2000年4月号
特集

ごみ問題と
グリーンコンシューマー


環境問題への取り組みの着実な前進のためには、 メーカーや流通業などの事業者、 政府や地方自治体、 一人ひとりの消費者・市民、 NPOなどが互いに状況を把握し、 解決のための協働をすすめていくことが求められる。 本特集では、 家庭系ごみ問題の焦点はどこにあるのか、 グリーンコンシューマーの課題は何なのかについて考える。


ドイツと日本のごみ分析
1998年11月にドイツのフライブルク市で家庭系ごみ排出実態調査を行なった京都大学大学院経済学研究科教授の植田和弘先生に、 日本とドイツの比較分析の結果についてうかがった。

まず、 強調しておきたいのは実はごみがどういう構成になっているかというデータは実際に調査してみないと存在しないということである。
日本はこれまでの調査によりだいたい日本各地どこでもごみの構成は同質的である。 ごみの量については事業系ごみがまぎれこむので違いがあるが、 構成は生活様式の同質性の反映であろうがあまり変わらない。 そこで今回は大阪府の寝屋川市で調査を実施した。
ドイツは分権がすすんでいるので、 地域によって異なる可能性がある。 そこで環境先進国と呼ばれるドイツで環境先進都市と呼ばれるフライブルク市を選んだ。 フライブルク市と寝屋川市の調査比較はかなりはっきりした違いがあらわれた。 それについてお話ししたい。
ごみとして出されたものがもともと何のために使用されているものであったのか、 材質は何かで分類したのが、 使用用途別ごみ質比較である。 第1に、 大きく違うのが、 プラスチック製容器包装であり、 重量比で寝屋川が9.5%に対し、 フライブルクは3.9%、 容積比では33.9%に対し17.5%となっている。 フライブルクは寝屋川の半分ということになる。 生鮮トレイやラップ、 スーパーのレジ袋などが本当にわずかしかフライブルクでは出ていないのがわかる。 第2に、 ドイツはびん中心の国であり、 ガラス類の割合が12.2%で寝屋川の3倍となっており、 このデータにはデポジットシステムで回収されている再使用びんは含まれていないので、 全体ではもっと多いことがわかる。
また、 ごみとなって出された容器・包装材がどの段階で付加されたのかを見たのが、 付加された時点別排出実態である。 飲料水のびん、 缶のように、 工場等で出荷時に付加されるのが 「製造過程」、 トレイやラップのように、 販売店でプリパッケージとして店頭に並べられるまでに付加されたり、 レジで手渡す手提げ袋のように、 買い物客に商品を渡すときに付加されるのが 「販売・サービス過程」、 そのほか、 ごみを出すときに使われるごみ袋のような 「ごみ排出過程」、 プレゼント用の包装紙 (その他) などである。 このような点を比較すると、 特に 「販売・サービス過程」 で付加される容器包装ごみの割合が日本に比べて著しく低いのがわかる。
なぜ以上のような違いがあるのだろうか。 それは、 まずドイツのスーパーの販売システムが日本のスーパーとは大きく異なり、 量り売りが浸透しており、 トレイやラップ包装が少ないからである。 特に生鮮野菜や果物は量り売りが主といってよく、 消費者自らが売場に並べられている野菜や果物を必要量だけとって量り売り用のビニール袋に入れて、 それを量り売り計測機械に載せて、 野菜・果物のボタンを選び、 重さを量ると印字される値段のシートを受け取ってレジでほかの商品といっしょに代金を支払うというかたちになっている。また、 精肉・鮮魚は対面販売を除いてトレイ・ラップ包装が多いが、 日本のように派手なものは少ない。 飲料水は再使用びんが多く、 ペットボトルもデポジット制を採用している。 手提げレジ袋についても、 原則有料で、 多くの消費者は買い物袋を持参している。
販売の仕方の違いがはっきりとゴミの排出の違いに結びついていることがこの調査で明らかになった。 今後のゴミ問題への対応において、 ドイツと日本の販売の仕方が違うのにはもちろん理由があるのだろうが、 日本の流通業者の責任は大きいと考えている。


