2000年6月号
人モノ地域

ちばコープの地域協議会に参加して
~声を中心にする「工夫」の事例


東北大学大学院経済学研究科 川島 美奈子


1. はじめに

ちばコープは1990年、 ちば市民生協とコープせいきょうの合併により誕生した。 合併当初はシステムや品揃えの統一によるとまどいがあったり、 一致する価値観がなかったりした。 しかし、 理事会での議論や幹部職員の合宿などで、 組織としての存在意義や組合員活動の意味を何度も問い直した結果、 「声を大事にすること」 が組織の中をかけめぐる生協へと変貌することができた。 ちばコープは 「生活創造」 をスローガンに掲げ、 「くらしに役立つこと」 を目標にする。 これは、 協同組合原則、 理念を事業と結びつけ、 かつ組織目標として成立させるためには重要なよみかえである。 この 「くらしに役立つこと」 とは、 組合員の声に応えて事業を展開することに他ならず、 この 「声に応えること」 がちばコープの事業の核にある。 この声に応えることが具体的にどのような形をとられているか、 今年4月6日に聞き取り調査を行った四街道地区の地域協議会を中心に考察を試みたい。 またその地域協議会を支えるための工夫や裏打ちが、 支部長や店長、 役員の考え方にあり、 それもあわせて見ていきたい。


2. 地域協議会での 「おしゃべり」 と 「声」

ちばコープの特性は、 この地域協議会のスタイルにあるといってもよい。 共通する地域の共同購入と店舗が一同に会して組合員と話し合うスタイルは、 この四街道地区が最初に行った。 「単に客集めではなく地域のお店にならないと」 (理事の岡さん) いけないということから、 店舗を 「数字のために何かやるんじゃなくて、 楽しいことを」 (地域サポーターの藤岡さん) する場所にしていったのは、 この話し合いの場である。 例えば講習会も以前は共同購入支部の集会所で行われていたが、 「講習会後にお買い物ができるといいね」 ということから店舗の2階を使って行われるようになった。
地域協議会のメンバーは地区の店長、 共同購入の支部長、 エリア責任者 (千葉県全体を5つのエリアに分け、 それぞれのエリアごとに、 組合員活動、 共同購入の支部、 店舗の代表者が集まり、 相互に調整をすすめている。 エリア責任者はその相互調整を担当)、 理事、 地域サポーター (以前は地区リーダーと呼ばれていたが、 地域の代表というより、 地域の組合員活動の相談に乗り、 サポートするという役割を重視して名称を変更) である。 地域協議会は店舗協議会のあとに行われ、 話されることや構成員もほぼ同じである。 店舗協議会の話し合いの内容は経営数値ではなく店舗を使ったイベントや、 組合員とのコミュニケーションに重点がおかれている。 例として商品の売り方の工夫や組合員の情報、 商品をどう利用するか、 イベント運営のノウハウなどがあげられる。 地域協議会は店舗のよかったところや、 新しく地域とつながりができたこと、 顔を合わせて話をすることの大事さ、 それがどんな効果や新たに良かったことを生み出したか、 また個別に挙がった声をいかに大事にしてきたか等を紹介する場になっており、 ちばコープの価値観を共有する場になっているという印象を受けた。 組合員代表の理事や地域サポーターも、 支部長や店長も 「この商品を売りたいから何とかして下さい」 ではなく、 どうやって声に応えていったか、 また個別の声を大切にすることとはどういうことか例を挙げながら説明していく発言スタイルを取っている。 「何々を入れて下さい」 「何々を買って下さい」 という一方通行のコミュニケーションではなく、 「こうすればこうなるよ」 という話し方はどちらにも共通していたように感じた。 「声を出した人と出された人ではなく、 声を出した人も声を受け取る側の人も、 直接その声に関係ない第三者も一緒に考えていこう」 (理事の香取さん) という姿勢は、 「事業」 という枠組みというより、 「地域に必要なこと」 を出していこう、 経営は前面に出さないようにしよう、 むしろ 「地域」 や 「くらし」 を前面に打ち出した話をしようというちばコープ全体の意識の現れではないだろうか。
地域中心志向について、 例えば 「きやっせ&大物産展」 というイベントがその事例にあたると思う。 これは千葉幕張メッセで行われる、 生協祭りと物産展をあわせたようなイベントである。 ここで組合員は自分たちが普段やっていることを発表したり、 地域の業者がいろんなものを売ったりする。 この 「きやっせ&大物産展」 について、 地区協議会では 「エリアの人たちの顔が見えない」 ことを挙げて話し合われていた。 どうやって説明していけば交通費を払っても来てもらえるのかという反省に加え、 地域でイベントをやったときに 「きやっせ&大物産展」 以上に参加しやすいものができればよいのではないか、 という意見が出る。 顔の見える範囲、 すなわち地域の関係性を大事にしながらどうやって宣伝や説明をすればよいのかなどの話が中心になっていた。
また、 4月なので時期的に地域別総代会の話が中心になっていたが、 そこで重要なのは 「わたし」 をどうやって出していくか、 という話である。 「生協で何年やっている」 ではない 「わたし」 の出し方、 決めつけのない自由な意見の出し方が大事にされ、 そうなっていくためには 「活動報告」 の名称変更や、 活動の中心になっているメンバーを中心に話をすること、 新しい人たちが納得するような話をすることなどの提案がなされる。 「お客さんではなく、 こちら側に来て考えてもらう」 (理事の金山さんと地域サポーターの藤岡さん) ことが大事だという話の流れになっていた。 さらに、 ヒューマンネットワーク事業に関し、 組合員でなくても地域の人なら参加しても良いことや、 地域の人を巻き込んだ農業関係のイベントについても話し合いがなされていた。


