1999年10月号
特集

高齢者自身による"協同"の取り組みを探る
高齢期の新しい生き方
-独立・参加・ケア・自己実現・尊厳-


今年は国連の 「国際高齢者年」 であり、 高齢者をめぐるさまざまな活動に脚光が集まっている。 高齢者問題も、 それを 「介護」 とイコールの関係でみるのではなく、 「高齢者のための国連原則」 にもうたわれているように、 「独立・参加・ケア・自己実現・尊厳」 という高齢期生活の質を全体としていかに豊かにしていくか、 という視点で考える必要がある。 そこで、 今回は 「高齢者自身による主体的な活動」 に注目した。


「大阪高齢者協同組合」
高齢者協同組合のめざすもの
高齢者協同組合は現在25の都道府県で設立されており、 そのうち10の都道県は生協法人として認可されている (1999年9月現在)。 労働者協同組合連合会が 「高齢者の生活全般を支えるための協同組合」 の設立を構想したのがそもそもの発端である。 その視点は 「働く」 こと抜きには高齢者の生活は考えられないという思いであり、 また、 働くことで 「役に立つ・社会に参加する」 ことに意味がある。 しかもそれを、 ボランティアではなく、 仕事づくりを通して実現しようとしている。 そして 「寝たきりにしない・させない」 という理念から、 困った時には助け合えるという安心感をもたらす事業・活動を行う。 これらが高齢者協同組合の共通した方針であると岩浅えり子さん (大阪高齢者協同組合専務理事) は語る。

地域に支えられる事業作りをめざして
大阪高齢者協同組合が実際に発足したのは1997年9月である。 96年12月頃から大阪府下各地で地域懇談会を開催し、 少しずつ賛同者を集めつづけ、 現在の組合員は700名までになった。 40代から60代の組合員が多く、 下は18歳から上は90代に至るまで、 その世代も社会的背景も多様な構成員からなっている。 また、 当面は公的介護保険制度のもとでの福祉事業がその中心に据えられている関係から、 現在は 「ケア・ワーカー」 として働く40代の女性の参加が増えている。
現在実施されている事業には、 組合員がその人脈を生かして企業とタイアップした仕事づくりをする 「研究開発事業」、 ニューズレターを発行する 「出版事業」 等があるが、 ここでは当面の中核事業である 「福祉事業」 について紹介したい。 これは 「ほっとステーション」 というヘルパーステーションも含む地域福祉事業所を設置し、 そこを拠点として介護等のサービスを提供するものである。 現在は平野区 (大阪市) と御殿山 (枚方市) の2カ所に設置されている。 そこでの運営には 「ワーカーズ・コープ」 という形態が採用されている。 これは 「雇う・雇われる」 の関係ではなく、 労働者自身が出資し、 運営に責任を持って働くことができるという方式である。

自立へ向けて
今後、 ホームヘルパー養成講座を実施している地域すべてで地域福祉事業所を立ち上げることが当面の目標である。 そして事業を通して、 いかに地域での信頼感を築き上げることができるのか、 また事業自体が成り立ち、 仕事づくりの目標が達成されるかが鍵になる。 また、 公的介護保険制度の枠内での事業にも参入するが、 利用者本位の制度を参加によって自分達で創る、 また作り直す仕組みを築きたいという。 組織的には、 生協法人認可をめざして、 どれだけ多く賛同者を集めることができるかが目標である。 現在、 労働者協同組合から人的・経済的支援を受けているが、 数年のうちに自立することをめざして事業を展開している。


「京都シルバーリング」
「老」 は 「衰」 ではなく 「熟」 である
シルバーリングの使命は、 これからの高齢社会において当事者である中高年自らが自立し、 その持てる能力を発揮するための場づくりである。 現在は定年制という縛りのために、 豊かな情報と知識、 あるいは企画力を蓄えてきた世代が、 次のライフステージにおいて力を発揮する場が少ない。 その中でシルバーリングは、 「実年でこそできる仕事を一杯創っていきたい」 と主張する。 この理念は、 早川一光さん (京都シルバーリング会長) をはじめとしたメンバーの願いでスタートした。

シルバーリングを支える3つの柱
シルバーリングでは、 「活動」 「交流」 「仕事づくり」 の3つを大きな柱に据えている。 まず 「活動」 では、 史跡文化財を巡ったり、 国内外を問わず各地へのツアーを実施するなど、 外出して健康づくりをすることがメインのものと、 「ふれ愛塾」 という、 書道・絵画・英会話などを楽しむ講座が開かれている。 次に 「交流」 では、 新年会等の懇親会を通して、 会員どうしがお互いの関係づくりが目的となっている。 そして 「仕事づくり」 では、 自分の持っている能力を生かせる仕事を創造している。 その中でも現在最も活発なのが、 「毛筆グループ」 である。 これは、 高齢者が集まって、 毛筆の宛名書きや感謝状などの筆耕を受託するもので、 現在約百社以上からの受注があるという。

