2000年4月号
人モノ地域1
新しい労働のあり方
-ワーカーズコープから学ぶ-
「京都生協ヴィスタの会」 は、 京都生協や関連会社に属する50歳以上の職員及びOBを対象にして、
「会員の定年後の 『くらし』 を支え、 『生き甲斐』
を生み出すために、 『しごとおこし』 をめざした」
組織で、 現在44人の会員が所属する。 そのヴィスタの会が
「しごとおこし」 のための調査、 研究活動の一環として、
コープかながわのワーカーズコープの実践に学ぶ学習会を開催した。
コープかながわからは木下長義さん (常務理事、
企画本部長)、 ワーカーズコープからは村山節子さん
(企業組合ワーカーズコープ・キュービック理事長)
がお見えになり、 日頃の活動について報告された。
その後、 質問などが出され、 交流した。 企業組合ワーカーズコープ・キュービックは、
1990年設立、 今年で10周年を迎える。 現在の事業高は1億5千万円で組合員数が150人。
平均するとワーカーズ一人あたりの分配金 (労働に対する報酬)
は月7万円になる。 今回は、 その学習会で話された企業組合ワーカーズコープ・キュービックについて報告する。
コープかながわ常務理事
企画本部長 木下 長義
設立の経過
私が入協したのが1977 (昭和52) 年ですが、
その時村山さんは組合員理事でした。 当時から理事会は任期が2期4年までと交代制をしいていました。
私の目からみても、 組合員には活力があるし、
いままで生協のいろいろな場で活躍してきた経験が理事が終わると途切れてしまうことについてはもったいない、
もっと活躍できる場や仕組みがあっていいのではないかという問題意識がありました。
組合員の側も、 生協運動に関わりながら、 いままで蓄積してきた経験、
能力を発揮できる場を作りたい、 生協の中には組合員ができる仕事があるし、
組合員自身にも働きたいという潜在的な希望がありました。
もちろん労働報酬も求めますが、 報酬の高さを第一義的な就労動機におくのではなく、
生協と関わりながら、 自らの生き方を問い直し、
仕事そのものへの興味を第一義においた仲間を増やし自己実現をしていくことに組合員が問題意識を持っていました。
この議論は80年代の半ばからありました。 生協の理事として活動してきて、
役割を終えた後どう生きていくのか、 生協とどう関わりを持っていくのか。
88年に退任理事、 監事14人で 「ワーカーズコープ」
研究会が発足して、 ワーカーズを作るようになりました。
当時から神奈川県ではワーカーズ・コレクティブ
(日本では一般的に生活クラブ生協の組合員が中心の協同事業をいう場合が多い)
の動きが活発でした。 82年、 生活クラブ生協神奈川の
「にんじん」 がワーカーズ・コレクティブ第一号として誕生、
以後全国に広がり、 今は全国で約450団体、 組合員は12000人にも上ります。
そのうち神奈川県では4000人以上の組合員が活動しています。
この動きを意識はしましたが、 できるだけ大勢の人が関われること、
共感が持てること、 これを基本のポリシーにしてきたので、
ワーカーズコープとして出発しました。
仕事としては無理?
当時の職員の側には、 組合員のパワーを感じつつも、
他方で、 組合員は普段は職員の仕事ぶりがけしからんといろいろと注文をつけるけれど、
自分たちで仕事としてやりだしたらたいへんではないか、
と腹の中で思っていた人も少なくありません。
しかし、 キュービックのなかでのグループは現在19、
年間1億5千万の供給があって、 また介護と家事援助をコープかながわが委託している愛コープも1億円の供給になっている現状を見ると、
それなりにがんばっているなと思います。
働くことの意味
ワーカーズを、 労働政策との関係でいうと、
ローコストで仕事を担ってもらえる経済的な機能は否定できません。
そういう側面もあるのですが、 同時にワーカーズには、
自らが働きたいという欲求があり、 その場を自分たちで創っているので、
両方から押さえないといけないと思います。 これに似た動きは、
正規職員にもあります。 50代以上の職員が、 あと10年間どう働くのか、
どう生きるのかを問い直しています。 自分たちは生協運動に貢献してきたという自負と、
経営も芳しくないので迷惑をかけたくない、 自分たちで自主的に何らかの協同組織を作って、
自立をして生協の手がけにくい分野の仕事を請け負わせてくれないかという事業企画の提案が出てきています。
例えばなかなか採算がとれない小型店などを請け負わせてもらいたいなどです。
生活は必ずしも楽ではないのですが、 報酬第一というより生き甲斐づくりと生協に役に立ちたいという思いで、
仕事のおもしろさや役立ち度を求めて、 自分たちで創っていきたいと発言されています。
そこがある程度のボリュームになってくれば本格的な政策として考えていく必要があると思っています。
企業組合ワーカーズコープ
「キュービック」
理事長 村山 節子
キュービック誕生
私は20代後半から生協に加入し、 30代から40代にかけて理事や監事を経験してきた生協大好き人間です。
88年の 「ワーカーズコープ研究会」 の設立にも退任理事としてメンバーに加わりました。
