2000年8月号
コロキウム(論文)

高齢期の新しい
協同居住のあり方
―日本型コレクティブ住宅の条件


上野 勝代


1 はじめに
阪神・淡路大震災とその後の復旧・復興過程で示されたことは、 21世紀の日本の高齢社会、 成熟都市で経験するであろうことを先取りするものであった。 その教訓のひとつに、 高齢者の生活にとって、 地域コミュニティが不可欠であることが明らかになったことがある。 (実際に、 地域型仮設住宅、 いわゆるケア付き住宅では、 血縁を超えた共同生活の有効性が確認され、 共同生活のありかたについても貴重な経験が蓄積されてきた。 個々の世帯が近隣関係や地域関係を失いつつある今日の状況の中であるからこそ、 いっそう、 住民交流や相互扶助などを生かした住まいづくり、 住文化づくりが求められていることが共通の認識になりつつある。)

こうした中、 相互扶助を基調とした 「協同居住型住宅」 が注目されてきた。 これらの住宅は"コレクティブ住宅"、 "コ・ハウジング"、 "グループハウス"、 "グループリビング"などとよばれており、 日本のなかでは、 まだ、 その定義、 違いがはっきりされておらず、 使う人によって異なっているが、 今回の災害復興公営住宅のひとつとして、 兵庫県で実験的に取り組まれたものが、 災害復興型コレクティブ住宅であった。 本報では、 これまで関わってきた筆者らの調査を基に、 日本における協同居住型住宅のあり方について述べることにしたい。


2 ひょうご災害復興型コレクティブ住宅
「ひょうご災害復興型コレクティブ住宅」 は、 阪神・淡路大震災を機にわが国で初めて公営住宅に導入された協同居住型住宅である。 これは、 地域型仮設住宅での経験をもとに、 高齢単身者が孤独に陥ることなく早期に新しいコミュニテイを形成できるようにと、 スウェーデンのコレクティブ住宅を模して設計の中にも、 従来の公営住宅の枠にとらわれない意欲的な取組みがなされた。 各グループの規模や構成も多様な形態をとり、 各住戸の他に"相互扶助"を保証するために共用空間、 共用リビング (ふれあい空間) の配置が考えられ、 高齢者に配慮した材料の使用やエレベーターの設置、 同じ住宅に共に住むという一体感を高めるための建築的工夫がなされた。 それは入居者参加の共同の"お食事会"をすることが、 入居の前提となった集合住宅である。 建築家を中心とした関係者は、 血縁による同居や別居とは異なる"新しい集住の在り方"、 日本の借家文化、 "下町文化の再生"を示すということで期待した。

しかし、 結果は当初予想されたものとは異なり、 多くで応募割れが生じた。 その要因として、 入居者たちは、 (1) 共益費が高い (当初13000円。 これは、 福祉や年金生活の高齢者には負担が重い) こと、 (2) 入居説明会の不足、 (3) 身の回りのことは自分でできるということでは自立しているが、 病気をもっている人も多く、 高齢者にとっては、 相互扶助、 共同生活がわずらわしいことをあげている。 また、 他の関係者からは、 (4) 地域型仮設での集住がうまくいったのは、 "仮のすまい"、 つまり期間が限定されていたからではなかったか等の意見が聞かれた。

入居者としては、 高齢者に限ると70代以上が5割弱を占め、 男性の方が女性よりもやや多く、 入居の動機としては、 新しい居住形態としてのコレクティブ住宅を意識的に選んだというよりも、 「被災時の住宅の近く」 や 「仮設住宅を早く出たいから」 「応募倍率が低いので」 など他の理由を優先した割合が高かった。

