2000年8月号
特集


第8回総会記念シンポジウム


職員・組合員一人一人の
自己変革が組織を変える


生協はどのような協同組合として再生するか
-組合員と職員が満足する組織の条件



「生協はどのような協同組合として再生するか-組合員と職員が満足する組織の条件」 をテーマにした第8回くらしと協同の研究所総会記念シンポジウムが7月16日、 京都市の池坊短期大学で開かれ、 全国から生協組合員、 職員、 研究者ら約135人が参加。 経営危機や協同の衰退といった厳しい条件の中で、 生協はどこへ向かおうとしているのか、 どこへ向かうべきなのかについて、 真摯な論議を交わした。 当日の模様を要約して再録する。


報告に先立ち、 的場信樹さん (金沢大学助教授、 当研究所研究委員会幹事、 シンポジウム実行委員会代表) より、 問題提起として 「シンポジウムの準備のため各地の生協を見学してきたが、 〈満足〉という言葉がキーワードとして、 さまざまなところで使われていた。 くしくもある人が〈満足を提供できない組織は、 組合員や職員に見捨てられる〉と語っていたが、 生協が〈見捨てられない組織〉であるためには、 どうあればいいのだろうか」 との発言があった (「問題提起」 の詳細については、 『協う』 6月号特集記事を参照)。


論点整理 「生協組織をデザインする軸」
若林靖永 (京都大学助教授、 当研究所研究委員会幹事)

「今、 生協に問われていること、 どういう生協なら存在価値があるのか」 を問うために、 いくつかの 「軸」 (AかBか、 aかbか) を示してみた。 「生協らしさ」 「安心・安全」 などの言葉から自由になり、 「自分自身がこれからどうしたいのか、 どうだったら楽しくやりがいを持てるのか」 を考えてみてほしい。 これらの問いは、 どれが正しいとか、 望ましいとかを押しつけるためではなく、 生協関係者が自らどうしたいか、 を考えるきっかけとして受けとめてほしい。

〈第1の問い〉生協とは何か
A:生協は 「運動」 組織だ
満足よりも、 社会に異議を唱え、 社会に不満や苦情、 あるべき姿を訴える組織。 さらに、 具体的な活動の方向として
(a) 有害食品や欠陥商品の追放に代表される消費者運動
(b) 配食事業、 さらには生涯教育や福祉も含む相互扶助の活動
B:生協は 「利用」 組織だ
事業を通じてニーズに応え、 満足を提供する組織。 その 「事業」 とは
(a) 商品供給事業
・どこまでを供給するのか (日常の食品中心・基本的な衣料品・家電製品まで)
・どんな事業形態でするのか (共同購入・個配・店舗・インターネットなど)
・購買事業のターゲットをどこに置くか (子育て期の家庭・中高年の家庭・単身者など)
(b) 福祉サービスなどの地域が求めるニーズに応える事業

〈第2の問い〉組合員は元気か
A:自主的に生き生きと自由自在に展開されており、 元気だ。 学びながら成長があり、 それを社会に還元していける。
B:生協の方針や職員にコントロールされ、 自発性が生かせず、 自由ではない。 では、 組合員が元気な組織のスタイルとはなんだろうか。
(a) ヒエラルキー組織 (トップダウン・ボトムアップ)
「みんなで決めて、 みんなでやる」 とは建前的には民主主義のあるべき姿だが、 実際は、 下は上から降りてきた方針を実行するだけの機関になりがちである。
(b) ネットワーク組織
上は緩やかに方向性や価値観を示しながらも、 方針はそれぞれのところで決めて、 やりたいことをその場でやる。 しかし、 現実には一人でできることは少なく、 周囲との連携をどうデザインするかがかぎとなる。

〈第3の問い〉事業経営におけるマネジメントの有無
A:生協経営にマネジメントがある
問題が発生したときの対応、 あるいは発生しないような仕組み、 文化づくりができている。 問題の要因を外部に求めずに解決するまでやり抜き、 結果を出す。
B:生協経営にマネジメントがない
では、 マネジメントの存在する生協の店舗経営にはどんな軸が考えられるだろうか。
(a) チェーンストア組織
本部が方針を決めて店舗が実行する組織。 マニュアル化、 教育の重視で、 プロを育てる。 しかし、 生協の場合、 店舗のコンセプトが各店によって違い、 また数も少ないことから、 本部の提案を主とすることで結果が出せるかは疑問である。
(b) ネットワーク組織
各店舗が方針を決めて、 周囲と連携しながら自主的に運営し、 本部は各店舗をサポートする。 さらに、 両組織を超えた生協の運営論として、 生き方としてサービスに身をささげることのできる組織 「サービススピリット組織」 を提案したい。 顧客に満足してもらうための第一線の現場、 それを支えるバックヤードも含めた組織の作り方が重要になってくる。