「実年でこそできる仕事づくり」 から
現在代表幹事の玉川雄司さんを中心とした10人ほどが仕掛け人となり、 1986年に設立された。 この事業に関心を持ったのが京都ライオンズクラブである。 その支援のもと、 企画されたのが 「実年者知恵の泉」 という、 自分の持っている技能や特技を登録し、 同じ技能を持つ者どうしが集まって事業を起こしていくというプログラムである。 この中から生まれたのが先述の 「毛筆グループ」 であり、 現在のシルバーリングを形づくるもととなった。 会の運営にあたっては、 「幹事会」 を中心に様々な事業や活動が構想されている。 現在、 会員は会の運営に関わる 「シルバーリング会員」、 様々な活動に参加する 「シルバーメイト会員」 あわせて200人前後で推移している。

さらなる発展をめざして
設立から13年、 「市民活動」 を実践し続けているシルバーリングは、 その組織と活動を展開したいと考えている。 組織の面では、 この意義ある活動を個人の力だけに依存するのではなく、 組織としての運営を安定的に行っていきたいという願いから、 現在特定非営利活動法人としての法人格取得を進めている。 活動の面では、 高齢者と他の世代、 特に若者との接点をつくりたいという観点から、 ホームページ作成などのプログラムが用意されていたり、 「企業社会」 から 「地域社会」 へのソフト・ランディングをめざし、 10月から 「定年男性のための料理教室」 が開催される予定である。
公的介護保険制度との関係では、 制度の枠内での事業に取り組むというよりは、 介護保険の隙間に対して取り組む 「高齢者の相談窓口になる」 という。 また、 より包括的なテーマとしてリバースモーゲージ (「住宅資産活用年金制度」 とも言う。 住宅を担保にして毎月お金を借り、 年金の不足分をカバーするもの。 死亡などで在宅ができなくなった時点で住宅を売却、 借入残高を清算する仕組み) や成年後見法などを含んだ総合的な高齢者支援システムの構築に向けて関係機関と取り組んでいく活動報告書を、 トヨタ財団よりの助成で1997年に出版した。 これらのプログラムを通して、 今後はより若い世代の高齢者や、 活動の意向の異なる人も巻き込んでいきたいという。


「下京区・高齢者福祉を良くする会」
福祉の課題を地域から
「下京区・高齢者福祉を良くする会」 は、 1997年2月に、 67人の会員で結成され、 現在は、 12団体95人の会員で構成されるまでになった。 下京区は、 京都市の中心部に位置し、 高齢化率も22%と京都市全体の16.6%より高い。 また、 独居老人も多く、 典型的な都心部である。 事務局長をされている中谷隆亮さんは、 88年に教師生活を定年退職されたあと、 年金者組合に籍を置く。 そこで、 年金の制度改正運動と同時に、 ボランティアや趣味の活動にも取り組むことになる。 しかし、 当時から高齢者が多い下京区には福祉施設がほとんどなく、 安心して暮らし続けるには、 自分たち自身が運動を作り出さないといけないと感じるようになり、 本会の結成に関わった。
運動の単位を中学校区にして、 主に4つの地域で活動が展開されている。 これらに共通するのは、 学習運動と福祉施設の建設を行政に求めていく署名活動、 そして行政との交渉である。 学習運動は、 特別養護老人ホーム (以下、 特養と略す) や老人保健施設の施設見学会と下京区全体を対象にした講演会、 各地域で介護保険などを中心にした学習会を重ねている。 そして、 この学習活動がエネルギーとなり、 学校の跡地や空き教室を利用した福祉施設の建設を求めたり、 地域の要求に応えて卓球同好会が廃校になった体育館を使用できるようにするなど、 単なる福祉の取り組みだけではない住民要求の実現に取り組んでいる。 また、 特養建設予定地の横を流れる西高瀬川に清流を取り戻そう、 散歩道をつくろう、 公園をきれいにしようなどと、 より住みやすい地域づくりの運動へ発展していく。
運動の結実、 そしてこれから
97年2月、 会の結成の数日前、 京都市民生局との交渉で、 特養の建設が明らかになった。 今後は、 この特養が地域の福祉の拠点になり、 周辺の環境にも配慮した建物になるよう、 建設計画を公開し住民の意見を反映させていく緊急要望を提出し、 そのためにも自分たちがこうしたいというビジョンを持てるよう学習活動に取り組んでいくことになる。