ドイツでの実態調査
植田先生をリーダーに、 環境配慮型販売システムの研究に携わっている地域計画建築研究所大阪事務所の小泉春洋さんに、 調査の実際についてお話をうかがった。

本研究は、 日本における環境配慮型販売システムのあり方を検討する研究で、 これまでセルフサービスの小売業において、 量り売りを導入してプリパッケージを減らす可能性について、 販売店の協力を得た実験などをすすめてきた。 日本の大型店の食品売場や食品スーパーでは、 基本的にはセルフサービスであり、 その多くがラップやトレイによるプリパッケージがなされている。 生鮮野菜は葉モノなどは一つひとつラップでくるまれているし、 果物などにはトレイをつけて包装されているものも少なくない。 精肉や鮮魚もトレイつきで包装されていることが一般的である。 刺身や焼き肉用の場合などは、 標準的なトレイではなく色つきの見栄えを良くする工夫のされたトレイも利用されている。 卵についてもプラスチック包装が多く、 最近紙パック包装が広がりつつある。 そこで、 家庭から排出されるごみの大半を占めると言われる包装ごみを減らすためには、 販売のあり方を見直す必要があるということで研究をすすめている。
販売システムの違いが実際にどれだけごみを減らすことができるのか、 事実にもとづいて見通しを持つ必要があるだろうと考え、 1998年度はドイツ (フライブルク市)、 イギリス (ケンブリッジ市) において、 1999年度はデンマーク (オーフス市) で家庭系ごみ排出実態調査を実施した。
植田先生がすでに強調しているように、 ごみ質についてのデータというのは調査をしないと存在しない。 京都市では、 1981年3月から京都大学環境保全センター教授の高月紘先生の指導のもと、 家庭系ごみの細組成調査が継続的に実施されている。 これまでのごみ調査は燃やすことを前提にごみ処理施設の維持管理を考えていたので、 カロリー計算ができればいいためわずか10数項目に集計されるだけであった。 しかし、 ごみの発生抑制やごみの減量方策を考えるためにはそれだけでは不十分で、 ごみとなる前の使用用途についても調査する必要がある。 現在、 実施されている調査、 たとえば今回、 比較対象になった寝屋川市の調査では約250項目に分類されている。 ヨーロッパ諸都市の調査ではそこまで細かい分類は困難でもあるので約110項目に分類した。
さらに、 ごみの回収処分の問題を考察するために、 分類された各ごみの重量だけでなく、 容積、 本数 (飲料容器等のみ) を調査した。 この容積を測るのはいい方法がなく、 目盛りをつけたバケツ容器にごみを入れて、 ほぼ一定の圧力で重みをかけて測定している。
調査では、 まずごみを収集する地方自治体の責任者の協力が必要である。 また、 場合によってはごみ収集・選別業者などの協力も必要である。
調査対象となる地域のサンプリングも重要で、 偏りがないようにする必要がある。 そのためごみ収集車両やごみ焼却施設や選別施設に集まったごみで調査するのではなく、 対象として特定したエリアのごみを直接収集して分析するようにした。 フライブルク市の場合は、 同市の平均的ごみ質が得られるよう住宅形式により3地区を選んで、 中層集合住宅地区 (5階程度のアパート)、 テラスハウス地区 (横並びにつながっている住宅群)、 戸建て住宅地域 (一戸建て) それぞれ20世帯、 合計60世帯を対象とした。
フライブルク市のごみ処理の仕組み (1997年) はつぎのようになっている。
0 再使用びん及びペットボトル デポジットシステム (小売から飲料メーカーへ)
1 紙資源 (緑色の容器)  リサイクル業者に集まり選別後リサイクルへ
2 容器包装ごみ (黄色の袋)  同上
3 使い捨てびん (ガラスびん回収コンテナ)
4 その他のごみ (灰色の容器)  市が回収し埋立処分場へ
5 粗大ごみ 同上
6 堆肥化用の生ごみ、 草木 (茶色のバイオごみ容器) 発酵コンポスト化による堆肥利用
そこで、 調査では、 上の1紙資源と2容器包装ごみについては、 リサイクル専門会社DSD (デュアル・システム・ドイツランド) からフライブルク市の容器包装ごみのリサイクルについて委託を受けているフィッシャー社の施設に搬入され、 そこで分類作業を行なった。 また、 4その他のごみについては、 屋外の処分場に一度搬入したら他へ移動させられないという決まりのため、 寒いなか屋外で分類作業をすすめた。 ほかのガラスびん及びバイオごみについては、 既存調査を使って補正データをつくった。 こうしてできあがったのが、 先のフライブルク市の平均的家庭系ごみ質のデータである。
実際の分類作業に関わったのは日本から現地に行った人、 ドイツの学生およびイギリスに留学している日本人学生たちで、 バイトとしてお願いしたのだが、 よく働いてくれた。 環境問題への関心の高い学生たちということもあったかもしれない。 また、 意外だったのはドイツの環境担当の自治体関係者からお話をうかがうと、 出てくる課題、 取り組みは日本のそれと変わりがないということだ。