〈第4の問い〉生協職員とは
A:生協運動の担い手である
B: 「生協スーパー」 のプロである
事業経営という点からすれば、 Bとして頑張っている職員が多いのが現実である。 しかし、 地域に帰れば、 市民として地域に役立つ運動に参加している人は多いようだ。 これに関連し、 職員と組合員との関係はどうあるのだろうか。
(a) 職員は業務、 組合員は活動に専念。 職員は組合員に奉仕し、 組合員は職員に要求する。
(b) 両者が協同し、 職員の業務に組合員が参加したり、 生協の事業・経営問題に組合員も参加したりする。 あるいは逆に、 組合員の活動に職員が参加するという方向もある。 いずれにしても、 生協の職員自身が 「こういう生協で働きたい」 ということを自らデザインし、 組合員も、 「こういう生協にしたい」 というビジョンを持ってリードすることが必要である。 答えは外にはない。 自分たちで決めて前に進むときである。



報告1  「くらしづくり」 のスタンスが生協の未来を拓く-地域のくらしのなかに協同組合を置きなおす
田中秀樹 (広島大学教授、 当研究所研究委員)

多くの生協では、 「組合員の声を聴く」 という実践が、 その声を商品づくりや事業経営に生かすというレベルで矮小化されている。 「くらしづくり」 とは、 「関係づくり」 であり、 「くらしをふくらませる」 こと、 すなわち、 商品づくりの過程で人間関係の輪が広がり、 商品とともに共感の輪が広がることである。 このくらしづくりのスタンスに立つことは、 地域のくらしのなかに生協を置きなおすことであり、 そこから新たな協同運動の展開が望めるのではないか。 (この報告の詳細については、 『協う』 6月号特集記事を参照)



報告2 組合員が生活協同組合を思うとき-現代人にとって魅力ある組織とは
古河憲子 (コープこうべ、 コープ横尾コープ委員)

生協は、 組合員が作った商品を組合員が購入する、 すなわち売り手も買い手も同じ組合員だから悪い商品を供給するわけがないという強い信頼関係がある。 これこそ生協になくてはならない財産で他の量販店との違いである。
店舗や協同購入を利用するとき、 それが顕著に現れる。 買い物をしやすい店舗は、 職員に元気がある。 買いやすい協同購入は組合員の願いに沿った品揃えができている。 もちろん、 安心、 安全、 安価、 の商品ばかりである。
しかし、 人間のすることだから、 いつも完璧ではない。 ときとして、 エラーがあったとき、 生協だからいち早く組合員に正確に知らせる必要がある。 都合の良いことだけ知らせ、 都合の悪いことは知らせない。 これは生協ではない。 心ならずも不祥事が起きたとき、 包みかくさず組合員に早く開示し問題を共有化し、 早く解決したい。 それが21世紀、 生協の信頼を盤石にするかどうかの課題になる。
生協を思うとき、 気になるのはあちこちで悩んでいる職員をよく見かけたり聞いたりすること。 現状を把握しきれないからである。 最近の組合員気質や諸事情をよく知ることは、 事業を活性化し、 生協運動を広めるのに大切。 組合員の生活はとにかく忙しい、 時代に乗り遅れるのが嫌い。 活動も軽くて楽で短いのが好き。 あとを引く活動や責任 (リーダー) を取らされるのが大嫌い。 そんな現代人に参加してもらえる生協運動や魅力ある組織とは、 どんなものか。 それには3つのポイントがあると思う。

(1)ピラミッド型からネットワーク型への変革
各地域をステーションとし、 地域独自の活動体制をとる。 地域で責任発信ができるような機動力を持たなければやる気も生まれないし、 達成感がもてない活動になってしまう。 ボールのように丸くどの面が出ても対応ができて、 答えがすぐに跳ね返る、 その上地域に沿った活動内容だから組合員にも支援される。

(2)地域の声を持ってくるコープ委員会の役割は重要
私が所属する委員会は、 30代~70代までバランスよく参加し、 幅広い意見や要望を集められる。 しかしこのような委員会は非常にまれである。 世代が偏ったり、 委員会のメンバーの入れ替わりが少ない地域は、 生協運動を深く理解する組合員が広がらず、 少ないのが現状だ。

(3)事業面を支える職員は、 生協マン・ウーマンとしてプロの誇りと自信を持って
生協職員は事業のプロであり、 そして生協運動の実践者であってほしい。 組合員は職員の誇りを持って働く姿に接し感動し誇りが持てる。 組合員で良かったと思える。




報告3 組合員活動をとおして、 今思うこと-新時代の生協づくり
平田裕美 (京都生協、 北区行政区委員)

生協にかかわる中で、 使われているエネルギーが効率よく結果を生み出していないのではないか、 人と人とをつなぐはずの生協が、 自分の足元でできていないのではないかということを感じてきた。

(1) にしがもコープ委員会での活動

1995年に同委員会に参加した。 委員会内部では熱心な取り組みが行われ、 意識の高い人の集まりという印象がある一方で、 一般の来店組合員は委員会を知らず、 組合員から遠い存在だった。 その改善のために、 徹底的に組合員の目線にたったニュースを発行するなどの取り組みを行ったが、 綿密な全体計画、 受け取る人の立場に立つ、 確認を怠らない-このうちのひとつでも鷹揚にするとつながるものもつながらないということを実感した。
また、 「組合員にとっての店」 を出発点に考えたとき、 納得できないことが多くあった。 老朽化した店舗を 「移転するしかない」 という判断に組合員の存在が見えない。 コープ商品がある日突然NB商品に変更される。 その店舗にあった商品の選択が不十分である…など。

