1999年8月号
人モノ地域
「国際協同組合デー京都集会」 より
21世紀、 高齢化社会とくらし
--各協同組合の実践に学ぶ
7月7日、 国際協同組合デー京都集会が開催された。
京都府協同組合連絡協議会が主催し、 午前中が
「協同組合女性交流会」 と 「環境問題と協同組合」
の2つの分科会、 午後から 「高齢化社会と地域・くらし--協同組合の役割」
をテーマにしたシンポジウムがあった。 シンポジウムではコーディネーターを上掛利博さん
(京都府立大学助教授・くらしと協同の研究所研究委員会幹事)
が行い、 京都府下にある4つの協同組合 (農協、
漁協、 生協、 森林組合) がそれぞれの取り組みを報告、
交流した。 その中でコーディネーターの上掛さんは、
高齢化社会だからこそよりよい地域社会を創るチャンスだと強調した。
あらためて、 協同組合としての役割を考えてみたい。
京都JA会館を会場に開催された第10回国際協同組合デー京都集会のシンポジウムは、
4つの協同組合から約140人が参加した。 主催者より京都府生活協同組合連合会の吉田智道会長理事が挨拶の後、
シンポジウムが始まった。 閉会にあたっては、
京都府農業協同組合中央会の中川泰宏会長より挨拶があった。
各協同組合からの報告
はじめに、 やましろ健康医療生協の行松龍美専務理事の報告があった。
やましろ健康医療生協は1994年、 京都府南部の宇治市に設立。
現在組合員が約3400世帯になっている。 行松さんは、
地域で高齢者のおかれている現状をのべ、 その上で医療生協の基本的な考え、
病気の治療と同時に健康作りを重視し予防を大事にしていること、
高齢者を真ん中において地域でどう関わりを持っていけるか、
地域でのネットワーク作りを大事にしていることなどを話された。
次に、 JAからJA京北町の橋本小夜子生活指導員が町とホームヘルプ事業の業務委託契約を結ぶまでの取り組みを報告した。
JA京北町では、 JA京都中央会主催のヘルパー養成講座に参加したメンバーが23人になり、
自分たちで何か始めたいと1993年、 町の社会福祉協議会の入浴サービスのボランティアから出発した。
その後、 特別養護老人ホームで介護実習を開始。
1997年、 JA京北町高齢者助け合い組織 「虹の会」
を結成し、 ボランティアと勉強会などをしながら行政への働きかけをしたが、
実績がなかったため町の委託を受けられず、 98年3月に有償のボランティアをはじめた。
その取り組みの結果、 年末には町より依頼があるようになった。
99年4月に正式に町と委託契約を結んだ。 橋本さんは、
自分たちの思いから出発したが、 高齢者と接する中で高齢者の実状を町とねばり強く話し、
トップの強力な後押しもあり、 行政を変えていったと話された。
京都府漁業協同組合連合会からは、 指導課の濱中貴志さんが、
魚価安と生産の減少、 後継者が育たない漁村の厳しい現状を報告した。
しかし、 漁業は定年制がなく生涯現役で働けることや、
加工品の生産で就労機会を創り、 地域に残っている共同体を発展させて、
地域の助け合いをすすめたいと話した。
最後に、 森林組合から山城町森林組合の木村浩三代表理事組合長が報告した。
木村さんは、 木材価格の低迷が組合には致命傷になっている現実を話されたが、
昨年の森林組合法の改正により、 「竹炭」 などの竹材加工品を作ることで、
山の良さがわかってきた。 また、 地域住民が山への愛着が離れていく中で、
どうしたら地域と組合が一緒になれるか考え、
今は森林ボランティアを結成して、 市民とボランティアが一緒になって町の森林公園で活動するようになった。
その中で地域住民が再度里山のよさを見直してもらうきっかけになったと報告された。
これらの報告をうけて上掛さんがコーディネーターとしてのまとめを行った。
実践から学ぶこと
やましろ医療生協が、 健康作りを大事にしていることはひとつのポイントである。
今はどこでも介護保険の準備に追われており、
視野が狭くなっていて、 保険の中でしか考えられていない。
ぼけない、 寝たきりにならないためにはどうするかということとセットで考えないといけない。