期待された 「ふれあい空間」 の利用は、 団地、 グループによってかなり異なった。 よく利用されている2つの住宅では、 "居間"のように、 居心地をよくするためのしつらえが居住者によって工夫されていた。 ここでの、 居住者アンケートでは、 協同居住の良さを長所として評価する割合が高い。 この2カ所は、 ともにグループの規模が6~8戸と小規模でひとつの共用空間を使用するということとリーダーがコミュニティ活動に積極的であるという特徴をもつ。 他方、 イベント以外にはほとんど使用されない所もあった。 また、 井戸端会議を期待してつくられた共同洗濯場やわが家意識を高めるための共同玄関に設置された下駄箱は全体的には不評であった1。

各グループでは、 LSA (生活援助員) やボランティアの支援を受けつつ、 週1回から月1回の食事会が始まった。 しかし、 なかには、 食事会や協同生活のなかで苦労している女性たちの姿も浮かびあがってきた。 例えば、 当初は食事を 「ありがとう」 と感謝していた男性もそれがあたり前になってくると 「まだ、 できないのか」 という言葉を同じ住宅の世話をする女性に投げかけた。 また、 食事の内容や味付けの評価は個々で大きく異なり、 一緒に食事をつくることの難しさを関係者はしみじみ語った。 その後、 外部の弁当を取り寄せて食事会を運営するケースが増えた。 生活面で自立できてない男性の高齢者とジェンダー問題。 建て前だけで、 「助けあって住むことはいいことだ」 といっても、 それは、 各人の自立、 平等の上になりたつものであり、 自主的になされないと、 義務感だけでは居心地のよい協同居住とはなりにくいことを示していた。

他方、 当初は自治会活動がうまくいかず、 "お食事会"も難しかった団地が、 一年後には軌道にのったケースもある。 また、 共用リビングの設備を使うと水光熱費がかかるので使用しないようにしようとか、 設置されていた蛍光灯を外すなど、 経費をめぐる問題もでてきて、 グループによっては有効な使われ方がされなかった 「ふれあい空間」 が、 居住者のお葬式をおこなうことができたことでの安心感からその空間の良さがやっと理解されたという話もきく。

入居後1年半での調査では、 居住者はコレクテイブ住宅の良さとして 「気のあう仲間がいる」 ことを27%の人が答え、 他方で短所として 「人間関係に気をつかう」 を挙げる人が58%を占めた。

災害復興コレクティブ住宅でのコミュニティづくりに関して、 ここに示したものはまだ過渡期の段階であるので早急な評価はさけたいと考えるが、 今回のコレクティブ住宅は北欧のハードを模したが、 ソフトシステムはまったく異なったものであったことだけは指摘しておきたい。


3 北欧で始まった高齢者たちの協同居住型住宅
ここで、 北欧のコレクテイブ住宅について少し紹介しておこう。
北欧のなかで、 シニア達による協同居住型住宅づくりが活発なのはデンマークといわれている。 同国の協同居住型住宅 (デンマークではコ・ハウジングという) の動きは、 80年代後半から90年代には入ると活発になり、 そのプロジェクト数は1995年9月現在で約50例を数えるようになった。

シニア向けコ・ハウジングとは、 簡単にいうと、 50歳以上の健康な壮・高齢期の人たちが、 "プライバシーを損なわない形で助け合いながら集住する"ことである。 ここで強調されるのは、 あくまで共同の住居であって、 生活の共同ではないといわれている。 また、 ケアは自治体が責任を持って外部から行う形態を取る。 その基本的なアイデアは、 20戸くらいに住む人々がかなり定期的に一緒に食事をし、 日常の雑用では助け合いを行うことである。 ただし、 若い世代やファミリータイプのコ・ハウジングとは異なり、 食事作りの義務はない。 共有の設備をもったとしても、 そこに必ず参加しなければならないという義務はなく、 どのような活動を共同で行うかなどはまさに千差万別、 個々のプロジェクトでかなり異なる。 共用空間としては、 共用庭、 食堂、 趣味室、 図書館、 ランドリー等である。