(2) 第1回コープ委員会活動懇談会開催
これらはにしがもだけの問題なのか確認する必要があろうと、 97年11月に近隣のコープ委員会と交流会を持ち、 理事会に京都生協全体での交流会を提案、 翌年6月に 「第1回コープ委員会活動懇談会」 が実施された。 店舗職員、 コープ委員、 本部役員、 店舗運営部という、 店舗という場を共有するあらゆる部署の人々が交流する機会を、 もっと有意義に活用して、 職員と組合員との強い連帯で発展させてほしい。


(3) 店舗活性化への取り組みに向けて
京都生協では、 5月の第36回通常総代会で店舗活性化についての 「5号議案」 (店舗活性化・事業継続にかんするルール) が過半数の賛同を得て採択された (賛成327、 反対51、 保留137) が、 賛成しない総代が非常に多かったのも厳然たる事実。 新しい店舗をどういう形でめざすのか、 組合員の目線にたった方針の送り出し方が必要。

(4) 新しい時代における生協の存在意味
委員会への若い人の不参加が言われている。 生協をすでに存在するものとして受け入れてきた世代、 情報や結果は欲しいが自分で動くのは嫌という今時の世代にとって、 生協の存在価値はどこにあるのか。 生協が発信しているものが、 さまざまな価値観の中でしっかり見えているだろうか。 今まで生協が積み上げてきたものが、 新しい時代の人たちとつながっていくために、 今やらなければならないことは何なのかを考えていきたい。



報告4 おおさかパルコープ交野支所実践報告-自己改革が組織を変えた
宮田久一 (おおさかパルコープ交野支所支所長)

私の話は、 当支所の中で起こった事実である。 その事実から、 職員、 組合員に対して何が大切かを学び、 今も実践している最中である。

(1) 自己改革の第一歩
組織改革において一番大切にしたいことは、 自分自身に問題意識を持つこと。 これを考えるきっかけになったのは、 当時小学6年生の娘の言葉だった。 「お父さんは支所長で、 長がつくから偉いんだね」 と。 支所長って何だろう、 今の自分は 「偉いさん」 と言われていい気になり、 地位にあぐらをかいて上からものを言うだけのマネジメントをしているのではないかと思い至った。 当然、 業績も空回りの状態だった。
折しも今年1月、 当支所に着任することになり、 これがラストチャンスだ、 過去の成功体験や地位を捨てて、 これからの自分を見つけようと決心した。 娘に 「本当に偉いのは、 一生懸命に努力している人や人の嫌がることでも進んでやれる人なんだ」 と言ってやりたいし、 自分もそうでありたいと心から願った。

(2) いじめ事件をきっかけに…
新事業所に着任して1か月後、 コーヒーにこしょうを入れる、 配送コースの注文書を抜き取るなどのいじめやいたずらが発覚、 しかも過去から幾度となくあったこともわかった。 「人の痛みや苦しみがわからない人はここにはいないはず。 人間としてやってはいけないことがある。 ひとつ屋根の下で働く同士として、 こんなことはやめよう」 と言いながら、 自分の無力さに皆の前で涙した。 その後、 一人のパートさんが泣きながら 「いじめを我慢し続けてきたけれど、 これから支所が大きく変わることを願っています」 と言ってくれ、 こんな人の思いに何とか応えられる責任者でありたいと思った。

(3) 感動を分かち合える職場を作ろう
そして、 今年度の方針として 「感動を分かち合える職場を皆で作り上げること」 を掲げた。 いじめをしている担当者が組合員さんを大切にできるはずがない。 周りの人を大切に思う気持ちが、 組合員さんの利用に感謝することにつながり、 そのために努力を惜しまないことを当支所の価値基準の柱とした。
当支所はパート配送比率が55%を超え、 パートさんの力を最大限に引き出すことなしには、 目標達成もありえない。 職員・パートの垣根をなくした 「協働」 の運営を始めた。 その中で、 たとえパートさん一人の意見でも、 無視せず惜しみなく実現のための努力をすることで、 今までの何倍もの力を発揮してくれることがわかった。 この結果、 前年実績、 計画を超える供給や利用人数を実現することができた。 担当者のキャンペーンの感想には 「組合員さんに、 最近は近所づきあいが減っているけれど、 こうして新しい人と出会えるのも生協のおかげ、 と言われ感動した」 「ある組合員さんが自分の思いを理解して一緒に近所を回ってくださり、 (新規加入数の) 目標を達成できたことは一生忘れない」 などと書かれている。 事実、 そして感動の量が担当者を成長させる。

(4) 本当に偉いのは…?
この間、 私も実践したいという思いにかられて配送に出た。 暑い日も雨風の日も、 それでも荷受けに出てこられる組合員さん、 そして担当者やパートさんこそが生協で一番偉いのだということを忘れかけていた自分に気がついた。 組織は生き物だと言われるが、 まさしくその通り。 働きやすい職場環境、 ものが言える風土が、 ひいては組合員の意見や要望を素直に聞くこと、 そして組織の活性化につながる。 その出発点にあるのが、 娘の一言に教えられた 「自分自身が変わる」 ということだった。