環境NPO/NGO
昨年、 『グリーンコンシューマーガイド 1999・京都 環境と健康のためのものえらび店えらび』 (発行 環境市民、 900円税別) をまとめられた 「環境市民」 の堀 孝弘さんにお話をうかがった。
「環境市民」 は1992年に設立された環境問題NPOである。 グリーンコンシューマーグループは、 13前後ある活動・研究グループの1つである。 まず、 環境問題に果たすNPOの役割、 方向についていろいろな見方があるので整理したい。
これまでありがちだったNPOとしては、 行政主導でその仕事を補完する団体や、 業界団体、 特定のグループによる団体などがあげられる。 これらは、 行政、 企業、 特定のグループそれぞれの利害などに縛られていて、 お互いぶつかり合うだけになりがちである。 それに対して、 これからのNPO、 「環境市民」 がめざす方向というのは、 行政、 企業、 市民・消費者の3つのセクターをつなぐコーディネーターとしての役割を持てるようになることだと思う。 3つのセクターそれぞれの都合はあるし、 一致できることもあれば対立することもあるだろう。 そこを調整しながら、 「環境問題を解決していく」 という方向にすすめていく具体的な力が求められている。
「環境市民」 は、 誰もが参加できる環境NGOであるとともに、 調査、 研究、 社会への提言ができ、 さらには国、 自治体、 企業と緊張感のある良いパートナーシップを実現するよう、 講演会の講師をはじめ、 審議会等の委員、 企業の環境キャンペーン企画の立案実施協力などをすすめている。 このような活動を通じて、 社会をより良き方向にすすめていく社会制御機構としての役割を発揮できるように努力していきたいと考えている。


