書評1
2000年6月号


90年代日本の独身者像!?

名和 洋人
京都大学大学院経済学研究科修士課程


「パラサイト・シングルの時代」
山田昌弘
ちくま新書 1999年10月



「パラサイト・シングル (以下PSと略す)」 ……何ともいやな言葉である。 直訳すれば、 寄生独身者ということになる。 その指すところは、 著者によると、 成人後 (就職後) も親と同居しているにもかかわらず、 自らの稼ぎを生活費としてほとんど家に入れず、 趣味・交際費などに使ってしまう20代~30代前半の若者とされている。 なんと、 彼らは国内に1千万人もいるそうである。 このPSの第一の特徴は、 生活コストの負担をしなくて良いことから、 自由に使える小遣いの額が桁外れに大きいことである。 第二の特徴は、 生活のための仕事・家事・育児にと働いている若者とは違って、 金銭的・時間的余裕があるため、 「自分探し」 が可能なことである。 つまりPSは、 かつては存在しなかったタイプの独身者であり、 様々な面において豊かで恵まれた若者なのである。
以上のような特性を持つPSは今の時代に大きな影響を与えていると著者はいう。 具体的には、 第一に、 PSの形成は未婚化・晩婚化、 そしてさらに少子化を促すという。 第二に、 著者はPSの経済的影響にも注目している。 PSが行う消費は一人暮らし者や既婚者が行う消費パターンとは全く異なり、 高級ブランド品の消費には大いに貢献している一方で、 家を出ず、 結婚もしないため、 住宅需要を減少させ、 自動車・家電・家具などの消費を落ち込ませる。 また、 PS形成と、 高齢者男性の労働力率が諸外国と比較して高い水準にあることとは不可分の関係にあるとも指摘している。 第三に、 社会的影響として、 未婚者の経済的格差拡大に親の経済力が関係し、 「生まれ」 が生活水準を決めてしまう社会が復活しつつあると指摘。 まさにPSは社会の癌であると言わんばかりの記述を行っている。
最終章で著者は、 現在の不況・社会的停滞の遠因をPSの存在に求め、 その解決策を示している。 PSがすでに豊かな 「夢」 のような生活をしており、 このような生活を手放さずに、 さらに 「夢」 を模索していることが最大の問題であると著者は捉えた上で、 具体的に、 親から引き離す方策あるいは若者の自立支援策としての税制、 政策的対応の必要性を訴えている。 もっともこの点について私は、 PSの形成そのものが一つの結果であると思うので、 著者がここでいうような、 PS対策に焦点を当てて日本社会の活力を取り戻すというアプローチには少々無理を感じるのだが。
結局、 著者は、 セーフティーネットのかかった自助努力社会を目指しているようだ。 著者の見解をそのまま受け入れることに躊躇する部分が一部にあるものの、 現実の社会に存在し影響も大きいであろうPSとは何か、 を知るには価値ある一冊と思う。



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