報告5 その時、 労働組合は何をしていたのか
榑松佐一 (全国生協労働組合連合会東海地方連合会委員長)

(1) 経営危機からの再生プロセス
的場さんの 「経営危機からの脱出に成功したときが組織的危機の始まり」 という指摘は重要だ。 さっぽろの労組の役員選挙では 「経営再建を最優先にすすめることが全てなのです」 「機械的に生協運動の再建を持ち込むのは危険」 という主張があったがまさにこの指摘どおりだ。
生協危機の中で構造改革が進められているが、 進め方のプロセスについての議論と理解とが不可欠だ。 労働構成ひとつとっても、 団塊の世代がピークを迎えているコープこうべと、 パート比率の高い後発の市民生協ではかなりの差があり、 一口に構造改革といってもやるべきことは違うはず。 その場合に成功事例が語られることが多いが、 私はまず失敗事例からこそ学ぶべきであると言いたい。 成功事例をまねしようと思ってもまねできるものではない。 なぜ失敗したのかについてもっと注目すべきだし、 理論的にも総括すべきだ。

(2) ミッションについての深い解明を
研究者の厳しい研究に、 実際の経営の現場が議論として応える場が必要である。 現在の生協には、 90年代の理論的な総括もなければ、 国民の暮らしの実態をふまえた21世紀の協同のありようについての議論もない。 地域での母親の孤立や、 子どもをめぐる困難な状況があっても、 そのことが生協のテーマにならない。 くらしの困難さに目を向けられない、 お金のある人だけの 「協同」 では、 時代にそぐわないのではないか。

(3) ヨコのコミュニケーションを
職員の多くが、 話し合いに参加できないことに不満を持ち、 それが組織を硬直化させている。 職員の仕事は組合員の声を上に届ける、 あるいはその逆で、 ヨコの話し合いがない。 話し合わない組織は意思決定ができず、 官僚化すると言われている。 労働組合もそうである。 上に立つ執行部はこのことを理解しておく必要がある。 また、 価値観の多様化が問題ではなく、 価値観の違いを共有できないことが問題である。

(4) 労働組合の独自の役割
労働者が誇りや生きがいを持って働けるように、 言いたいことが言える、 仲間と議論できるような問題提起をしていくのが労働組合の役割である。 最近の社会では個性とか個別ということが重視されているが、 それは民主主義の新しい発展段階と言える。 民主主義の発展についていけない協同組合はすたれていく。 労働組合も同じ。 職場の中に民主主義を育てていくことが、 労働組合なり協同組合の幹部の役割だと感じている。
労働組合は理事会と異質の論理で生協のあり方、 経営について積極的に発言していきたい。 かといって発言するから経営責任もあるというようには考えない。 経営責任は、 経営の権限を持つ理事者にある。 しかし、 労働組合が賃金や労働条件しか考えないというのでは労働者のほんとうの要求実現にはならない。 労働者が働いている時にこそ労働組合が必要である


以上、 シンポジウムでは、 生協の今後のあり方を問おうという問題提起に対して、 組合員、 職員、 労働組合それぞれから、 組織のあり方について見解が述べられた。 共通した問題意識という点では、 組合員にとっても職員にとっても、 話し合いが気持ちよくできないような組織では元気が出ないということ、 組合員は自らの参加がしっかりと職員に受けとめられて具体化することを望んでいるし、 職員もそういうことがどんどんできるとき感動するということが出されている。


これらの報告を受けて、 討論が行なわれた。 その内容について、 実際の発言通りではなく、 論点ごとに整理した形で紹介したい。


協同についての展望

京都生協の組合員から 「協同の意識についてだが、 今は個々がバラバラな状況にある。 本当は結びつきたいという思いはあっても、 結びつきができたとたんわずらわしくなり、 すぐ離れていく。 このような中で 『協同』 について21世紀に展望があるとは思えない」 と協同の未来に対する悲観論が出された。 これは参加者が共有する危機感でもあろう。
この質問に対して、 田中さんは 「今、 人間関係に対して誰もが敏感になってきている。 ホットにもクールにもなれない 『ウォームな関係』 が好まれる一方、 学生を見ていると人間関係について真剣に考え、 悩んでいる。 『関係づくり』 という形での 『自分さがし』 の動きが社会に広がっている。 それが現代の協同運動であり、 そこに生協はどうかかわっていけるのかだ。 農村においてはくらしの中に協同を作る動きが見られる。 広島県石見町では、 3級ヘルパーの集団の発足をきっかけに福祉における協同が動き出した。 こうした事例は他にもあり、 あまり悲観はしていないのだが…。 (同町での取り組みについての詳細は 『協う』 59号2000年7月、 広島版参照) と悲観する事態もある一方、 新しい協同も生まれていることに注目したい」 と述べた。
また、 ちばコープの職員から 「今年の採用者研修を担当した。 今年採用の8人の青年たちはもちろんいまどきの若者たちである。 しかし、 『まず生活者になり、 それから社会人、 そして生協の組織人になろう』 という方針を立て、 共同作業に取り組んだり、 合宿で料理を作ったり、 いろんなことを学び体験してもらった。 当初は 『なぜ皆と仲良くしなければいけないのか』 と言うし、 『自由にやっていい』 と言われると固まって動けない。 そうした中で 『たくさんの人が自分に声をかけてくれて、 自分の話を聞いてくれてうれしい』 『仲間のことをもっと知りたい』 といった感想に変わってきた。 自分としては、 この経験を通じ 『人は信頼できる』 ということを再確認した」 と協同の良さは分かり合えると発言した。 やはり、 協同についての展望はアクティブに活動するなかでしか見えてこないということだろうか。