グリーンコンシューマー
グリーンコンシューマーの動きがかたちになって示されたのは、 なんといっても1988年イギリスで 「THE GREEN CONSUMER GUIDE (緑の消費者ガイド)」、 89年にアメリカで 「SHOPPING FOR A BETTER WORLD (より良き世界のための買物」 が出版され、 消費者に環境に配慮した購買行動ができるよう、 具体的な情報提供を行なったことからである。 この本の新しかったことは、 市民が企業を評価して制御するという発想、 市民の行動が企業を変えるというところにあった。
これを受けて、 京都ではいちはやく、 ごみ問題市民会議が取り組み、 1991~1992年版と1993年版を発行した。 企業の本社の調査を含めたものをということで、 全国版、 グリーンコンシューマー・ネットワーク 『地球にやさしい買い物ガイド』 (講談社、 1994年) が出版された。
その後、 グリーンコンシューマーグループのメンバーもおよそ入れ替わり、 COP3後、 京都版をまたつくろうという話になって、 98年にようやく実際に動き出した。 こうしてまとめられたのが、 『グリーンコンシューマーガイド 1999・京都』 である。 本冊子のための調査・作成には150名以上のボランティアが参加し、 その多くが20代、 30代前半である。 男性も4分の1ほど占めた。 チャンスがあれば若い人ほどむしろ積極的に参加することを示したと思う。
また、 グリーンコンシューマー全国ネットワークによる 『グリーンコンシューマーになる買い物ガイド』 (小学館、 1999年、 1400円税別) が発売され、 環境を意識した具体的な暮らし方のアイデアを提案するとともに、 全国80チェーンのスーパー・生協・コンビニの商品、 環境対策をチェックしている。
環境問題を解決するためには、 私たちのライフスタイルにメスを入れ、 大量生産、 大量消費、 大量廃棄という社会経済のしくみを変えていかなければならない。 しかし、 おおげさに考えるとむずかしいし、 極端なライフスタイルの変化はなかなか受けいられない。 そこで、 モノを買うというのは、 誰でもできること、 日常的な行動であり、 そのことが流通小売業や製造業の環境のとりくみを変えていく。 これがグリーンコンシューマーである。
この間のとりくみのなかで見えてきたことは、 生活の入り口、 つまり何を買っているかというところから、 変えることが大事であるということだ。 ごみ問題については、 リサイクルのとりくみがすすめられているが、 現実にごみは増え続けている。 アルミ缶飲料については、 業界団体の発表によれば10年間でリサイクル率は25%上がっていても (この数値自体の信憑性も低いと考えている)、 もとの消費量が5倍になっているため、 差引ごみになった量は3倍になっている。 生活の出口の工夫では限界がある。
したがって、 リサイクルのとりくみは今回調査はしたが、 高いウェイトをおかなかった。 「ごみを少なくする売り方」 をしているかどうか、 に注目した。 野菜・果物売場では、 無包装 (はだか売り)、 包装あり、 2重包装の3ランク、 また 「バラ売り」 や 「はかり売り」 について調べた。 肉売場では 「はかり売り」 について調べた。 鮮魚売場でも 「対面販売」 や自分で必要量袋に入れる 「ノートレイ販売」 について調べた。 ほかにもつめかえの石けんシャンプーや台所用液体せっけんの取り扱いを調べたり、 カップめんの売場面積と袋入りめんの売場面積を比較したり、 卵のバラ売りをしているかなどを調べている。 さらに、 レジ袋の削減のとりくみについても調べている。
スーパーの環境対策について、 科学的な調査手法は確立していないし、 当面できそうもない。 しかし、 できるかぎりデータ収集はルールを決めて収集し再調査、 再々調査も行なっている。 今回は、 量り売りをしている大型店の評価が高くなっている。 量り売りは必ずしも環境のためにやっているのではなく、 必要量手に入るという消費者サービスの向上としての意味も大きい。 一方でごみになるものをたくさん売っていてもその量は測定できていない。 しかし、 私たちのとりくみは、 誰でもできる、 わかりやすいとりくみでいいとも思っている。 完璧をめざすのではなく、 市民・消費者の直感も大事にしていきたい。
また、 ごみ問題だけでなく、 ほかに健康に配慮するということと、 安全ということを調べた。
これまで本をつくったら終わりという具合になりがちだったので、 本をいかに普及するかということについてもグループをつくって取り組んだ。 副題の 「環境と健康のためのものえらび店えらび」 を背表紙にもつけて、 宣伝でも中身がわかるようにした。 新聞などにもとりあげられ、 すでに5000部のうち4000部は普及している。
調査してみて企業ごとに特色があると感じている。 個人商店にはがんばってほしいと考えており、 スーパーを真似せず、 お客さんに声をかけて販売する自分のところの強みを発揮してほしい。 商店街編の調査も考えている。 生協は、 安全な日用品の取り扱いではもっとも優れているといっていいが、 ほかのことも含めると優位が小さくなってきているように思うのでがんばってほしい。

本特集では、 環境問題の研究者によるごみ問題の実態調査の結果と、 市民・消費者によるグリーンコンシューマー (ガイド) の運動について紹介した。 ともに、 ごみ問題の焦点がリサイクルからごみをつくらないことに向かっていること、 そのためには市民・消費者のとりくみが大事なこと、 そして流通業者の販売システムも大きく関与しており、 その点の改革が期待されていることが示されたと言えよう。



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