3. 理事や組合員の価値観の変容 「声に応えるって何?」

理事の方々からは、 合併前後で大きく価値観が変わった事例として、 米不足の時の対応やチェリー缶事件というものをお伺いすることができた。 合併前はトップダウン式に、 ちばコープという組織全体である 「不公平はいけない」 「平等が絶対大事」 といった価値観を共有しなくてはならなかったのが、 合併後にはきわめて柔軟に 「一人ひとりの要望と意見」 を大事にする、 自由な発想を共有するようになったというお話である。 米どころからの選出理事でも、 理事という立場からは外米取り扱いを説得する側にまわらなくてはならないが、 合併後では決してそういう行動を取らなかっただろうという意見や、 共同購入で無添加のチェリーが欲しいという組合員のために店舗で買って届けたということに対し、 合併後では当然のこととして 「よかったね」 と喜べても、 合併前では 「不公平だ」 と批判せざるを得なかったことがその内容である (理事の岡さん)。 カタログ掲載商品に関しても、 「みんながいらないものはのせなくてもいいんじゃない」 から 「お店にいけない人もいるよね」 という価値観に変わっていった (理事の香取さん)。 また 「理事としての責任」 を背負うことから分担すること、 個人としての意見を言えばいいことがわかってきて、 会議に出るのが楽になったという意見も複数出た。


4. 役員会や職員の 「くらし」 みなおし

職員側の方針としても、 くらしを前面に打ち出していこうという姿勢は今年度から本格的にとられる予定である。 「肩書きを取らないと地域に入っていけない」 (エリア責任者の渡辺さん) ことや、 「職員も地域を語らないとだめだよね」 (専務の田島さん) となったのは、 共同購入配達担当の定時職員のやり方が役員に影響を与えたことなどがその理由のようだ。 また役員側も自分たちになかった組織形態や会議のあり方については、 組合員の大半である主婦のやり方を受け入れている。 なるべくトップダウンにならないよう、 またそうならざるを得ない場合でも 「組合員側の立場に立っていることがわかるように」 組合員中心の考え方を守るために行う、 という前提があることを明らかにしていた。


5. 感想

ちばコープの聞き取り調査から感じたのは、 システムを前面に出さないこと、 縦割り組織ではなく店舗・共同購入での売る側・買う側の枠を越えたつながりを大事にすること、 さらに生協という枠を越えた 「地域・くらし」 を中心に事業や活動を行っていることが挙げられる。 組合員側 (ニーズを生み出す側) にたって考え、 従来の事業という枠を取って考えたとき、 新たに 「くらしを大事にする」 ことから何ができるか、 という目標ができたのではないだろうか。


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