職員と組合員の関係

組合員から 「組合員に比べて職員は愚痴ばかりで元気がない」 と発言があった。 この発言をきっかけに職員のあり方について意見交換がなされた。
平田さんは 「 『職員と組合員がともにつくり合う関係』 とよく言われるが、 これが事業運営に甘えやあいまいさをかもし出している。 それぞれまず自分の役割を果たすことがともにつくることの前提だ」 と、 職員は職員の役割を果たすべきと述べた。 同じく、 古河さんも 「職員はプロの立場でしっかり考えて動いてほしい。 組合員に合わせるばかりでは困る」 と職員の独自の存在意義を強調した。
大学生協職員からは 「職員の具体的な役割とは何だろうか。 スーパーと同じかそれ以上のレベルの仕事をし、 配達ミスなどの問題が起きないようにすることが第一だ」 と、 職員はまず職員の仕事をちゃんとやることをまず何よりも重視すべきだと述べた。
また、 職員と組合員の関係について、 宮田さんが 「職員と組合員が互いに 『何のために生協をやるのか』 と考えていくことが大事で、 そこからいっしょに取り組める理念を見いだしていきたい」 と述べた。 古河さんはコープ横尾店での毎月1回職員と定職さん (パート職員のこと)、 コープ委員合同の会議を開催していることを報告。 「組合員の声をどのようにして業務にいかしていくか、 それぞれの立場で話し合いをもつ。 そこで出された意見を持ち帰り、 どのようにすれば活動にいかせるのかを考える。 この会議を通じて仕事内容が分かり、 職員の苦労が本当によく理解できる。 生協再生にむけこれからもこの会議を大切に持ち続けたい」 と、 一緒に話し合いを持って積み重ねてきていることを強調した。 平田さんは 「現場の職員が十分組合員の声にこたえきれないのは、 現場だけの問題なのか、 後方の体制に問題があるのか。 組合員にアンケートをとっても職員から見せてほしいとも言われないし、 持っていくところもない」 と、 ともに取り組む状況になっていない問題点を指摘した。
榑松さんは福島生協労組を例にあげ、 「労組が経営分析を行い、 生協組合員と共に生協研究会を成功させて生協の方針を転換させてきた。 希望退職に対して賃金カットを逆提案しはねかえした。 資金危機に際して組合員に増資を呼びかけると共に全労組員が増資にとりくみ毎月900万を集めている。 大手スーパーの出店反対運動では地域の商店街・商工会から事務局を要請されるなど地域からも信頼を寄せられている」 と、 労働組合も組合員とともに生協運動の再建に取り組んでいる事例があることを紹介した。
生協職員からは 「早期優遇退職制度による退職勧奨は、 面談の時に、 自分に合わない職場を勧められ、 断ると 『あなたの職場はここにはない』 と言われ、 その中で生協に対して持っているアイデンティティの基底部を壊されるというものだった。 なぜこうしたことになったのか。 その要因が語られていない。 この失敗を正直に語り、 この失敗から学んでほしい」 と、 この間すすめられている職員の退職勧奨について発言した。
他方で組合員と職員の協働の場がつくられつつあるにもかかわらず、 その一方でそうさせないことも行なわれているということが討論の中では明らかにされたと言えるだろう。 その意味で、 これは単に現場の職員だけの問題ではなく、 マネジメントの問題である。


