が、
それだけ重いものであったからです」 と述べているように、
本書には、 現代の若者たちが自らの言葉で語った、
職場の現実に対する悩み、 憤り、 葛藤などが豊富にちりばめられており、
そのことが他の日本経済論などには見られない本書の最大の魅力となっている。
本書に紹介されている卒業生のエピソードは、
メーカー、 保険会社、 百貨店などで正社員として働く者から、
派遣社員やフリーターとして働く者まで多岐に渡っており、
そのなかには生協に就職した2人の卒業生の話も含まれている。
1人は生協に10年以上勤める卒業生、 もう1人は生協を1年足らずで退職してしまった卒業生で、
それぞれが 「なぜ自分は生協を続けているのか」、
あるいは 「なぜ自分は生協をやめたのか」 について綴った手紙が紹介されており、
いまの若者が生協に何を期待し、 また生協という職場についてどのように感じているかを知るうえで貴重な手がかりとなっている。
その他にも、 突然内定取り消しを受け、 会社に対して裁判を起こした卒業生の例や、
会社の倒産・解雇に際し、 不払い賃金と退職金の確保を要求して闘った卒業生の例など、
興味深いエピソードが多かったが、 特に私の印象に残ったのは、
結婚・出産を契機として退職を強要された女性の卒業生のエピソードであった。
新婚旅行から帰ってみたら、 自分の代わりにパートが補充されて仕事がなくなり、
また妊娠のため有給休暇をとると、 有給でなく休職を強要され、
結局彼女は退職を余儀なくされてしまうのであるが、
このような話を読むにつけ、 あらためてわが国における労働環境の後進性を痛感せざるをえなかった。
卒業生の手紙を中心にまとめられている本書は、
非常に読みやすく、 300ページを超える書物ながら読者を飽きさせることがない。
そこに紹介されているわが国の雇用・労働環境の現実は決して明るいものとはいえないが、
その現実と格闘している卒業生たちの姿のなかに、
これからの生き方=メシの食い方に対するさまざまなヒントが隠されているように思われる。
これから就職活動をしようという人には是非とも読んで欲しいし、
現代の青年論としても、 また日本経済論、 労働経済論としても最良のテキストとなろう。
多くの人に一読をお勧めしたい1冊である。