2000年4月号
書評1

コミュニティもビジネスの時代

山口 浩平
生協総合研究所客員研究員


「コミュニティ・ビジネス」
細内信孝著
中央大学出版部 1999年10月 2000円


「コミュニティ」 という言葉が溢れている。 阪神大震災後は地域コミュニティの再生が大きなテーマだし、 多くの行政がコミュニティを施策として取り扱う。 時々否定的な捉えられ方もするが、 インターネット上で深くシンクロした人たちの集まりもコミュニティと呼ぶことがある。 しかし、 コミュニティという言葉の意味は、 使う人や時代背景によって微妙に異なっている。 町内会など地縁的な人と人とのつながりをイメージしてコミュニティとも言うし、 NPOなど興味関心でつながる非地縁的な集団もコミュニティを志向する。
要するに 「コミュニティ」 という言葉は曖昧で、 確定していない。 だからこそ千差万別な活動が一言で表現されうる。 コミュニティの必要性に異議を唱える人は少ないが、 それは何か、 と問われた時に答えは出るだろうか。 本書では、 「ビジネス」 という道具で、 このコミュニティという素材を料理する。 例えば空洞化する商店街、 農山漁村の過疎化、 零細企業の復興などの問題をどのように解決するのか、 そのための支援のあり方は、 という実際に目に見える課題設定をしてから、 本書はコミュニティという言葉にアプローチする。 地域住民自身が問題解決志向を持って活動を行い、 かつそれが経済的にペイする状況を作り出せる、 そんな活動を著者は 「コミュニティ・ビジネス」 だと言う。
ビジネスという言葉を使うことで、 すでに存在する様々なコミュニティ活動の幅が広がる。 例えばボランティアがタダで企業は営利、 行政は役所に任せ、 住民は税を納める、 と言った二元論の中で、 これまでは様々なシステムが運営されてきた。 それに対してコミュニティ・ビジネスはその中間領域に位置する。 単にお金だけではない価値をビジネスを通して追求しつつ、 自分の身近な問題を解決していくことで、 それまでの固定化された役割から、 コミュニティの活動が自由に、 そして豊かになる。 本書はその実例を私たちの前に見せてくれる。
コミュニティ・ビジネス論は、 今後様々な可能性を持っている。 例えば青年論として、 若者の働きがいという問題に示唆的である。 また、 生協論としても、 コミュニティを意識しながらビジネスとして成立するための組織設計、 組合員のエンパワーメントなどに道を開く。 本書で紹介されている事例は、 そのほとんどが小規模で組織的には脆弱な面もある。 コミュニティ・ビジネスはまだ始まったばかりで、 その評価はこれからであろう。 しかし、 ビジネスとしてコミュニティに関わっている人々が、 活動を通して元気になっているということが本書からは実感できる。 自分たち自身で、 創意工夫を生かした事業。 ビジネスという切り口が、 コミュニティ活動の一つの選択肢を指し示している。



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