職員の仕事に対する気持ち

生協職員から 「全国の生協労働者は、 組合員のためにいい仕事をしたいが自分の家庭も大事にしたいという生身の人間としての悩みを抱えている。 こうした現実の声を労組はどう把握しているのか。 そうした現場の職員の気持ちが受けとめられているように思えない」 と榑松さんに質問した。
それに対して、 榑松さんは 「生協労連としてはサービス残業は反対である。 しかし、 実際には、 各生協の労組は、 具体的に 『なぜ残業が発生するのか』 についての徹底的な追及が弱いこともあり、 十分な対応ができているとはいえない」 とサービス残業問題として受けとめて回答した。
さらに、 元生協職員からは 「サービス残業するような生協は存在しない方がいいという議論をすべきではないのか。 サービス残業を労働者に強要する構造や雰囲気というのは問題である」 という発言があった。
宮田さんは 「昨今では、 生協の理念に共鳴して 『生協を通じて人格を向上させたい』 『人のために尽くしたい』 と入協する職員は減った。 しかし、 生協に自分が参画していく役割を考えるとき、 『組合員にとって』 必要なら残業は必要であるという判断になると思う」 と述べた。
また古河さんも 「職員と組合員がつらさも苦しみも分け合うのが生協運動。 私など、 母に 『あんた生協で働いているの?』 と言われるほどで、 組合員も 『サービス残業』 をしている」 と発言し、 別の組合員からは 「生協職員は有償労働の後、 無償で組合員の活動に参加してくれる意思があるだろうか。 積極的に無償労働に取り組むような職員といっしょに組合員も生協をつくっていきたい」 と、 無償で働くことを大事にしたいという意見があった。
この議論を受けて、 榑松さんは 「職員の残業も組合員活動も、 ボランタリーであるかどうかがポイントだ」 と職員のサービス残業はあくまでも強制されるような状況ではなく自主的なものでなければならないと危惧を述べた。
このように、 議論ではサービス残業を生み出している組織は問題だという意見、 残業の経費を計上することができない予算制約のなかで自発的にがんばる職員がいるという意見、 組合員はいつでも無償でがんばっているのだから、 生協職員も有償労働の部分とは別に、 どんどん無償労働すべきではないのかという要望などが出され、 さらに深める必要があることが明らかになったと思われる。 また、 最初に投げかけられた問題はサービス残業問題に還元されるものではなく、 職員の仕事のやりがいと個人生活の尊重をめぐるそれぞれの職員の意識や職場の運営などの問題として、 注目していく必要があろう。


組合員と職員が満足する組織とは

討論のまとめとして、 3人がそれぞれ発言したので紹介する。

上掛利博さん (京都府立大学助教授、 当研究所研究委員会幹事) は、 「 『満足する』 とは 『楽しさ』 ではないか。 一人ひとりの違いを 『わがまま』 とせず共感を生むことで協同していけるし、 発想を広げ自分で考えて動ける職員、 組合員がいることが組織を大きく飛躍させることになる。 今日のシンポジウムを通じて、 人間の暮らしや幸せを学ぶことができたことをもって、 『研究所もしっかりせよ』 というご指摘にこたえていきたい」 と、 いろんな考えの人と楽しく取り組むことを強調した。

的場さんは、 「職員も組合員も元気に頑張っている生協、 というのは、 まさに宮田さんの実践報告にあった、 人にしてほしくないこと、 やってはいけないことがはっきり言える生協だ。 『やらなくちゃ』 と思ったら、 そう思ったあなたが行動を起こすしかないと思うし、 そのために研究所が何ができるか考えていきたい」 と素直に話し合える組織であることの大事さを述べた。

最後に川口清史さん (立命館大学教授、 当研究所理事長) は 「生協に参加する一人ひとりが働きがいや生きがいを実現することが、 組織や事業を動かす力になる。 職員を元気にするネットワーク型の組織は、 店長や支所長が具体化の見通しを持ち、 思い切ってやれば実現する。 研究所としても、 もっと組合員、 職員の方に向いていきたいという思いを強くした。 研究所は理事会 (役員) のためだけにあるのではなく、 組合員や職員、 さらには労働組合のためにも役立つよう、 もっと関わりを広げていきたいと思う。 ともにやるという気持ちで新しいスタートを踏み出せたことが、 このシンポジウムの成果である」 とシンポジウムの意義をまとめた。

今回の討論では、 残念ながら報告にあった問題提起の全体について意見交換ができなかった。 今後、 さらに生協のビジョンをめぐる議論をすすめていくべきであろう。 また、 生協のあり方を問うとき、 同時にくらしと協同の研究所のあり方もまた問われているという自覚を持ったという点も今回のシンポジウムの特徴である。
(文責・まとめ 田中 薫、 若林靖永)




【質問への回答】
シンポジウムで質問用紙を提出したが、 討論で十分に深まらなかった内容について、 それぞれのパネリストから回答をいただいた分を掲載する。

Q1 経営改善が不十分な中で、 生協が日常的に組合員との信頼関係を築くシナリオはどうつくりあげるのか。

A:田中秀樹
組合員との接点を 「商品におく」 のではなく、 「組合員のくらしにおく」 こと。 「くらしがどうなっているか」 「くらしの思い」 に心を寄せることだと思う。 具体的には、 組合員の声の聞き方が問題になり、 「声に答える」 ことと同時に、 そこからの 「くらしへの思い」 を 「耳を澄ませて聴く」 こと、 同時代に生きる市民として、 「くらしの思いへの共感」 や 「くらしに寄り添うなかで解決方法を共に探ること」 が大切なスタンスだと思う。 理事も職員も、 肩書きを離れた一市民としてくらしに共感する姿勢のなかから、 信頼関係や人間関係も生まれ、 専門性も発揮しうるのではないだろうか? 「商品づくり」 が目的ではなく、 くらしの豊かさが目的のはず。 問題は、 そうしたミッションをそれぞれの生協が発見し共有化する過程がまた大切だが、 大変なことであることだ。