計画のプロセスで注目されることは、 第一に、 高齢になった時どのように生きていくのかと問いかけからスタートし、 自分自身を探す〈知的な旅〉というプロセスをとることである。 次の第2段階はグループの結成とアイデンティテイづくりである。 つまり、 ハードとしての建物より、 あくまでグループづくりが先行していることである。 第二に、 入居予定者による計画段階からの積極的〈参画〉である。 このいずれも、 日本での計画には生かされていない。

入居者の特徴に関して、 デンマーク建築研究所 (SBI) 報告をまとめたアンブローゼ氏は 「戸建て住宅に住むことでの庭や住宅の管理などのわずらわしい仕事から逃れたいということもあるが、 人生をどのように生きていくのかをキチンと考えている人たちです。 高齢になって身体が弱り、 他人から老人ホームに入れられる前に、 自分自身で高齢者住宅にはいることが大切であり、 どちらかというと、 予防的な態度をとっています。 これは、 デンマークにおいても稀なケース」 と語る。

入居者は、 「いざとなったら助けてくれる誰かがいる」 「孤独を感じない」 「誰かと話したくなったらドアをノックすればよい」 といった"安心感"と"孤独を感じない"ことの良さを、 共に住むことのメリットとして、 ほとんどの人が答えている。 そしてこの安心感が、 総合評価として、 居住の評価を高めているようである2。

また、 SBIレポートの中で、 注目されることは、 コ・ハウジングに入居する前にホームヘルプサービスを受けていた人の半数が入居後受けなくなり、 入居後もサービスを受けている人でも利用時間の減少が見られたと報告されていることである3。 つまり、 安心感をもって良好な人的交流がなされるならば、 人々の生活の質は向上し、 福祉や医療の費用を削減するという予防的な効果をもたらすことを示している。

デンマークの高齢者住宅政策は、 1980年代後半、 大きく転換した。 それを一言でいうならば、 "施設"から"在宅"へということになる。 すなわち"住宅とケアをパッケージ"にしたナーシングホームのような施設ではなく、 住宅とケアを分離し、 高齢者が住み慣れた家で生活できるような住宅の供給と、 ホームヘルプや24時間看護との組み合わせをする方向へと変化した。 同時に、 自宅で一人で過ごす高齢者たちの"孤独"の問題も社会的関心を集めるようになってきた。 このような状況の中で、 高齢者やシニアたちの間に、 既存の居住形態では対応し切れないような新たな住要求が生まれてきた。 この住要求実現のために、 新たな選択肢として市民側から起こってきたのがシニア向けコ・ハウジングづくりだといえる。

最後に北欧から学ぶこととして、 強調したいことは、 このような市民の新たな住要求をキチンと受け止める組織として、 住宅協同組合、 住宅供給公社の存在を忘れてならないことである。 両者はコレクテイブの供給主体として、 大きな役割を果たしてきた。 一般の労働者の住宅供給だけでなく、 住宅取得の困難な層ー例えば、 若者や高齢者、 移民、 ひとり親などを対象とした住宅づくりにも積極的な住宅協同組合があった4。 まさに、 協同組合方式だから可能であった。 このくわしいことは、 紙幅の関係で省略したい。


4 わが国の先駆的な事例
ところで、 わが国においても、 血縁による同居・隣居とは異なる"気のあう人々"と共に、 助け合いながら、 老後の生活を共に暮らす協同居住を自らの手で挑戦してきた人々がいる。

例えば、 長年病院の看護婦として働いてきた4人が、 退職を機に、 1つの堀に囲まれた敷地内に4軒の戸建て住宅をつくり、 隣同士で助け合いながら住む千葉県の"友人家族"がある。 住民運動や婦人運動で価値観をともにする仲間3人でつくった宮城県の"HOTコープ"は、 1軒のなかに、 個別の部屋と共同の台所、 食同、 浴室、 トイレを持ち、 1階には地域に開かれた居間、 2階には3人のための居間を持つ。 毎食当番制で食事をつくり、 そろって食べる。 買物、 掃除も当番制である。 キリスト教の信者として、 福祉施設で働いた仲間6人で住む"ベウラの園"は、 1人が所有する木造二階建て住宅に他の5人が賃貸する形で住んでおり、 台所・食堂、 居間、 浴室、 トイレ、 客室を共用し、 個人ごとにはミニキッチン付きの1室または2室を使用している。 食事とお茶をともに過し、 居住者の大半が75歳以上の後期高齢者のため、 買物、 食事づくり、 共用空間の掃除を市からの派遣ヘルパーに依頼している5。 "グループハウスさくら"は共産党の市会議員として高齢者に理解のあるオーナーが、 自宅の改造を機に、 6人の借家人と協同生活ができるように計画したものである6。

