1999年8月号
書評1

消費者運動とは、 市民運動とは何か、 問い続ける

井上 史   
ライター



消費者運動・88年の歩み
野村かつ子著
おもだかブックス 1999年3月 2500円


本書は消費者運動の草分け的存在、 野村かつ子さん半生の自叙伝である。
今日 「消費者」 や 「生活者」 「市民運動」 「草の根」 といったことばが幅広く私たちのくらしの中に根づくまでに、 いかに多くの先駆者たちの闘いがあったか。 野村さんの若々しく率直な語り口から、 はじめの小さな水路がうがたれ、 幅を広げて豊かな水脈に育ってきたかが伝わる。 と同時に、 常にその時代の運動の本質を問い質し軌道を選ぶことで、 消費者運動、 市民運動の質的変化を照らしてきたとも言えよう。
本書は3部構成で、 第1部は1910年、 京都・西陣の商家に生まれ、 同志社大学でコミュニズムの影響をうけたCSM (社会的キリスト教運動) の指導的存在・中島重らに学び、 戦禍のなか、 賀川豊彦の主宰する江東消費組合に参加するまでの思想形成時代。 実姉鑓田貞子が関わった日本消費組合婦人協会 (日消婦協) における関消連系組合と家庭購買組合との主導権争いや、 京都家庭消費組合の分裂事件について、 関係者の証言をまじえた記述については、 戦前の消費組合運動史の中でも論議あるできごとだけに、 今後の検証材料となるであろう。
第2部は戦後、 日本生活協同組合同盟、 婦人職業協会、 婦人有権者同盟を経て、 総評主婦の会オルグとして活動した1969年までと、 国際消費者運動の高まりの中で、 特にIOCU (国際消費者機構) の指導者たちとの交流が中心になる。 「大学出の私を完ぷなきまですっ裸にしてくれた」 総評主婦の会での労働者婦人らとの共闘では、 もっと具体的な体験談があろうと想像される。
第3部は、 アメリカの消費者運動家ラルフ・ネーダーを日本に紹介するなど、 国際的消費者運動、 市民運動、 環境保護運動の中に 「デイリー・デモクラシー」 を根づかせるための活動を振り返る。 日本消費者連盟の設立に関わり、 海外市民活動情報センター (1975~1998) を支え、 一方山梨県の 「田舎の学校」 での市民たちとの交流がある。 全世界、 地球を視野に入れながら、 足下の地域を大事にする姿勢と、 運動の官僚化をもっとも嫌悪し、 常に 「市民」 としての原点を忘れず、 「官に頼るな、 自分で行動せよ」 と警鐘を鳴らし続ける野村さんのメッセージは、 来世紀にも通じるであろう。
B5版120頁の本書では、 とても語り尽くせない行動力である。 ぜひとも続稿を期待したい。 野村さんの活動と日本、 世界の情勢とをリンクさせた年譜や海外の活動家についての略歴紹介があれば役立つだろう。 なお戦前京都での消費組合運動に関する貴重な写真も多い。




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