Q2 大学では 「くらしづくり」 の実践があるのか、 また、 ちばコープとの共通性はどうか。
A:田中秀樹
大学における学生のくらしづくりの実践は、 あるのだろうがよく知らない。 しかし、 大学生協ではそうした方向性がやはり大切であると考えている。 「ひと声カード」 に答えるという段階から、 学生のくらしの悩みや思いに寄り添うなかで事業のあり方を考える、 ということでは、 学生の食、 就職支援、 仲間づくりなど、 模索が始まっていると思う。


Q3  「くらしづくり」 を生協が正面にすえられない要因は。

A:田中秀樹

生協は、 職員も理事も、 商品を見ている人はたくさんいるが、 組合員のくらしをみている人は少ないように思われる。 くらしが大きく動き、 くらしの悩みや思いも深くあるが、 そこと生協が切れているように思うのは、 生協の多くの人は、 商品を通してしかくらしをみていないからではないだろうか。


Q4 生協の組織、 職場で 「議論」 ができない理由と、 阻害要因は何か。

A:榑松佐一
第一に、 20代~30代前半の青年層全体にいえるが 「人間関係つくり」 の経験が不足していることである。 学生のサークルをみても 「同じ釜の飯を食う」 ような体験が少なく、 気に入った時だけの人間関係しかできていない。 「他人に弱みを見せる」 ことに臆病であったり、 意見の違う人と話をし、 時には対立することになれていない。
第二に、 生協ではとくに 「まとまること」 「協同する」 ことが求められ 「同質的な価値観」 が意図的に強調されたことがある。 生協全体も個別生協でも独自性が強調され、 閉鎖的で外部との情報交流、 公開が遅れた面がある。
多くの生協でこのような要因をきちんと受け止めたマネジメントの改善がされていない。 ある生協では、 「意見は求めるが話し合いは求められない」 と指摘した。


Q5 コープさっぽろの労働組合はどのように方針を変更したか、 また、 生協再生における労組の独自の役割は何か。

A:榑松佐一

新執行部の政策はまだほとんどでていないが、 この間役員選挙でのニュースからは、 「(前委員長は) 『組合員の暮らしを守る運動を強めることが必要だ。 国民的課題への取り組みが生協再建の鍵である』 とするなど多くの労組員や現場第一線の気分感情を大切にした方針ではありません。」 とある。 具体的には2月に店頭で消費税署名をやったことが経営幹部からも問題になった。 新執行部は 「内部活動重視の労働組合」 にするとしている。 また、 組織内のコミュニケーションについては、 役員選挙への経営幹部の不当労働行為が発生しても 「文章・ニュース・ビラは職場へはださず、 口頭で」 というように労使関係に関する問題を情報公開しない姿勢である。 生協労連への抗議も不当労働行為があった事ではなく 「公開した」 ことに抗議している。
再生における労働組合の独自の役割については、 「労働組合として理事会とは異質の論理で生協運動のあり方に意見する」 ことが重要だと思う。 さっぽろの不当労働行為事件や雪印の問題をみても、 労働組合として組織としての意見も重要であるし、 自由にものが言える職場にすることも重要だと思う。


Q6 現場のネットワーク型の組合員組織が意思決定権 (力) を持つために必要なサポートは何か。

A:古河憲子

(1)ネットワーク組織活動のサポートは、 一つの情報源に位置づける。 (ネット場の中の1ネットになる) 受け身ではあるが、 大変重要だ。 タイムリーで正確な情報を常に確保し、 各組織が必要に応じて選出でき、 幅広い活動になるように助ける。

(2)全組織の活動結果 (今までは活動提案ばかりであった) のコーディネートをする。 各組識の情報集約をする。 (研修、 発表、 協議の場を持つ) コーディネートには、 事業と生協運動のバランス感覚が必要である。

(3)ネットワーク活動を成功させるには、 地域の組合員にあった支持される活動をし、 独自の発想、 積極的な展開を行える組織力があるかどうかがポイントである。 各地域の力、 内容を深く理解する。 そして、 弱い部分のアドバイスは、 他生協等の成功例を話し、 幅広い情報が必要である。 狭い範囲での成功例は、 各組織の競争をあおり、 無理な活動に走りやすいから。


Q7 京都生協の特徴、 存在価値がはっきりしていないのは具体的にはどのようなことか。 今までの存在価値はどのようなことであったのか。

A:平田裕美

今まで積み重ねられてきた運動、 事業が、 30年余りを経て大きく広がったことから、 それら一つひとつが生協の理念とどうつながって一つの大きな 「生協」 を形成しているのかが、 組合員からは見えづらくなっていると思う。 (例えば、 産直から商品開発、 宝飾事業まで) →生協の中でのそれぞれの存在価値や今取り組んでいる運動や事業の一つひとつを生協の中だけで考えるのではなく、 社会全体の中で対比してみたとき (形としては同じようなものが存在している) に、 生協としては何が違っているのか、 これからどう存在していくのか、 これらが組合員にとってもっと明確になってほしいと思う。 (一つは店舗の有り様) →社会の中での存在価値は、 その時代の組合員のくらしを共に作ってきた時代は、 一つひとつの取り組みにも、 組合員の活動にも、 生協としての具体的で明確な存在感があったのだと思う。