これらは、 いずれも、 グループづくり、 入居者の選定を大事にし、 住宅内だけで閉ざされるのではなく、 常に地域に開かれ、 地域社会と連携しつつ暮していくところに共通性がある。

5 おわりに
高齢者の協同居住型住宅の試みは、 現在わが国では、 まだ実験段階にある。 しかし、 着実にその実践は積み重ねられ、 新しい挑戦がでてきている。 唯一制度化している公営住宅では、 ひょうご災害型を教訓にしたプロジェクトが大阪府や長崎県で実施されようとしている。 民間賃貸コレクティブ住宅づくりは阪神地域で始まろうとしている。 先述したような事例は日本型コレクテイブを考える上で多くの示唆を与えている。 その一つはグループの構成が重要であり、 誰でもできるのではなく、 価値観を共有する人々、 〈自立〉〈相互扶助〉〈社会との連帯〉を大事にする人々にはより豊かな生活になるが、 そうでない場合には難しいことをも示したように思われる。

最後に、 市民からの住居に関するオルターナティブな動きに対して、 わが国の住宅協同組合、 住宅供給公社がほとんど機能できていないことを残念に思う。 北欧の住宅協同組合の歴史をたどるとき、 そこには、 労働者の住宅問題解決に責任を持ち、 下からの新たな住要求をくみ取り実験し、 政策化して、 住宅政策へと反映していく姿をみる。 わが国ではどうであろうか。 労働者として女性が半数を超え、 単身、 共働き、 ひとり親も増えているにもかかわらず、 女性の視点からのプロジェクトもなく、 今回とりあげたような中高齢者向けプロジェクトもみあたらず、 民間ディベロッパーと何ら変わらない事業を進めている。 紙幅の関係で省略したが、 コレクテイブ住宅の本来の趣旨を生かすためには、 北欧での住宅協同組合、 住宅供給公社のようなシステムに学ぶべきことは多い。



引用文献
1) 上野勝代 (主査) (1999)、 「震災復興型高齢者住宅におけるグループリビングのシステム化に関する研究」 住宅研究総合財団年報第25号pp141~152
2) 上野勝代 (主査) (1995)、 「北欧におけるシニア向けコ・ハウジングに関する研究」 住宅研究総合財団年報第22号pp29~49
3) 上野勝代 (1996)、 「デンマークのコ・ハウジングの評価」、 社会保障研究所編 『海外社会保障情報』 第116号、 pp26~34
4) 上野勝代 (1996)「コ・ハウジングの展開」 (岸本幸臣・鈴木晃編 『講座現代居住 2』 ) pp181~204東京大学出版会
5) 佐々木伸子・阪上香・上野勝代 (1996)「シニア達による生活共同型住宅の試みに関する研究」 都市住宅学 15号pp36~41
6) 上野勝代・川越潔子・小伊藤亜希子・室崎生子 (2000)「自立と支えあいを生かしたグループハウスづくり」 ( 『女性の仕事おこし、 まちづくり』 )pp47~51、 学芸出版

上野 勝代 (うえの かつよ)
京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科教授。 1945年生まれ。 専門は住居学。 住宅問題。 奈良女子大学大学院修士課程住環境専攻修了。 学術博士 (大阪市立大学)。 日本住宅会議理事 (会誌編集長)



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