3つの実践から何を学ぶのか
それぞれの団体の持っている意義と今後の課題について、 浜岡政好さん (佛教大学教授・当研究所副所長) の解説をもとに読み解いていきたい。


「働くこと」 を通じての社会参加
~大阪高齢者協同組合
高齢者の 「仕事」 を軸とした活動は重要な社会的課題であるが、 これまでこの分野での取り組みは高齢者事業団やシルバー人材センターなどがある程度でそれほど多くない。 それは 「終身雇用」 型の定年による仕事からの引退という高齢期生活モデルが前提とされ、 高齢期も働きながら社会参加を続けるという生活スタイルは、 貧困や社会保障の不備という否定的側面からしか受け止められなかったことにもよる。 もちろん、 生活の必要に迫られて働き続けなければならない高齢者の経済的事情もなくなったわけではないが、 他方で、 高齢期が長くなるなかで従来以上に社会参加や生きがいという面から 「働くこと」 を位置づける必要性がでてきている。
高齢者協同組合の活動は、 高齢者自身が地域の人々と協同して、 地域のなかに仕事を創り出す活動であり、 地域社会の有用な役割の一端を担うとともに、 高齢者の社会参加や自己実現をはかれるということでは、 実に今日の社会的要請に応えた活動ということできる。 しかし、 「高齢者」 の協同組合として、 高齢者自身が理念のレベルだけでなく、 組織運営を含めて活動の実質的な主人公になるのはそう簡単ではない。 また活動の成否を決める最大のポイントは、 高齢者協同組合が高齢者が担うにふさわしく、 かつ地域に有用な仕事をいかに創出できるかであろう。 高齢者事業団やシルバー人材センターの活動がその努力にもかかわらずそれほど広がらないことからもわかるように、 高齢者にふさわしい仕事づくりは容易なことではない。
今後、 事業として力を入れようとしている在宅福祉サービスの領域でも、 高齢者協同組合がサービスの利用協同組合の側面を強化するのか、 「ワーカーズ・コープ」 のようなサービス提供協同組合の性質を強めるのかという問題がある。 後者の面を強めるとすれば、 高齢者自身を福祉サービスの担い手としてどのように養成し、 持続的に活動できるようにどうサポートするかが課題になる。
また福祉サービスの提供事業者として地域社会に登場すれば、 既にその地域で活動を行っている社会福祉法人などの事業者と競合関係になることも起こるであろう。 介護保険は多様なサービス提供事業者の参入を促しており、 その意味では手をつけやすい分野ではある。 しかし、 「措置から契約へ」 のスローガンの下に社会福祉領域で進められている 「構造改革」 によって、 福祉サービスの提供事業者と福祉労働者は二極化しつつあり、 福祉サービスのコスト・ダウンのためにケア・ワーカーの不安定・低賃金労働者化が進みつつある。
ケア・ワーカーの不安定・低賃金労働者との代替が難しい事業体は事業の継続が困難になっている。 そのため、 これまで在宅サービスの担い手として大きな役割を果たしてきた社会福祉協議会などは介護保険下での事業に見通しが立たず、 サービス提供事業から撤退するところも少なくない。 こうした状況下の高齢者協同組合への期待は、 既存の地域の零細事業者などと仕事を奪い合うような競争ではなく、 地域のなかで高齢者の暮らしを支える活動を担う者同士として、 サービス提供事業者やサービスを利用する地域住民のネットワークをつくることに力を注いで欲しいことである。