Q8 パートの思いが一つになって大きなエネルギーを発揮する上で支部長はどのような努力をしたか。

A:宮田久一

報告の中にも書いたが、 たとえ一人の意見でも、 無視しない事 (ここで言う無視とは、 聞くだけ聞いてそのまま何もしない事)。 その意見が聞く側にとっては、 たいした事ではなくても、 パートさんにとっては困っている事や重要な事だってありえる。 そして何より大切な事は出来ない理由を言う前に、 出来るための努力を惜しみなくしていく事。 そうした努力がたとえ実現しなくても、 理解、 納得を得る事につながった。
もう一つ大切な事、 そして努力した事は、 何かを始める前には、 必ず全員に意思表示を示してもらうこと。 全員に理解、 納得、 合意を得るために努力をする事である。
それが責任者からの発信ではなおさら重要である。 働く人にとって、 ほんのささいな事が自分の意見として実現した時、 責任感が生まれ、 働き甲斐が生まれてくる気がする。
組織の一員として見る前に、 ひとりの個としてみてあげる事、 個の集まりが組織を創り上げ、 個の力を引き出す努力が集団としてのエネルギーになると思う。
上記がまだまだ未熟ながらも、 支所長として努力をしている最中である。


Q9 チェーン組織とネットワーク組織は対立する組織概念なのか。

A:若林靖永

今回の報告は、 論点をはっきりさせるために、 あえて対立的に問題を設定したという面がある。 チェーン組織とネットワーク組織については、 その間にさまざまなバリエーションが考えられるし、 実際に存在する。 しかし、 典型的なチェーンストア組織と徹底したネットワーク組織は対立的であることもまた強調したいと思う。
典型的なチェーンストア組織とは、 本部が商品構成、 売場陳列、 売価設定までコントロールしており、 現場の店舗はその指示にしたがっていかにロー・コスト・オペレーションするかという運営がなされている。 それに対して、 徹底されたネットワーク組織では、 あくまでも売場や売価に関する意思決定は店舗の判断であり、 本部は店舗に提案したり、 店舗からの要請に応えたりというサポートの役割についている。
セブン-イレブンでは、 フランチャイズ本部がこれを売ろうと提案しても、 いやうちでは取り扱わないという発注量の自由が確立されている。 であるからこそ、 フランチャイズ本部から派遣されるOFC (店舗支援スタッフ) は、 各フランチャイズ店に説明し、 納得してもらって発注してもらうように支援を行なっている。 同時に、 商品調達や商品開発、 情報システムの開発、 全国キャンペーンなど、 チェーン組織としてのメリットを追求する本部の役割も発揮しており、 セブン-イレブンはチェーン組織であるとともに、 ネットワーク組織であるという両面を持っている。 ということは、 典型的な意味でのチェーンストア組織ではない。


Q10 第1の問いの枠組みそのものがミッションを限定的に引き出すことになるのではないか。

A:若林靖永

問いを設定した瞬間、 問題を、 つまり回答を限定してしまうという意味ではその通りだと思う。 より豊かな未来を構想できる問いの枠組みがあれば、 ぜひ提案していただきたいと思う。 ただ、 生協のこれまでの取り組みをふまえれば、 運動と事業という問い、 商品供給と福祉など地域ニーズへの対応という問い、 誰に何を供給するのかという問いは、 ミッションを考える上で重要かつ再設定すべき問いであると思うが、 いかがだろうか。 私はこの問いにこたえるかたちで、 さまざまなタイプの生協が展開されていくことを想定している。 あるべき一つのミッションを想定しているわけではない。 生協関係者自らが自らの生協のミッションとして再定義することについて、 問題提起したつもりである。


Q11 異質性を認め合える価値観を組合員組織の問題として提起しているが、 経営組織の問題として考えるべきではないか。

A:若林靖永
私はこれも選択であるというつもりで問題提起している。 つまり、 異質性を認めない同質集団の組合員組織を追求するという生協もありうるだろうし、 すでに多くの地域住民を組織している今日の生協においては、 異質性を尊重し合わなければ組合員組織が活性化しないというのも現実であろうというように提起した。
同様に、 一つの価値観を共有するなかまたちが生協職員として仕事に取り組むという経営組織もあるだろうし、 多様な考え方を積極的に大事にする経営組織もありうるだろう。 ただ、 一般的に経営組織において、 有効かつ効率的であるためには、 価値観を共有する方向が主で、 アウトサイダーは少数というバランスが望ましく、 価値観や目標を共有しない異質集団はコミュニケーションや合意が困難となり、 職場の生産性が低下すると言われている。 実際に、 どうもこの職場は自分に合わない、 ついていけないということで、 やめていく職員もいる。 あえて、 そういう職員もひきとどめられるような、 多様な価値観をもった職員集団を構成しようという意図はどこにあるのだろうか?私としては、 そういう経営組織をつくってはいけないとは思わないし、 大学などの研究開発志向の組織では必要なマネジメントだとも思うが、 生協においてそういう組織を志向することが必ずしものぞましいとは言えないのではないだろうか。



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