1999年8月号
書評2

ノーマライゼーションから協同組合が学ぶこと

近藤 祥功  
くらしと協同の研究所事務局


生協組合員による福祉活動は大きなうねりになっている。 「くらしの助け合いの会」 がある生協は、 全国で67生協 (98年度、 日生協福祉事務局調査より、 以下同じ)、 会員が47516人、 活動時間が972354時間である。 そして、 それを土台にした福祉事業は、 ホームヘルプサービス事業を98年度までに開始したのは4生協、 2000年度までに18生協に増えることが予定されている。 これは、 日生協がホームヘルプサービスを事業化の 「推進軸」 (生協・福祉政策検討委員会答申書、 P13) とし、 ヘルパーの養成講座と併せて最優先の事業課題としたことにもよる。
しかし、 先進的な事例は全国的に広まってきたが、 地域の特殊性を生かした実践の報告はまだ少ない。 生協の福祉はどこへ向かおうとしているのだろう。
私は、 介護保険を目前にしたこの時期だからこそ協同組合の原点に立ち返って考えるときではないかと思う。 なぜ生協が福祉活動にとりくむのか、 地域住民にとってどういう意味を持つのか、 どういう方向をめざすのか。 その際に、 本書はこういった問題に理論面で大きな貢献をあたえるのではないかと思う。 ノーマライゼーションの考えは、 単に福祉の問題だけでなく、 協同組合運動のあり方にも大いに参考になる。
本書は、 1989年から1999年までに著者が発表した論文を集めているが、 その年代の状況に規制されない普遍性をもっている。 共同作業所運動を取り上げた2章 「福祉の民主的再生と主体形成」 は、 1990年の執筆だが、 現在各地で進んでいる小規模のグループホーム、 宅老所作りの運動や協同組合運動にとって、 先行する共同作業所運動から実践的に学ぶ点は今でも多い。 また、 協同組合に直接言及したのが3章と7章である。 3章の 「福祉供給システムの転換と非営利・協同組織の役割」 の中で、 供給システムとしての協同組合の役割について理論的解明をし、 期待もしているが、 7章の 「介護保険制度の導入と協同組合の課題」 では、 措置制度やサービスレベル向上のための 「競争信仰」 に対する日生協の姿勢を批判し、 協同組合としてのアイデンティティを発揮しないと存在自体の危機につながると警鐘を鳴らしている。 生協らしい福祉事業は、 老人居宅介護事業をどう実践するかという、 組み立てる側からの発想ではなく、 地域の暮らし、 組合員の暮らしの視点から組立てることが求められているのではないだろうか。
理論だけでなく実践的課題をも明記した本書は、 福祉関係だけでなく生協関係者にとっても興味深いといえよう。 各地の協同組合の福祉政策や実践が、 ノーマライゼーションの方向に向いているのか、 著者の言う 「福祉協同運動」 との関連での検討をすすめていく必要があるように思えた。

ノーマライゼーションの理論と政策
鈴木勉著
萌文社 2400+税




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