1999年8月号
視角
NPOインターンシッププログラムと学生の学び観
赤澤 清孝
「書を持ってまちに出よう」
京都は 「大学のまち」 と称されるように、 府内に48の国公私立大学が存在し、
140万人の人口の約10%を大学関係者が占める。
こうした現状を踏まえて設立されたのが 「大学連携組織」
である大学コンソーシアム京都だ。 現在46の大学が加盟し、
これまで単位互換制度や社会人教育などを事業化してきた。
そして98年度より行われたのがこのインターンシッププログラムである。
近年、 ビジネス分野を中心に盛んになってきたインターンシップであるが、
大学での学びの実感を希薄に感じている学生が、
社会に内在する矛盾や葛藤に対して活動を行うNPOでインターンシップを行うことはビジネス以上に大きな教育的価値があると考える。
98年度は、 プログラムのコンセプトを 「書を持ってまちに出よう」
と定め、 17のNPOの協力を得て、 受講生34名で取り組んだ。
「書」、 すなわち現場で必要な知識をもって 「まちに出よう」、
インターン先で活動しよう、 ということである。
そして、 ほとんどの学生が未経験なので、 NPOインターンシップの意義・意味を高めるために、
プログラムは事前学習・実習 (インターン) ・事後学習によって構成した。
プログラムでは最終的に参加者の 「インターンレポート作成」
を義務づけ、 積極的な指導を行った。 このレポートをもとに参加者自身は受け入れ団体でプレゼンテーションをし、
最終総括を行う。 この一連の過程が本プログラムだ。
以下で、 参加した学生がそのNPOインターンシッププログラムによって何を得たのかということと、
NPOインターンシップよって明らかになったNPOの教育力を簡単に示したい。
参加者の動機と現場での学び
学生の出願票から見るNPOインターンシップへの参加動機は、
「現場で学びたい」 「就職へのこやしにしたい」
がともに25%を占め、 「NPOについて知りたい」
(16%)、 「興味のある分野の知識を獲得したい」
(13%)、 そして 「他大学の人とともに学びたい」
(9%) と続く。 こうした参加動機の学生たちが、
環境保護やまちづくり、 ジェンダー、 国際協力など様々なテーマをもった団体でのインターン活動を行った。
全ての活動の様子を紹介したいが誌面の関係で一例のみ以下に挙げる。
大阪の高齢者協同組合でインターンを行った学生は、
どうすれば高齢協は地域に根ざした事業ができるかという問いをたて、
そのためには 「地域センター」 がたまり場になっている現状を、
そこででた会話や意見から課題を発見し、 地域に必要とされる
「事業おこしの拠点地」 に変えていくことが大切だという答えを出した。
また、 この学生は夏期休暇中に集中してインターンを行い、
配食サービスを任され1ヶ月間自転車で地域を走り回った。
その際に気づいたことは配食サービスの時に
「もっと高齢者の方と話す時間が欲しい」 ということで、
次にヒアリング調査を行うことにした。 そこで十分にできなかったコミュニケーションを行い、
現実の人と社会の制度を知ることができたのである。
例えば、 生活保護世帯の家族と会い、 行政の政策が人々の暮らしにいかなるインパクトが与えられたかを知った。
これによって学生は地域の人たちの暮らしを変えるためには社会の中にどんな仕組みが必要かを考えた。
こういう問題解決型の思考を展開するようになる。
自身と社会を知り、 ライフデザインへ
プログラムの最後に、 参加当初に聞いた 「NPOでインターンシップをする理由」
と同じ項目を用いて 「インターンシップしてよかったことを」
を選択式で聞いてみた。 その結果は 「いろんなことを学べた」
「自分を成長させることができた」 がともに25%で、
「社会の現実を知った」 (16%)、 「新しい分野に挑戦できた」
(14%) と続く。 「NPO分野」 への 「インターンシップ」
という未知なる体験をしたことによって、 学生は自分自身の無知に気づいた。
そして、 学生は社会や現場を構造的に理解しようと問いを立てていくことで、
暗黙のうちに絶えず 「なぜ」 を考える練習を重ねていった。
ファイナルレポートで音楽療法士やカウンセラーや保育士などの具体的な職名を挙げ、
自らのライフデザインをはじめている学生がいる。
単純に何かをしたいという思いが先行せずに、
次に何をすべきかを判断しているところが特徴的なNPOインターンシップの効果である。
これらの学生をはじめ、 本年度のインターン生たちが今後どのようなライフデザインを行うのか、
今後も着目していきたいと考えている。
あかざわ きよたか
(財)大学コンソーシアム京都
NPOインターンシッププログラムスタッフ