その際、 専門家と本人、 家族、 地域の協同が大事で、
適切な規模を考えた隣近所の福祉ネットワークを大切にしたい。
地域には、 ちょっとした生活の助け合いがあれば寝たきりにならない人がいっぱいいる。
この 「ちょっとした助け合い」 の事業化も地域では考えないといけない。
JA京北町からは、 自分たちの願いを出発点にし、
住民自身が福祉を創っていくこと、 それを行政が応援するようにまでなったことが話された。
自分たちが福祉に関わる中で地域の制度を見直し、
提案していくきっかけになっている。 そして、
利用者に喜んでもらっているという実績を積んで、
住民の支持を得てそれを行政に働きかけ、 制度や担当者の意識を変えてきている。
福祉の主人公は住民自身だから、 必要ならば自分たちの思いを地域に明らかにし、
合意を得ながら新しい福祉を創っていかなければならない。
漁連からは、 地域の共同体は一人ひとりに合わせて、
高齢者が自分の役割を見つけて生涯仕事ができるという視点が話されたし、
森林組合からは、 地域住民が森林ボランティアとの関わりの中で、
自然の良さを見直すようになったという住民の変化と協同組合の役割について話された。
高齢化社会の真の意味
今日のテーマは、 「高齢化社会と地域・暮らし」
だが、 高齢化社会は、 自分たちの地域や暮らしを見直すチャンスだし、
これまでの日本の経済社会のあり方の反省が迫られていると思う。
少し立ち止まって振り返ると、 人間として大事なもの、
人と人との結びつきや自然との結びつき、 お金では買えないが協同で大事に育てなくてはいけないものや、
協同で取り組むことで人間が幸せに感じられることなどがたくさんあるのではないか、
という 「くらしの見直し」 が迫られている。 これが、
90年代の高齢化社会の意味である。 21世紀には、
これから生きていく人間の新しい価値観が問われているのである。
主体的参加
協同組合に働いている職員が、 やりがい、 働きがいが感じれる仕事でなければいけない。
そのためには、 お互いの仕事を評価することが大事である。
評価の基準は、 今は市場やお金による評価が中心だが、
新しい評価基準を定めていく必要があるのではないか。
他の協同組合や地域社会、 他の事業主の人たちははどう見ているのか。
子供たちや老人、 女性、 障害を持っている人などの評価はどうか。
そして、 その情報を地域社会や行政にもつたえていくこと、
全国のネットワークで広く紹介していくことでいい仕事ができるのではないか。
しかも、 それは、 新しい物を創っていこうとする意欲にかかっている。
変化を作りださないと何も生まれない。 だから、
そこに関わる人が、 事業や活動の中で、 疑問に思った点、
問題点を率直に提起して、 新しい発想で福祉を創っていくことに主体的に関わることが必要である。
協同組合の独自性
社会の何が問題点か、 気づく内容は人によって違う。
ハンディーを持っているが故に気づくこともある。
高齢者や障害を持つ人たちは、 権利を持っているだけではなく、
気づいたことを社会に問題提起する義務がある。
そして、 ハンディーをなくすための支援を社会が積極的に行う責任があり、
そうすることでよりよい社会になれる。
そのなかで、 協同組合が取り組む福祉は決して国や自治体の下請けではない、
独自の意味を持っている。 公的な福祉がいくら整備されても、
自主的な活動がなくなることはない。 協同組合は、
サービスを受ける人と提供する人の距離が近いし、
小規模のメリットも生かすことができる。 人間のニーズはコンピューターで計測できるような物ではなく、
曖昧で、 日々変化する。 そういう曖昧なニーズに柔軟に対応できる仕組みを地域に創ることが可能である。
はじめはカンパ集めなどもしないといけないかもしれないが、
将来的には財政の裏付けのもてるように育てていくことと、
同時に公的な制度にも高めていく努力の両方を進めていく必要がある。
高齢化社会は、 くらしや地域を変えていくチャンスだから、
そこでの協同組合としての独自の役割が問われているのではないか。