「自分たちで創る社会的なつながり」
~京都シルバーリング
設立趣意書でうたわれている 「企業社会から地域社会へのソフト・ランディング」 という理念は実に魅力的である。 その理念は、 設立後13年が経過した今でも決して輝きを失ってはいない。 しかし、 「こうしたい・これをめざしている」 ことと 「今やれていること」 は必ずしもイコールでない。 設立趣意書に掲げられた理念がこの間の活動でどのように具体化され、 実現されたか、 何をなし得ていないのかなど、 現在の到達点を検討し、 教訓を学ぶ必要があるだろう。
「シルバーリング」 は、 その活動を通じて高齢者同士の多様な関係をつくるための役割を果たしている。 高齢者自身が自分たちで企画し、 運営して、 自分たちで楽しんでいる、 という自主性の高さは、 「お世話してほしい」 型の高齢者像からは一線を画しており、 大いに評価できる点である。 自分の住んでいる地域で、 励ましあいの参加の場を自分たち自身で築いており、 孤立しがちな高齢期を豊かに過ごしている。 また、 老人クラブなどの高齢者の活動と比べて、 その活動内容は実に多面的であり、 運営の仕方も柔軟である。 それは行政機関等からの補助金をあてにせず、 事業収入や会費などによって財政的な自立性を確保していることによるものと思われる。
この 「シルバーリング」 の活動は、 共通の生活スタイルを共有するアソシエーション型の組織活動である。 そのために、 活動する高齢者が自動的に加わるということにはならない。 地域性ということでは、 地域性の希薄さが一つの特徴になる。 しかし、 高齢者も加齢とともに活動空間が狭域化せざるを得ない。 生活空間の狭まった高齢者に活動の場をどのように提供できるか、 また会の理念に共感する新しいメンバーをどう見つけていくことができるか、 など組織の存亡にかかわる課題がある。 この点で 「シルバーリング」 はNPOへの道を志向しているようである。 活動力のある若い世代の力を借りて、 事業を持続的に行うには妥当な方向であろう。 この場合、 高齢者が 「お客さん」 にならないような活動上の配慮が必要になってくるであろう。


「福祉を地域の政治的テーマに」
~下京区・高齢者福祉を良くする会

福祉は本来、 限られた社会資源をいかに国民の間に配分するかという極めて政治的なテーマである。 そのことは介護保険をめぐる政府や政党、 社会経済諸団体、 地方自治体、 住民運動団体などのこの間の動きをみれば一目瞭然である。 しかし、 自治体レベルや居住している小・中学校区のような草の根レベルでは、 非政治的な、 政治的党派を超えた課題であるかのような思いこみがある。
福祉をあえて政治的テーマとして草の根レベルで語ることは、 これまでの住民感情からすれば受け入れがたいことであろう。 しかし、 現実にどこの地域に、 どの施設を建てるか、 どのような福祉サービスを、 どの程度用意するか、 運営の費用はどうするか、 などすべて政治的な意思決定にもとづいて行われる。 「下京区・高齢者福祉を良くする会」 の活動は、 高齢者自身が地域の住民をまきこんで、 福祉を意識して地域の政治テーマとして語っている。 これは福祉に対する一つの見識であり、 他の団体にはない特徴である。 今日、 地域の政治的意思決定に地域住民として積極的にかかわること、 特に福祉のような住民の日常生活を直接左右する課題に、 当事者として自分の意思を発言することは極めて大切である。
現在の活動は主として行政への要求や署名を集めることである。 こうした活動は住民の意思表明の手段として基本的な活動である。 活動の次のステップとしては、 京都の下京区という地域にしっかりと根を下ろした団体として、 地域固有の政策提起やプランをつくり、 住民合意をつくりだすことを期待したい。 そして、 このためには住民組織のあり方も転換を求められるだろう。
「下京区・高齢者福祉を良くする会」 も年金者組合等の全国的団体の地域支部などが寄り集まって結成されている。 特定の要求テーマをもった全国団体の地域支部が、 地域のなかで連携し、 いかにして地域の団体として、 地域で活動できるかが問われている。 その際に、 単に地域支部のネットワークにとどまらず、 テーマに関心を持っている個人を軸に再組織する必要性がある。 「下京区・高齢者福祉を良くする会」 のように、 中学校区レベルでの活動になってくると、 団体の地域支部メンバー以外の活動の担い手を確保することが切実な課題になってくると思われる。


福祉は自分たちで創りあげる
いずれの活動も、 その意義のすばらしさと同時にまだ成し遂げられていない課題を多く残している。 ただ、 これらの団体に共通しているのまだ発展途上であるということである。 発展途上というのは、 活動の担い手や地域住民の願いによって、 その地域にふさわしい形に持続的に発展を遂げていくということである。 これらの団体がすべて協同組合を名乗っているわけではないが、 地域へ関心を持ち続け、 地域にこだわって活動を続けているこれらの団体から協同組合が何を学べるか、 各地での議論を期待したい。



特集で取り上げた団体の連絡先

・大阪高齢者協同組合
〒553-0003 大阪市福島区福島5丁目13-18 福島ビル403号
電話 06(6452)1160

・京都シルバーリング
〒604-0934 京都市中京区麩屋町通二条下る
電話 075(223)5282

・下京区・高齢者福祉を良くする会
〒600-8454 京都市下京区若宮通五条上る 中谷隆亮さん方
電話 075(351)5813 




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