その後、 90年2月に、 ヘルパーのワーカーズとして愛コープが設立。
3月に、 特に仕事はなかったけれどキュービックを立ち上げました。
理事のときは忙しかったので、 家のことは自立している人が多く、
今から家庭に戻る必要もありません。 それなら外で何かやりたいと思うけれど、
パートで働くのはいや。 かといって、 生活クラブのようなエネルギーはない。
でも何かやりたいと思って創ったのがキュービックです。
創ったけれど、 初め仕事は全くありませんでした。
最初に依頼された仕事は組合員の初級教育用のテキスト作りです。
それからアンケートの発送作業などもしましたが、
2年目にコープかながわ本部の食堂事業を受託したことが今日の基礎を作る上で大きかったと思います。
仕事は毎日あるし、 ワーカーズとしてやっていける自信になりました。
その後は、 事業高、 組合員数ともに順調に伸びています。
仕事と生き甲斐
はじめはきた仕事をこなすことで手一杯でした。
やったことがないことばかりだったのですから。
でも、 生き生きとしていました。 それは、 どんな仕事でも、
自分たちで考えながらできたからです。 言われたことをするだけでなく、
主体的に労働に参加できるるし、 仕事が一つ終わると自分の成長を実感できました。
仕事を実際にしてみると、 自分に能力があるかないかが分かってきます。
全員が同じようには仕事ができないこともわかりました。
得意不得意もありますが、 同じようにこなすことでお互いのよさが分かってきます。
人間的な成長が仕事の一つ一つにあったのです。
成長できること、 生き甲斐を持って働くことの意義は、
金額の高さとは違う意味を持ちます。
労働からの生協への参加
最近メンバーになる方と面接をしていて、 生協で買い物しかしていない人がけっこういます。
そういった方には、 生協で活動をしないとキュービックではやっていけないと話します。
生協で買い物をすること、 班長をすること、 できれば委員までやってほしい。
できるだけ地元で生協活動に参加し、 週に1回か2回でも仕事をしてもらう。
そうすると、 昨日までは単なる組合員だった人が、
生協で働くことを通じて生協のことが少しづつでもわかってきます。
福祉の分野にも
96年、 横浜市泉区で、 高齢者向けの給食サービスを始めました。
はじめは自宅を改装してと考えていたのですが、
生協の空施設を貸していただけるようになり、
そこを 「コープかながわ泉区給食サービスセンター」
としました。 泉区内には生協の店舗が5店あるのですが、
「生協のお店には惣菜の扱いがないために、 他のスーパーに行かざるをえない」
という、 高齢者の切実な声がきっかけとなって配食サービスを始めました。
一食800円ですが、 一日平均40食~50食作っています。
60食くらい配達できると良いのですがもう少しです。
今年度には累積の赤字を解消できそうです。 この活動を通じて自治会や医療生協・愛コープ・JAなどの地域の関係者とネットワークを広げています。
そして4店舗にも総菜を卸すようになりました。
ここから将来は福祉センターの1つくらい創りたいと考えています。
配食もし、 ディサービスも行う。 ショートスティもできるようなセンターです。
企業組合として
福祉関係の仕事やキュービックとしての自立を考えて、
99年11月に 「企業組合ワーカーズコープ・キュービック」
と法人格を取得しました。 それは事業を大きくしていこうとしたらNPOではむずかしいことが分かったからです。
NPOは事務局がいて形の上では雇用契約になってしまう。
形だけ雇用契約にするといっても、 やはり雇用されているということになりかねません。
ワーカーズとしての対等平等を保つために企業組合を選びました。
でも、 労災などの保険関係が課題としてあります。
自立援助金制度などを作って解決したいと思います。
これからについて
ワーカーズが約150人いるうち30代はたぶん20人くらいです。
若い人たちもワーカーズとして仕事ができるようにして、
経営基盤を安定させたいと考えています。 そうすれば、
理事の世代交代もできますし、 事業としてコープや他団体からも自立できます。
そのためにはリーダーの役割が重要だと思います。
社会の変化に対応してリーダーの役割をどう繋げていくか、
キュービックとしてはこれからの一番大きな問題だと思います。
※企業組合ワーカーズコープ・キュービックの事業グループは以下の19です。
経理、 もしもしコープ (組合員の苦情、 意見の受付)、
本部食堂、 県連 (神奈川県生協連の仕事)、 法務
(ユーコープ事業連合法務担当の仕事)、 翻訳、
ソーイング (店舗での裾直しなど)、 ふれあい共済
(ふれあい共済の学習、 普及)、 体力測定 (正規、
パート職員に対する体力検査)、 ワープロ、 ゆきげ
「お世話係」 (コープ葬祭ゆきげのお世話)、 ゆきげ講師、
EV (コープ低公害車開発株式会社の事務局)、
エニ (各グループに該当しない仕事)、 リサイクルショップ、
プリントショップ、 麦畑 (経済連のお店の食堂)、
風の谷 「やまびこ工房」 (自閉症者の通所施設の昼食)、
泉区給食サービスセンター