1999年12月号
書評1
ハッピーな売場づくりは基本から
小林 智子
京都生協副理事長
「売場づくりの知識」
鈴木哲男
日経文庫 1999年6月 830円
「スーパーマーケット」。 この言葉から浮かぶ風景があります。
昔見たアメリカ映画の一場面、 広い通路、 山と詰まれた商品の間を、
ゆっくりとカートを押しながら買い物する女性。
貧しかった当時の私たちにとって豊かさの象徴のような風景…。
いつのころかスーパーマーケットという形態が日本中に広がり、
それまであった市場や個人商店との濃密な関係の買い物スタイルに取って変わり、
人間的なかかわりを排除し、 あふれるばかりに豊かなものを消費する生活となりました。
そして…、 物をどんどん消費するという時代が終わった今、
どんな店が消費者の心をつかむのでしょうか。
この本の中にはそんな疑問に対するヒントがあるように思います。
「売場作りの知識」 というこの本は、 売場で商品を売る、
そのための売場作りの考え方やプロセス、 テクニックの基本をまとめたものです。
「売れない」 のではなく、 「売らない」 「売りこんでいない」
のではないか。 お客にとって買い物は楽しいか、
店で働く人はハッピーなのかと問いかけています。
買い物の楽しさ、 喜びをどうつくるのか。 期待を裏切らない品揃えや鮮度のよさ、
魅力のある生活提案を売り場で実現する。 そのために何をするのか何が必要なのか、
商品の選択、 レイアウトや陳列の基本、 ビジュアル・マーチャンダイジングの手順などがわかりやすく書かれています。
もちろんその根本は価値ある商品があること、
商品についての知識を持っていること、 そしてお客の願いや地域のくらしをよく知ることだということはいうまでもありません。
また、 店で働く人にとって、 売場作りは楽しい仕事でなければならないとも言っています。
店でお客とふれあいながら、 自分の仕事がお客の暮らしに役立っているのかどうかを知ることができる。
そしてその努力の結果を数字によって見ることができるのです。
この本を読むと、 私たち消費者の心をつかむ店の姿が浮かんできます。
今生協の店舗では、 厳しい経営状況の中で、
日々悩みながら様々な取り組みが行われています。
困ったとき、 迷ったとき、 そんな時いつも言われる言葉、
それは 「原点に戻る」 です。 売場作りの基本に磨きかけること、
基本を徹底してやりきること、 それが買う楽しさや働く喜びを実現し、
消費者に支持される売場を作るもっとも確かな道だと納得させる一冊です。
(鈴木哲男さんは、 月刊 『生協運動』 誌で 『生協店舗の強化策』
を連載中。 全国の生協の店舗診断を実施しています。
編集部)
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